Godbwye
彼女は床に突っ伏してうずくまって、顔は見せずにただ、泣いていた。
床に散らばる黒髪のポニーテールが、場違いに艶々と輝きを放つ。
「……っ、放っておいてよ」
「でも、君、そんな状態で」
「うるさいったら!慰めなんか……そんなもの、要らない。要らない…もどら、ない、何も」
最後は声が震えていた。強気な声も、それでも顔を見せずに泣こうとする気位の高さも、どれも彼にとっては美しい。
「あぐらを……かいていたんだと……思う。人生に。わたしの、あのひと、の、人生に」
ぐい、と顔だけを上げて彼女は前を睨みつける。
「こんなに唐突に、全てが消え去ったのよ。全てが。壊れるとかそんなものじゃなくて、まるで初めから……なかった、みたい、跡形もなく消えたみたいよ」
自分を責める気持ちと、世界を恨む気持ちと、神様を呪うような気持ち。
そんなことしたって何もならないこともわかっていて、でも、そうしたいくらいに、そうしなければ自分の人生自体を保っていられないくらいに、彼女は今この瞬間の心の整理ができなかった。
「……ねぇ、こんなふうに痛い思いをして、苦しい思いをして、強くなっていくの?」
黙って髪を撫でてくれる手があたたかくて、人間の温度を感じた。生きている、人間の。
「それなら私、強くなんかならなくてよかったのに。ずっと、こどものままでよかったの、に」
ただ、風だけが通り抜けていった。