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その女性の正体





どこにそんな材料があったんだろうか。




1時間もせずに僕たちに出された、ほかほかと湯気を立てるそれは、バターがふんわり香り、クリームがたっぷりと使われている。とろみのついたスープの中には、ゴロゴロとした根菜、丁度よい大きさの鳥団子がたっぷりに入っているーーークリームシチューだ。



ごくり、と喉を鳴らす音を耳の奥で聞こえる。耐えきれない、というばかりにスプーンに手を伸ばすがーーー、ぺしり、とその手はノアによって叩かれた。



「食うなよ。」



そう僕を諫めるノアは、目の前の人物に向き合った。



「貴女は、何者ですか。」



フリルのふんだんに使われた可愛らしいエプロンをいつの間にか付けたその女性は、先ほど僕たちの前に音もなく現れた。驚愕し、呆然とする僕たちをよそに、自由にも再びおなかを鳴らす僕を見て、あっという間にクリームシチューを作り上げたのだ。




「毒なんか入ってないわよ~。冷めちゃうから、早く食べなさいな。自己紹介は、食べながらしましょ?」




「!」




女性がそう言えば、目の前の皿が自然と押し出されてくる。




正直に、もう腹の虫は限界だ。スプーンを手に取ると、躊躇なくシチューを口に含む。



「う、うんまい…」



甘みとコクが口いっぱいに広がる。鳥団子はとってもジューシーで、なおかつ柔らかく口の中で解けていく。そんな僕を見てノアもお腹が空いていたのか、恐る恐るといった様子で口に入れると「おいしい…」と零した。



そんな僕たちの様子を見て、女性は満足げに頷くと改めて僕たちに自身の身の上話をしてくれた。




女性の名は、マリアンヌ・ローゼ。

この家、ローゼ家の最後の継承者で独り身のまま50年前亡くなったらしい。

死因はネズミに驚いて頭を打ったことから。




「聖魔法師でその力は結構強かったから本当は治せたのだけど…独り身で寂しかったからかしら。間に合わなかったの。」



うふふ、と笑うその声は寂しそうだ。



それから、気が付けば霊体となってこの世にいたらしい。



最初はこの家に住みたいものがいたら譲ろうと、浄化魔法を受けていたのだけどマリアンヌさんのほうが力が強く、全く効かなかったそうだ。



「夜な夜な歌うのは、なぜですか?」




既に食べ終わったノアが聞く。ちなみに僕は二杯目だ。




「気が付いてほしいかったからよ~!ちなみに、あなたたちが初めて」



今までの人たちは、マリアンヌさんの歌声には気付けど、姿は見えなかったらしい。



化け物ハウスだ、と逃げる様々な人たちを見て、マリアンヌさんは心が痛かった…と胸を抑える。



「もったいないな~!その人たち!マリアンヌさんの飯、物凄くおいしいのに!」



そう言った僕に、マリアンヌさんは驚いたように目を瞬いた。



ノアに目配せをすれば、しっかりとシチューを間食したノアもバツが悪そうにうなずく。



「マリアンヌさん、もし良かったら…僕たちをここに住まわせてくれない?」



契約したとはいえ、元々ここはマリアンヌさんの家だ。土足で踏み込んだのは僕たちで、そこに追い出しもせず、僕の要望まで聞いてくれた優しい心の持ち主のマリアンヌさん。寂しそうに笑う女性を、僕は放っておけない。



そう言う僕に、ノアは何も言わず見守ってくれる。



僕の言葉が予想外だったのか、マリアンヌさんは一瞬呆気に取られるも



「貴方たちさえ、良ければ」



と、了承してくれた。







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