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自信を無くしてしまった少女

 どこかでうまくいくと思っていた。

 自分が失敗しても、誰かが助けてくれると思ったし、必ず明るい光は差し込んでくれると考えていた。


 何度目の失敗だろうか。

 なんとかなると自分を鼓舞し続けてきたものが、ある日ぽきっと折れてしまった。


 それは些細なことだった。


 バイト先のレストランで一枚のお皿を割った。

 別に何があったわけではない。ずいぶん前に手を滑らせてお皿を割ってしまったこともある。

 ただ、そのとき手から滑り落ちて割れたお皿を見て、あ、なんか私と似ているなと思ったのだった。


「ごめんなさい!」

 とっさに出た謝罪の言葉も嘘くさいなと自分で思ってしまった。



 人生うまくいくことなんてあるのだろうか。

 そのとき就職活動もうまくいっていなかったため、私はふさぎ込んだ。

 彼氏と別れたのもつい先日のことで、自分はとことんついていないなと思った。


「なんでだろう」

 泣くこともできずに、布団をかぶったままつぶやく。

 趣味である読書もする気にはなれなかった。

 


 もう、どうにでもなれと家を出て、短い旅に出ることにした。

 企業訪問が数日先にあったけれど、それをすっぽかすことにした。


 バイトも昨日辞めますと連絡を入れた。

 今まで必死にためたバイト資金をごそっとおろして財布に入れる。


 どこか遠くに行ってみようと思った。

 現実逃避のようでいて、そうでもない。


 数日滞在したら、また家に戻らなければいけなかった。

 また、バイト先を見つけないといけないと思った。

 就職活動もまだまだ続けなければいけない。



 悩みは消えることはなく、電車の中で頭にいろいろなことが浮かんできた。

 この先に海があったらいいなと、なんとなく思う。


 この電車の先は行ったことがなかった。

 どこに行くのかもわからないが、その先に今の自分が変わるきっかけがあるといいなと頭の中に浮かんだ。


 ほんとに、行先の決まらないのは私だなと人の少ない電車内でつぶやいた。



 降りた先に海はなかった。

 代わりに目の前にあるのは山だ。

 私はうんざりした。


 今山の中に入る気力はなった。

 かといって、今から数時間もかけて戻るのも嫌だ。


 どうしようかと迷って歩き始める。

 そういえば泊まる場所のことを考えていなかった。

 スマホをいじって周辺の適当な宿を予約する。



 歩き続けるのも嫌だったので、早めに宿についてゴロゴロしている。

 頭の中は、これからどうしようかということばかりだった。

 一度戻って海を見に行く気力はもう無くなっていた。

 明日は何をしようか。



 そのとき、部屋をノックする音が聞こえた。

 サービスでついていた食事ができてた。

 そういえば朝から何も食べていないことにいまさらながらに気づく。



 一汁三菜のバランスの良い食事。

 こんなに栄養が整った食事を食べるのはいつ頃だろう。

 いつもコンビニ弁当を食べていた自分が、なぜか恥ずかしくなった。


 口につけてみると、家庭の味がした。

 高級感はなく、ごく一般的な野菜。

 そういえば、昔は野菜が嫌いで食べられなかったなと思いだした。



「あれ、おかしいな」

 食べていて、なぜだか涙が流れていた。

 親から電話がかかっていても、いつもメッセージだけで済ませていた自分が、なぜだか無性に腹立たしくなってきた。


「お母さん、お父さん」

 涙は止まらない。

 苦しいよ。

 助けれほしいよ。



 嫌いだと思っていた、両親のことが頭から離れない。




 私は、翌朝宿を出ると、自宅に戻って、いろいろな予定をすべて白紙にした。


 家に帰ろうと思った。

 怒られるかもしれないけれど、今はただ両親の顔が見たかった。

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