能力値が分かりました。
「……ねん、少年!」
肩を揺さぶられる感覚に僕はハッと目を覚ました。
いや、寝ていた訳では断じてないのだが…ちょっと現実から目を逸らしたくてね…ははは、と乾いた笑いが僕の口から零れる。
……っていうか、いつの間に移動したの?
キョロキョロと周りを見渡すと、先程のカウンターから反対側へと移っていた。向こう側には僕と同じ様に並んでいる無装備の人達が見える。
そして向かい側に筋肉むきむきのお兄さん、横は板で仕切られていて、半個室みたいな形の所に僕は座らされていた。
僕の一連の行動に気が付いたのか、お兄さんはここからがギルドへの登録だ、と教えてくれた。
「改めて、俺の名前は ステイル・テイル。これから君の担当になる。」
「クロウド・ルイーチです…。よろしくお願いします」
ステイルさんからよろしくな、と差し出す手に、昨日の事もあるから警戒するが、流石に仕事中だし変な事しないよな…。と握り返す。うん!なんだかさっきより力強いけど!気のせい!
内心怯えながら半笑いの表情を浮かべ、ステイルの手を振り切り、気持ち後ろに下がり距離を置く。
ステイルさんは僕の手が離れると、ゴソゴソとカウンター下から、羊用紙と針を取り出し、僕に差し出す。
「君の登録をするから、ここに血を垂らしてくれ。」
「血?」
意味が分からず首を傾げると、
「取ったろ、検問で君の血。あそこはこの国が入った後の身分証明の登録用。ここのは、それにプラスして君の能力値も分かる。ギルド登録にそれが必要なんだ。」
ステイルさんの説明になるほど、と納得し針を手に取る。出来れば利き手がいい、という声に右手に持ち替え、左手の指に物怖じ無く、ブスりと針を刺す。そして針を指から抜くと、ぼとぼとと血が吹き出すように流れ羊皮紙を染める。
そうすると文字が勝手に浮かび上がり、やがて一枚びっしり文字でいっぱいになった。
魔法ってすごいな。と眺めていると、針はもっと浅くて良かったのか、ステイルさんが慌てて僕の指を治癒してくれる。
ぽわっとした光が指の傷を包みこみ、そのまま指に溶けていけば元通りだ。ありがとうございますと顔を向ければ、厳つい顔が間近に迫っていた。
「君ね!びっくりしたよ!」
「ひぃ!ごめんなさい!!!」
だからもうちょっと離れてください!!そう叫ぶ僕に、ステイルさんはため息をつきながら元の位置に戻ってくれた。
そして血の着いた針を後ろのカウンターの後ろにあるカゴへ放り込むと、羊皮紙を手に取り、ステイルさんは時折、眉を上げながらも無言で僕の能力値に目を通す。
そして最後まで見終わったのか、スっと能力値の羊皮紙を差し出す。出されたソレに僕も目を通すと、検問時記入したその下には違う事も記載されていた。
名前:クロウド・ルイーチ
年齢:16歳
性別:男
種族:人間
出身:クロア村
入国理由:冒険者になるため
身体能力:A566
耐久能力:A355
魔法能力:無属性 E13
瘴気耐性:S
毒耐性:S
「君は、面白いな!これは普通、上級冒険者レベルだ!いや、魔法の適正が無くて瘴気耐性がこんなにある人間を俺は見た事ない。しかもSレベルなんて上級でも数名しかいないぞ!」
「そうなんですか?」
首を傾げる僕に、そうだとも!とステイルさんが指を突き出し説明してくれる。
魔法能力は文字通り、魔法が使えるかどうかだ。人によって得意不得意はあるが多くの冒険者が魔法適正があり、ステイルさんが僕に施した治癒も水魔法のひとつ。魔法はそれぞれ、火、水、木、土、聖、闇、虹の七つ。聖は主に光を使った魔法で、治癒以上の回復魔法や状態回復魔法が使える。虹は他の6つに属さないオリジナル魔法らしい…ちなみに、僕の親友のノアもそうなんだぜ!と内心威張る。
そして瘴気耐性。それは、魔物が発する黒い霧。中には瘴気は放たない魔物も居るらしいがその物達はダンジョンの外に住んでいて、ダンジョンにいる魔物や外にいる魔物でも力の強い魔物の周りは空気が穢れている。元々人間は瘴気耐性を持って生まれてこない。そして瘴気耐性の無い人間にとってそれはとても有毒で、人によっては死に至る最悪の物。
各属性のレベルは高い順からS→A→B→C→D→E。Sの数値は出せないとのことだけど、Aのレベルからでも何十年修行しないと到達できないらしい。
「ダンジョンに篭もったり瘴気を放つ魔物を退治していけば少しずつ瘴気耐性は着くが、元々瘴気は人間にとって毒だ。上級冒険者でも高くてBで、聖もしくは闇魔法使うか魔法具無しじゃないとダンジョンに挑めない。下手したら魔族の血の風呂に漬かるくらいしなきゃこんなレベルにはならんぞ。」
だから君は面白い、とステイルさんは品定めするような視線で楽しそうに僕を見詰めた。