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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

兄妹ステップ 

掲載日:2021/05/18

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ねー、つぶつぶ。あんた、兄弟っているでしょ? ぶっちゃけさ、兄弟ってどんな感じ?

 一人っ子だと、そこらへんが想像できなくってさ。あんたにも聞いてみようかと。


 ――もうお互い、自分の部屋持ってるから、自分の時間と空間が大事?


 はあ〜、なんか淡白にも思える関係なのね。

 ケンカとかしないの? といっても、お互いがお互いのことを大切にしている限り、そうそう起きそうもないわね。

 なんか、あたしの周りだと男と女の兄妹とか、姉弟が多いせいか、やけにケンカしているイメージよ。

 ものを争ってケンカして、気に食わないことでケンカして、ちょっかい出しあってはケンカして……どこまで憎いか分からないけど、大ごとになっていないうちは、じゃれあいの範囲、なのかしら?

 身近にいる相手。親のように、近くて遠くでもない相手。だからどつきあいもできるのかもね。たとえ、私たちには理解されがたいレベルでも。


 ――どうして、兄弟のこと聞きたくなったのかって?


 うーん、ちょっと前にダンス見てたら、昔に同じクラスだった妙な兄妹のこと思い出しちゃって。なんとも気味悪かったなあ、と。

 つぶつぶのことだから、聞いてみたいでしょ?



 その兄妹、双子かつ同じクラスにいたのよね。

 新学年のクラスの中でもやってくるのは早い方で、私が普通に登校するときには、もう教室にいたわ。

 これがまた、変な兄妹でね。教室の後ろの方で、ステップ踏んでんのよ。

 ヒップホップでよく見る、ボックスステップやポップコーンステップとかでね。二人して鏡合わせみたいに、ぴったりのタイミングだから「ほほう」と感心しながら見てたわ。


 けれども、そこからが妙なのよ。

 ひとしきり踊ったかと思うと、今度は兄の方がいきなりかがみこむ。そのままべたーって教室の床の上へ寝そべったかと思うと、妹が上履きのまんま背中へ乗っかるの。

そして、そのうえでステップを……。



 ――あん? なによその「ごほうびキター!」って顔は?


 えーっ、男って女に踏んでもらうことでも、ドキドキするわけ?

 わからない。わからないわ、ぜんぜん。

 小さいころに、お母さんにスキンシップ取ってもらえなかった反動? それとも超超女日照りなの? 

 は〜、聞くたび理解不能な生き物ね〜、オスって。私だったら、好きな男からでもちょっとご遠慮だわ。

 やっぱ、ぎゅ〜っと強くハグしてくれて、頭をぽ〜んぽんと優しくなでてくれなきゃ……。

 

 ――なに? お前もお父さんにスキンシップしてもらえなかった派なのか?

 

 ち、違うし。パパは私のことかわいがってくれたし! 

 それこそつぶれそうなくらい抱きしめてくれたし。

 「バカヤロー!」ってどなってくれたし、ぶん殴ってくれたし!

 ……くれたし?

 ああ、もうやめやめ! キラキラしたものが欲しくなってくるから、やめ!

 話の続きよ、続き!

 

 で、その妹。今度は兄の背中の上で、ステップを踏み始めたのよ。

 すでに私以外にもクラスに人が集まり出している。みんな、きょとんとしてその様子を見ていたわ。

 兄妹そろって、喜怒哀楽が薄いのよねえ。目元や口元、言葉の端々とかから察することができるけど。

 だけどね。この兄妹はちょ〜っと口が臭うのよね。年季の入った輪ゴムみたいなのが、ほんのりと。おしゃべりするときは、他の人と比べて、少し距離をとっちゃったわ。彼らが気づいているかどうかわからないけど。


 そんなこんなで、少し遠巻きに様子を見る私たち。

「世間の兄妹ってこんなものなの?」と、目だけで兄妹もちにサインを送るも、「ちゃう、ちゃう」と、無言の首振り。

 やがて予鈴がなり、妹がさっと背中からのくと、兄も何事もなかったようにむくりと起きあがる。

 二人にそれとなく意図を聞くと、「体操というか、健康のため」という、分かるような分からないような答えが返ってきた。

 

 ――それって、身内に負担かけてでもやらなきゃいけないことなの?


