第10話 魔法実習、始まりますわ!前編
私とクロエが学校に入り、生徒会としての業務を行うようになってから、1か月経過した。仮入部扱いだった私たちも正式に入部を果たしたことになり、学院の授業が終わった際には生徒会に顔を出し、書類仕事をするという日々が続いている。
ナッシュとフラメアも生徒会の業務慣れてきたようだ。与えられた仕事をきっちりとこなしている。
「そういえば、そろそろ校外学習だな」
ナッシュが口を開き、そのように言う。
校外学習とは、魔法の実地訓練を行う学習の事で、3日ほど街の外でみっちりと魔法の特訓をすることになっている。
この学習には、増えすぎた魔物を間引くという大事な役割もあるらしく、私たちの魔法力向上・増えすぎた魔物の駆除の2点を担っている大切な行事だ。
1年生、2年生の合同で行われる訓練であるため、戦闘訓練を既に受けている2年生が魔物の駆除を担い、1年生はそのサポートとして行動するというのが通例となっている。
「ナッシュさんはどのような組み分けだったのですの?」
「私はハリアー様と一緒の組になった。、、、正直、すごく緊張している」
この場にハリアー様が居たらそんなことは中々言えないだろうが、今日は2年生は校外学習の準備をしているため、この場にいない。ナッシュは少し気が緩んだのだろう。私たちに本音の部分を打ち明けてくれた。
「私はマリア様とフィオナ様のお二人が組に居ますの」
ニコっとした表情でフラメアがそのように答える。どうやら、比較的生徒会メンバーでの編成となっているようだ。偶然なのだろうか?
「ところで、セシリアさんとクロエさんはどうなんですの?」
「私とセシリア様は同じ編成で、2年の方はたしか、、、」
「バラン・オーギュスト様ですわ」
私とクロエはそのように答える。
正直、バラン様の情報は全く分かっていない。ただ、どのような方であれ、私たちはサポートを頑張る必要がある。この校外学習についても評価の項目に入っているのだから。
「バラン様、、、どこかで聞いたことがあるような、、、」
ナッシュは少し考え込んでいる。が、答えは出てこないようだ。
「たとえどのような方であろうと、私はセシリア様が一緒に居てくれるので、それだけで百人力です」
「まあ、クロエったら、、、」
どうやら、クロエは私に対し全幅の信頼を寄せてくれているようだ。
――その期待に応えていきたいですわ・・・!
頑張ろう、、、私はそのように考えていた。
◇
~ハリアー視点~
「――――――っ!」
私は動いている的に向かって、雷の魔法を発動させる。今は校外学習に向けて、魔法の調整を行っている段階だ。
私の放った魔法は縦横無尽に動く的の中心部に的確にヒットした。
今回は生徒会に顔を出すことなく、魔法の腕を徹底的に磨く訓練をこなしている。
「ヒューッ!流石は第二王子様だ」
「む、バラン、、、。そなた私をバカにしていないか?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ、、、と」
バランは少しおちゃらけた雰囲気を醸し出しているが、縦横無尽に動く的に対し的確に魔法を当てている。
――こやつの魔法に関する実力はピカイチなのだが、、、この性格さえなければ、、、
「バラン、そのおちゃらけた性格を何とかしろ。というか、なぜ生徒会に顔を出さない?」
「殿下、そりゃあ他にやることがあるからさ」
「どうせ女生徒を口説きまわすので大変なのでしょう」
同じく訓練を行っていたフィオナはバランに対し呆れたように言っている。
「フィオナちゃんは痛いところを突くねぇ、、、。まあ、そんなフィオナちゃんも素敵、、、!」
「そろそろ黙って貰えますか?集中できないので」
フィオナは辛辣な一言をバランに浴びせる。バランは少しがっかりした表情を浮かべていたが、「へいへい、分かりましたよ」と複数飛び回っている的に対し、複数の魔法を展開して撃ち落としている。
「はい!今日のノルマは終わり!では、殿下、フィオナ。ごきげんよう」
左手を胸にあて、右足を後ろに下げながらバランは私とフィオナにわざとらしくお辞儀をした後、訓練場から去っていった。
「はあ、あの性格さえなければこの学園随一の魔法の使い手なのに、、、」
フィオナは呆れた表情でそう言いながら、訓練を再開した。
「私もそう思うよ、、、」
――たしか、バランの組は、セシリアとクロエの2人だったよな。まあ、あの二人なら何とかなるか、、、
一抹の不安を抱えている私だが、今回はセシリアとクロエを信じることにしよう。
◇
~校外学習 当日~
――さあ、今日から3日間、校外学習が始まりますわ!
私とクロエは既に校外学習の集合場所に到着している。そこからバラン様を待つが、5分、10分と待ってもバラン様は現れず、待ちぼうけを食らっていた。
「あれ?集合場所ってここで合ってますよね?」
「え、ええ、、、間違っていないはずですが、、、」
私とクロエは流石に不安を抱くが、集合時間と場所はやはり間違ってはいない。
――なにかあったのかしら、、、?
