表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

ぶつけられました





そこに立っていたノアは、物凄く苦しげな表情(かお)を浮かべていた。





そして鋭い視線で僕を睨み付けると胸倉を掴み、部屋に引き込む。





足でバタンと器用に扉を閉めると、そのまま僕を引き摺りベッドへ投げ入れる。





そして僕の上に馬乗りになると再び胸倉を掴むも苦しげな表情を浮かべるだけで、何も言わない。沈黙がただただ、流れ、やがて




「……っけるな、」


「え?」



絞り出すような声に耳を傾けるために、首を起こすと




巫山戯るな(ふざけるな)、この馬鹿野郎!」




その言葉と共にごん、と勢いよくノアの頭が振り落とされ、頭を起こす僕の鼻頭に衝突した。




「ぶへぇっ!?」




「いっつも勝手な事言いやがって!いっつも勝手な事して!俺が、俺がいつもどんな気持ちでいるかも知らない癖に!」




間抜けな声を出し鼻を抑え悶絶するも、構わず容赦なく僕の身体を揺らし日頃我慢している激情を思うがままに吐き出すノアに僕は抵抗も出来ない。いや、抵抗なんて出来るはずもなかった。




僕はノアが落ち着くまで大人しく目を瞑り、罵倒と暴力をぶつけるノアになすがままになっていた。




やがて、気が済んだのかぽすんと力無くノアの手が僕の顔の横へ落とされる。

目も腫れ、霞んだ僕の視界にはまるで自分が殴られたかのように痛々しい表情をしたノアが映る。

ノアは暫く僕の顔を見詰めると、なだらかに手を滑らせ、僕の腫れ上がった頬の輪郭(りんかく)をなぞった。

腫れた頬、切れた口端、ぺしゃんこになった鼻、痣が乗った瞼、ノア自信が傷付けた場所一つ一つ指を沿わせ、最後は始め掴んでいた胸元に掌を当てる。



そして、



「はは、痛そうだ…。でも、今日は治してやらない。」





乾いた笑いを洩らし、聖魔法を使えば一瞬で治せる傷を、(わざ)と治さないと悲しみの篭った声でそう言われれば、僕は頷く事しか出来ない。それにきっと、僕を傷付けたノアの方が痛いということは、わかる。




「なんで俺が怒ったか、分かったか?」




「ぼ、くが嘘をついたから」




僕が付いた嘘。それは、何よりもノアが嫌う言葉。



掠れた声で答えると、分かってるじゃん、とノアは力無く呟き僕の胸元に額を当てる。

やがて…ごめん、と声と共に音もなく僕の身体とノアの身体が聖魔法・回復(キュア)の光に包まれた。




ノアの魔法だ。




蛍のような光はやがて体に溶けて消え、視界の違和感も消える。

同時に苦しげだった、ノアの表情も、いつものクールな表情だ。



「俺のついでに治してあげたけど。次にやったら本気(マジ)で殺す。」




本気(マジ)の目だ。

こくこくと頷く僕に満足したのか、「寝るぞ」と声を掛けノアは自分のベッドへ戻ろうとする。




その前に。




「ノア、これからずっと僕を助けてくれ。」




年下とか、いつも助けて貰っているとか関係なく、本人(ノア)が一番必要とした言葉を掛ける。





「馬鹿、一生は重すぎ。」





そう言って呆れ顔で笑う顔は何処か嬉しそうだ。



 


今度こそと自身のベッドに戻ったノアに何も言わずに、僕は布団を頭まで被った。





ノア、ごめんよ。目を瞑れば先程までの苦しげな表情が忘れられない。





ノアは泣きこそしなかったが、言葉が、叩く力が、涙の代わりだと思った。





(それに僕は……、ノアから与えられた痛みを分かってあげられない。)





幼い頃から何度も死にかけ、痛覚が完全に麻痺している僕はどれだけ殴られてもノアの手の方が痛々しく見えていた。






ノアは僕の痛覚が鈍い事を知っているから、殴るのだ。僕を傷つける度、ノアが傷付く。





(ごめんね…ノア…)




僕は、様々な罪悪感につぶされながらも、押し殺し 静かにそのまま眠りについた。





バイオレンスなヒロインですが、誰よりも主人公の事を想っています。今回は主人公がたまたま逆鱗に触れる事を言ってしまい、派手な暴力に走ってしまいましたが、今回もいつもも、必ずその後治癒や回復魔法を掛けています。だからといって、暴力は駄目、絶対!



治癒が軽傷、回復が軽重症や状態回復を癒します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