 はてなマークが、まだ頭の中へ居座っている。


 それから私は、この妙な兄妹をさりげなくマークすることにした。

 ほぼ毎朝、教室で行われる奇行。以前見たように、兄が下になることもあれば、妹が下になることもあったわ。後者なんか、ほとんど暴力の範疇じゃないかとも思ったけど、本人たちはこたえている様子なし。

 むしろ、件の無表情も相まって、「さも当然」という空気で、上履きのまま妹の背中を蹂躙していく兄。それを眉ひとつ動かさずに、受け止め続けている妹。

 さすがのあんたも、見ていたら気味悪く思うわよ、あの兄弟の動じなさ。

 そして件の兄妹は、すごい少食。

 先生から許可もらっているのか、昼ごはんは給食でもお弁当の日でも、ドリンクゼリーひとつをすすって終了。育ち盛りに、それでいいのかとも思ったけど、あと口にするのは持参した水筒の中身くらい。

 

 そしてもうひとつ。

 この兄妹、そろって上履きをしきりに履き直す姿を見せるの。

 あんたもやるでしょ? かかとのところに指入れて、トントンて。

 その頻度がね、あの兄妹は異常に多い。新しく上履きを買って、ぶかぶかという線もあるんでしょうけど、他のみんなと比べたら明らかな差よ。

 それだけだったら、私もそのうち流したでしょうけど、梅雨に入ってからある決定的な瞬間を見つけちゃったのよ。


 とある日の休み時間。図書室へ向かっていた私は、階段を曲がったところで、すぐ例の兄の背中を目にしたわ。

 同時に、ぷ〜んと音を立てて、私のわきをすり抜けていく、一匹のハエがいた。思わず身じろぎしちゃうくらい大きくて、けれども私にはみじんも触れなくて。フラフラと頼りない軌道ながら、数メートル先の兄の肩も通り過ぎようとして。


 ぱっと、飛び出した右手が、ハエをつかんだ。

 いや、速すぎて確証は持てなかったけど、先ほどまで視界にあったはずの、ハエの姿が消えていたの。

 そして握り込んだままの右手は、そのまま右足の上履きへ伸びる。

 かかとへ指をかけ……いえ、それだけじゃない。

 彼はその直後、はっきりと握り込んだ右のこぶしを開いた。自分と上履きのかかとの間にある、狭い空間へ向かって。


 もう彼は歩き出していたけど、私はその場に立ち尽くしていた。

 私の予想に反して、何かが出てきたわけでもない。上履きから音がするわけでもない。

 なのに、見間違いで済ませるには、あの光景はあまりに鮮烈に、頭へ焼き付いていたわ。

 そういえばかの兄妹、私たちの学年でみんなが上履きを下駄箱へ置いていく中、いつも持ち帰っていたわ。毎週どころか、毎日ね。

 おかげで、私はあの兄妹の上履きをあらためる機会を得られなかった。けれども、二週間ばかり、恥も外聞もなく張り付いたおかげでね、あの兄妹が上履きを脱ぐ瞬間をおさえることができたの。


 あのとき、兄がハエを握り込んだときと同じ、早業だったわ。

 でも、私はあのときと同じじゃない。全神経をつぎ込んで、あの兄妹の動きに目をやっていたわ。

 二人の足から解放された上履き。その中は、私たちのものとは比べ物にならないほど、汚れていた。黒いだけじゃなく、赤とか黄色とか緑色とか、見ちゃいけないものがちらほらと。

 そして彼らの靴下、足の裏がほとんど丸見えになっていたわ。これはもっと見えた時間が少なかったんだけどね。

 切れ目が入っていて、そこから舌らしきものが、ちろりと見えたの。歯も少しね。


 朝のステップ。あの兄妹にとっては「咀嚼」のようなものだったのかしら?

 そうなると、私たちが「口」と思ってた部分って……。


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― 新着の感想 ―
[一言] ヒェッ……! 双子の正体とか他に気にするところはいっぱいあるのに、何か自分にとってはその上履きの内側が衝撃的でした。ただ、あの兄妹もまだお互いがいて良かったのかなと思ったりしました。一人だっ…
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