そう考えていると、ようやく「悪い悪い!ちょっと野暮用で遅れた!」とバラン様がヘラヘラしながら小走りでこちらに向かってくる。
――はあ、ようやく来ましたわ
「ごめんごめん、ちょっとそこいらで女生徒を口説いてたらこんな時間になってしまった」
――うん?この方は一体何を言っているのかしら?
私とクロエはジト目でバラン様を見る。
バラン様はその視線をものともせず、「じゃ、張り切っていくか~!」と私たちの先頭に立ち、街の外に出るために門をくぐる。
「バラン様、改めてよろしくお願いいたしますわ。私は――」
「おお、セシリアちゃんとクロエちゃんだろ?知ってるぜ?二人とも1年の中で突出した魔法を使うことができるって聞いてるな」
「二人と組むって知った時、ラッキー、俺今回楽できるじゃんって思ってたしな」
――、、、この2年生はどうやらダメ人間のようですわ
私はこれからの3日間を考え、ため息を漏らす。
そんな私を見て、「俺もそこそこ動くと思うから、大丈夫だって!」とバラン様の謎フォローが入る。
さあ、そろそろ西の森の入り口だ。どこから魔物がでるか分からないから、ここからは気を引き締めていかなければ、、、!私はそう考えていた。
◇
森に入ると、虫たちの声はそこらかしこから聞こえてくるが、まだ魔物は出てきていない。
一応注意しながら進んだ方がいいだろう。
警戒しながら進んでいると、バラン様が突然、「お、あそこに小型の魔物がいるぞ!」と森の奥の方を指さす。
私とクロエにはまだその魔物の姿は見えていない。
「じゃあ、二人でぱっぱと倒しちゃって。俺はしっかり見ておくから」
と両手を頭の後ろに廻し、鼻歌を歌いながらバラン様が言う。
クロエは杖を構え、既に詠唱を行う準備をしている。私も両足に魔力を込め、いつでも戦える姿勢でその方向に近づく。
警戒しながら進んでいると、角を生やしたウサギ型の魔物が2体いるのが視認できた。
私たちが視認した途端、魔物側もこちらの存在に気が付いたようで一直線に突っ込んでくる。
「クロエ!」
「はい!――――っ!」
クロエは水魔法の呪文を唱え、魔法を放つ。1匹にヒットしたが、もう1匹はこちらに突っ込んできている。
私は突っ込んでくる魔物に対し少し前に出て応戦をする。
魔物は頭に生やした角をこちらに向け突っ込んでくるが、私は少し横にステップし、すれ違いざまの魔物に対し下から蹴り上げるような形で魔物の腹部分に蹴りを命中させる。
私の蹴りが命中した魔物はきゅ~~っといった声をあげ、絶命した。
「二人とも、お見事!」
その様子を見ていただけのバラン様はにへらと笑みを浮かべ、私たちに拍手を送っている。
――本来私たちがサポートのはずなのに、なぜかメインで戦っていますわ、、、
「バラン様は戦闘に加わらないのですか?」
戦闘を終えたクロエはバラン様に対してそう尋ねる。ジト目で尋ねていることから、少し怒っているようだ。
「1年生に経験を積ませることが大切だからな!俺はゆっくりできる、1年生は経験を積める、どちらにとっても良い環境じゃないか?」
――、、、根っからのダメ人間ですわね。
私は額に手を置き、はぁ、、、とため息を漏らす。
それから森の中を歩いて魔物と遭遇した際にも、同じように私とクロエがその対処にあたり、バラン様はただ拍手をしながら見ているだけであった。
それから夕方近くまで魔物を倒しまわった後、「じゃあ、今日はこの辺で終わりかな~」とバラン様は街の門へと足を進めていき、私たちとバラン様は門を入ったすぐあたりで別れた。
「ええ、、、と、今日は私たちだけで戦いましたね」
「ええ、そうね。バラン様は全くやる気がないようですわ、、、」
私は明日からの実習に少し不安感を覚える。
――まあ、幸い私とクロエで対処できているからいいんですけれど、、、
私はクロエと別れ、馬車に乗って家に戻っていった。
◇
~クロエ視点~
――バラン・オーギュスト様、、、ゲームでは隠しルート扱いのキャラで、全ルートを制覇する前に死んでしまった私にとっても分からないのよね。
そう、バラン様は他キャラを全クリした後に出てくる隠しルートのキャラであり、どのような人物なのか、私自身も知らないのだ。
けれども、今日分かったのは”やる気がない”ということだ。まさか後輩二人に任せて自身は何もしないという選択肢を取るとは正直思っていなかった。
セシリア様が魔物に対し凛とした姿で戦っていただけに、バラン様の何もしなさが強調された形だ。
――でも、バラン様ルートを辿った友達が言うには、バラン様はギャップ萌え!と言ってたんだっけな?
そのようなギャップを感じることは皆無であったが、もしかしたら秘めた力を持っているのかもしれない。
それに、私たちが魔物を見つける前に、また、魔物が私たちを見つける前にバラン様は先に魔物の存在に気づいていた、ということもある。
明日からの実習に少し不安感は残っていたが、――まあ、大丈夫か。私はそう考え、明日も早いため早々に眠りについた。