むきむき公衆浴場
うきうきとした気持ちは、公衆浴場の建物に入って一気に冷めた。
受付を済まし、ひとつしかない奥の扉を開けると既にそこは脱衣場だった。もしかしたら混浴?!と胸を弾ませ中に入ると。
「お、んなの子…お風呂上がりの……女の子………」
期待していたのは仄かに火照った顔。清潔感漂う石鹸の香り。しっとりと濡れた髪。……確かにそうだけど、まさか男性しかいない公衆浴場だなんて!!!
ガラガラガラ…と夢が崩れる音がする。
思わず入り口で膝をつき泣いていると、後から来た他のお客さんに思い切り蹴られ床に突っ伏してしまった。
「おっと、悪いボウズ。…そんな所にいると、他の奴らの邪魔になるぜ。」
「うぅ…ずみばぜん…」
取り敢えず立ち、隅っこに移動し体育座りで落ち込む。しばらくそうしていると、ふいに影が差した。
「何してんだ?お腹でも痛いのか?」
その声は先程蹴られた時の持ち主。座り込む様子を心配してくれたみたいだ。
「いえ、大丈夫で…….」
お礼を言うべく前を向くと、裸でタオルを腰に巻いた精悍な体つきであちこちに傷だらけで、顔の頬にも大きな如何にも怖そうな中年の男性がこちらの顔を覗き込んでいた。
近っ
「そうか?まぁ、取り敢えずそんな所にいると身体が冷えるぞ。後がつかえてるんだ、早く入って出た方がいいぞ。」
「あ、はぁ……そうですね……」
忠告の通り、先程よりも脱衣場の人数が増えている。しかも何故か筋肉隆々の男性ばかりでむさ苦しい。
いそいそと動き始めた僕を見た怖そうなオジサンは、満足気に浴場へと消えていった。
「はぁ、ノアがいればまだ良かったのになぁ…」
そう独り言を零しても、居ないものは仕方ない。それに、ノアはこういう人が多い場所は苦手で途中寄った町で祭りをやっていても、避けていた。
気は取り直し、お風呂上がりの女子は居なくとも公衆浴場は楽しみにしていたし。
先程のオジサンを真似、全て服を脱ぎ腰にタオルを巻く。
いざ、浴場へ!
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「たっだいま~」
宿へ帰ると、ベットで寝転び新聞を読んでいたノアが身体を起こし視線をこちらに向けた。
「おかえり。どうだった?」
「ものすごく気持ちよかった!初めてだけど、暖かい湯っていいものだな!」
すっかり温まった身体にとても満足だ。
「そうか。俺は先に飯食ったから、お前もちゃんと食べろよ」
そういうと、ノアは再び新聞に視線を戻す。
はぁい、とノアに返し、先に火照った身体を冷ますべく窓辺に近寄る。
そうしている間、ノアは話し掛けてこない。
明日は、ついにギルドだ。
父さんが夢に見ていた場所。
(俺、ついに来たよ…父さん。 )
心の中で、記憶の中の父に声を掛ける。目を瞑り、結局身体が冷めるまで、僕は物思いに更けていった。




