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嫉妬

 誰かがうまくいくと、心のどこかがうずいた。

「先輩、やりました! 先輩のおかげです」

「おう、おめでとう。俺のおかげじゃなくてお前の実力だろ」

 笑顔で話しかけてくる後輩に、俺は作った笑顔で噓の言葉を伝える。後輩はそれに嬉しそうにしていた。


 心が悲鳴を上げる音がした。



 昔から、誰かに負けることが嫌いだった。誰かがうまくいって褒められていると、内心俺のほうが頑張っているのにといつも思っていた。


 絵を描くことが昔から好きで、自分でも将来仕事にしていけたらと思っている。中学校ではたくさんの賞を取って周りから褒められることが多く、自分でもどこか浮かれていた。


 高校に上がって、芸術系の学校に進むことになっても、自分はそこでも一番をとるんだと思っていた。


 ただ、周りは思っている以上に才能があふれた人間がたくさんいた。

 高校でも絵を描くことに明け暮れて、一つのことに誰よりも時間をかけた。

 自分でもうまくなっていると感じているし、賞を取ることは間違いないと思っていた。


 しかし、俺は全く選ばれなかった。時間をかけ納得がいかないときは一から描きなおした。けれど、うまくいかない。


 絵には、俺の気持ちが表れているかのようだと思った。

 才能のある人間がとてもうらやましかった。



 高校二年になって、後輩ができた。とてもかわいらしい後輩は絵も上手だった。すぐにものにしてしまう才能を持っていた。

 人のアドバイス以上のものを出す彼女に、いつしか嫉妬していた。


 自分より下の、それも女子生徒に嫉妬するなんて馬鹿みたいだと思ったが、止められなかった。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、賞をとれたことが嬉しいらしく先ほどから盛んに話しかけてくる後輩がだんだんうるさくなってきて、俺は帰ることにする。今日は絵を描く気力が湧いてこなかった。


「先輩、帰るんですか?」

「ああ、今日は何もする気がなくなった」

「えー今日は先輩の絵を見ようと思っていたのに」

「俺の絵なんか見なくても、お前のほうが十分才能があるだろ」

 そうやって、突き放して俺は教室を出ていく。


 きつく当たりすぎたかなと思っても、心に湧き上がってきた嫉妬は消すことができなかった。しばらくあそこに顔を出すのは辞めようと思った。



「ね、一緒に帰りましょ!」

「…………」

「ねえってば」

 先ほどから無視をしても、後を追いかけていた。


 俺が学校から出ようとしたら、自分もやっぱり帰ると俺のことを追いかけてきていた。

 なんで、こうも付きまとわれなければいけないのか、俺にはわからない。


「ね、先輩……怒ってますか?」

「ああ、怒ってる」

 さすがに俺がぶすっとしているのに気付いたのか、彼女は恐る恐るそんなことを聞いてきた。俺は早くひとりになりたくて、思わず肯定の返事をしてしまった。


「ごめんなさい。さすがにはしゃぎすぎました」

 しゅんとしてしまった彼女に、さすがにやってしまったと思った。ただ、かける言葉が見つからなかった。


 俺がどうしようかと迷っていると、彼女は一人で話し始める。

「私、先輩の絵がずっと好きで。小さいころからたくさんの賞を取ってきていた先輩と一緒の学校に入りたくてたくさん努力しました。賞にはいっぱい落ちちゃいましたけど、それでもこうして先輩と一緒の学校に入れて。あこがれの人がいて、アドバイスまでもらっちゃって。ずっとずっと隠してたんですけど、賞を取りたくて。あの絵が描けてすごく嬉しくて周りが見えなくなっちゃってました」

「…………」

「ずっと先輩に嫉妬してました。なんであんなにさっと描けるのかなって。迷いが見えないなって」


 普段明るい後輩の初めての告白に、なんだか胸が締め付けられた。

 嫉妬を抱かない人はいない。

 俺は後輩に初めて気づかされた。

 そして、俺のほうがお前に嫉妬していたと、初めて本音をぶつけた。


 何かが変わった気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お久しぶりです。 拝読させていただきました。 嫉妬っていろいろなカタチがあると思いますが、そう思う人は多いと思います。この作品の内容とは違うんですけど、なんとなくよく分かる気がします笑 …
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