いざ、公衆浴場!
「つっかれた~」
宿屋に着き、部屋に入った途端僕はふらふらとベッドにダイブした。ふかふかとした寝具が優しく包んでくれる。気持ちいい~と寝転がる僕を見て、冷たい視線が突き刺さるが、気にしない、気にしない。
検問の時つい本音を書いた僕の書類を見て、役人がすぐさま警備隊を呼んだ時はどうしようかと思った。両腕をガッチリと逞しい腕に捕まれた時は目の前が真っ暗になったな~。
結局、騒ぎに気付いたノアが何とか説得してくれて、我に返った僕もと一生懸命頭を下げて書類の入国理由を書き直す事で何とか許して貰えた。
「おい、愚図。早く着替えろ。」
目を閉じ思い切り寛いでいるとドスン、とベッドの縁を蹴られる。もう!足癖悪いと女の子にモテないぞっ!と心の中で悪態付きながらも渋々起き上がる。
村を出てから数日間歩きっぱなしの上に野宿だったから、多少服が汚れている。おまけにさっきかなり冷や汗書いたし。
「ねーねー。ノアー。公衆浴場行かない?」
この国には無料の公衆浴場があるという。ちゃっかり宿屋の主人に聞いていた情報に僕は胸を踊らせる。いつも冷たい水浴びしかして来なかった僕には温かいお湯に浸かるという文化は理解出来なかったが…
お湯に浸かると女性は肌が綺麗になると聞くし!…湯上りの女性を見れるかもしれない!
という、下心満載のお誘いだった。
それを知ってか知らずか、ノアは躊躇いなく断る。
「俺は買い物がある。行きたければ一人で行け。
お前が帰って来たら、下の酒場で夕飯だ。」
ちぇ、と当てが外れるも直ぐに頭を切りかえ出掛ける準備をする。買い物をするというノアと宿屋の前で別れた後は、うきうきとステップしそうな足取りで教えて貰った公衆浴場へと向かう。
待ってろ、公衆浴場…!湯上り女子…!
るんるんと浮かれ出掛ける僕は、ノアが動かず宿屋の前で僕を見詰めて居たなんて、知る筈もない。
-----
「ったく、浮かれてるな。」
黄金色の髪がふわふわと跳ねるのは、まるで主の心のようだ。とノアは背中から浮かれる雰囲気が丸出しの少年を見て思う。
大体公衆浴場なんて情報いつの間に聞いてたのやら。
浮かれながら去るクロウドを見送り、ノアは買い物に行く事もなく再び部屋へ戻る。買い物へ行くという言葉は、公衆浴場に誘いを回避する為の嘘だった。
大体、この宿屋の部屋にも身体を洗う為のシャワー…浴室は着いている。ノアにはこれで十分だった。
そもそも、ノアがクロウドと同じ風呂に入る事なんて出来るはずもない。
ノアは浴室に向かうと、着ている衣服を床に落とす。そして生まれたままの姿になると、脱衣場に着いている鏡へと向かい自身の身体を見詰める。
ほっそりとした腰の上には、ささやかだが膨らんだ胸がある。一--そう、ノアはクロウドに大きな秘密がある。それは自身が異性であること。
幼い頃から共にして、兄弟同然な関係だがクロウドはノアが女だとは知らない。わざわざ教えてあげるつもりもない。
(そもそも、気付かないあいつが悪い)
だから、公衆浴場にクロウドと行く事は今後も有り得ない。一つ残念なのは、公衆浴場に行って直接クロウドの反応を見れない事。
公衆浴場は今や男性専用になっているため、あいつが望むような光景はみれない。
(ざまーみろ、馬鹿クロ)
きっとあの、空の色をした瞳が潤む事は間違いない。クロウドの泣き顔を想像し、意識せずとも頬を緩むのが分かる。
-----ノアはクロウドの泣き顔が大好物な、とんでもなく歪んだ鬼畜だった。