パワフル幼少期
僕を見詰める熱視線に耐えかねて、ぽりぽりと頬を掻きながら口を開く。
「それ、僕がクロア村出身で…赤ん坊の頃からダンジョンに潜ってたからかもしれないです。」
僕の声に何、とピクリ眉を動かすも何も言わない。続けろと言わんばかりを雰囲気出すステイルさんに僕は瘴気耐性がある理由と、ついでにこの国に来た切っ掛けを話す。
ここから一般人が徒歩でいけば、1ヶ月程歩き続けた所に僕の村がある。
クロア村。僕とノアが出た事により…現在は誰も住んでいない、ダンジョンがすぐ近くにある村だ。
ダンジョンは小さいが…その小ささに比べて、ダンジョンの中では凶悪な魔物が出現すると言われていた。
ダンジョンから吹き出す瘴気が3日に1度は村まで流れ、僕が物心着いた時には父さんと僕、そして父さんの仲間達しか住んでいなかった。
そして冒険者だった父さんに僕は、いつも強引にダンジョンへ連行され瘴気にヤられたこと数百回。魔物の血を浴びて死にかけた事数十回。死にかけたのは、殆どが赤ん坊の頃に抱っこ紐で父さんの背中に括られてた頃らしいけど。とにかく、ギリギリの所で父さんの仲間に浄化魔法に助けられ、ノアと出会った8歳の頃には瘴気には何にも感じ無くなっていた。
…あ、でもたまにノアは具合悪そうにして居たっけ。
とにかく生まれた時からずっと瘴気を浴び続け、村を出るまで毎日魔物と闘ってた。父さんは本当に戦闘馬鹿で仲間からも、「あいつは黒竜にだって1人で戦いに挑んで勝つだろうよ。」なんていわれる程強かったのに。
1か月前、父は、突然物言わぬ亡骸として帰ってきた。
理由は不明だった。
誰も初めは信じなかった。きっと冗談なんだろう、と。僕と同じで魔法能力が無かったから、きっと何かの魔法に掛けられたんじゃないか、って。
傷一つ付いて居なくて、綺麗な寝顔で眠っていたから。
仲間達が思いっきり耳元で呼び掛けても、ノアが必死に聖魔法を掛けても、僕がどんなに身体を揺らしても、
父さんは起きなかった。
昨日まで元気に暴れていた人が、突然去った現実に誰もが受け入れられなかった。
僕は、大切な人を守れなかった。
受け入れられず、呆然とする僕を他所に、先に我に返った仲間達が、父さんの身体を弔ってくれた。
そしてあの日僕は、父さんの墓の前で誓った。
ダンジョンが三度の飯よりも大好きな父さん。
魔物を狩るのが何より楽しい父さん。
その癖、弱い魔物は見逃す父さん。
「父さん僕は、ハーレムを築きます」
「んっ?」
回想に浸りその時の言葉を口に出していた僕の一言を、ステイルさんは聞き逃さなかった。ずこー、とカウンターに逞しい上半身を倒れ込ませる。
びっくりしたぁ!
「こっちの台詞だわ!」
あ、心の声も洩れちゃった。
気を取り直し、こほんと咳をして、続きを話す。
父さんは戦闘馬鹿で、ダンジョン馬鹿だった。
いつもは無口な父さんだったが、戦闘が終わり魔物の血に酔うと雄弁だった。
世界には沢山のダンジョンがあること。
ダンジョンそれぞれの性格があり、アンシスタという国のダンジョンは世界最大ということ。
自分はクロア森のダンジョンに縛られているから、いつか僕に行って感想を聞かせて欲しい、と。
「だから僕は、この国に来たんです。」
父さんの夢を叶えに。
回想が終わり、ステイルさんを見るといつの間にか前の席から消え、他の職員と楽しげに珈琲を啜っていた。
僕の分は?
見詰める僕に気付いたのか、あ…と気まずげに目を逸らし、両手に珈琲が入ったコップを持ち戻ってくる。
特に何も言わず僕は、頂いた珈琲に口を付ける。
苦っ