お家探してます
「今日は紹介屋に行くから、お前も着いてこい。」
朝起きると一番に、先に起きていたノアにそう言われる。
紹介屋。それはその名の通り、宿屋や家、目的の店、恋人の欲しい人なんかは出会いの相手まで紹介してくれる、所謂探してるものがあればなんでも相談に乗ってくれるお店だ。
「ふぁ‥、何しに行くの?」
「家探し。今日何軒か見に行くんだ。」
まだ寝惚け眼の僕に、そう説明するノアは窓辺のテーブルに一人着き、優雅に紅茶を飲んでいる。
「分かった。ふあぁ…眠い…。」
欠伸を噛み殺すことも無く、同じテーブルに着くとノアがすかさず紅茶を淹れてくれる。
ありがとう、と呟きカップに口を付ければ爽やかなミントの香りが口いっぱいに広がり鼻に通っていく。
「目は覚めたか?」
「ばっちり。」
「じゃ、全部飲んで早く着替えろ。直ぐに出るから。」
ノアはそのまま立ち上がり、言われるがままに一気に飲み干した僕のコップを奪い片付け始める。
一気に飲んだことによりミントティーの香りに鼻の奥がツンとするが、僕は鼻を擦りながらも簡単に身支度を済ませた。
「行くぞ」
身支度が終わった途端そう告げ、部屋を出るノアの後に僕も続いた。
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「ここが次の物件です、はい」
紹介屋に赴き、住む場所を探し回ること4件目。
目の前の建物に目をやれば、古びた民家が1軒。
入り口と見られる扉は傾いていて、屋根瓦も劣化し軒下に落ちている。
何年も手入れがされていない事が丸わかりの物件。
これもまだマシな方で、今まで回った物件は本当に散々だった。
半壊状態の物件。家すら無かった場所。使われなくなった元・馬小屋など。
どれもこれもが住める場所では無かった。
唯一これがマシなのだが…内見すると、壁紙が剥がれている部屋が一部屋に簡易的なキッチンしかない。
かなり狭くなるけど、片付けば何とか住めるかな…
「もうちょっと他には無いのか?」
しかし、どうやらノアは嫌なようだ。
ノアの言葉に紹介屋は頭を悩ませているのか、手元の資料らしきものを見詰めている。
「そう、ですね。お客様の頭資金ですと、最後にあと1軒だけあるのですが…そこは、ちょっとですねぇ…」
「ここよりはマシなのか?」
「マシといえば、見掛けはマシなのですが…なんと言いますか…ねぇ…」
やたら濁し、もごもごと話す紹介屋。
あんまり紹介したくない物件なのか、若干嫌そうにも見える。
「ここよりマシなら、連れて行ってくれ」
「いいですが…入れるかどうか分かりませんよ?」
「どういう事ですか?」
そう聞く僕に、紹介屋さんは最後の物件の事を教えてくれた。
その家の名は、ロゼハウス。
今は跡継ぎが居なく、放棄されたのだけど代々ローゼ家という貴族が引き継ぐ有所正しい屋敷だったらしい。
夜な夜な変な歌い声が聞こえるという事から、聖魔法で浄化魔法を掛けても意味はなく‥不気味と思われ住居者が現れてもすぐ出て行くんだとか。
そして5年前、紹介屋がその屋敷を取り潰し、別の建物にしようと業者にお願いし、屋敷の中の一部を解体したら次の日から業者や紹介屋は立ち入れなくなったとか。
「それまではずっと入れたんですけどねぇ…解体してから入れなかったですが、中はとても綺麗でしたよ。外から見える薔薇庭園は今でも綺麗に咲き誇っていますしね……まぁ、でも入居者が居ないんじゃ、なんの意味もないんですけど。」
僕はノアと顔を見合わせる。ノアも同じ事を思ったのか、目が合うと頷いてくれた。
「そこに連れて行ってください。」
そもそも僕達はこの国で住む場所を探さなければならない。
ここはノアが嫌なようだし…だったら、そこにかけるしかない。
僕達の答えが不服だったのか、一瞬不満そうにするも、紹介屋は「分かりました」と答え、転移魔法を掛けてくれた。




