正体を暴け!
「やっと終わったぁ…。」
無事に今日から住む契約をした後、日も沈んでいたので僕達は急いで今日休む部屋を確保すべく、ソファがあり寝れそうな執務室を二時間かけて片付けた。
とは言っても、人が入ってない割にはやたらと綺麗だったので簡単に掃除をし、ソファを拭きあげ、隅に他の部屋から一番綺麗な毛布を探して持ってきたりするので今日は精一杯だった。
「クロウド、まだやる事あるから起きろ。」
ソファに寝そべる僕に容赦なくそう言うノアは、先程から何か他の作業をしていた。
「やる事って?」
「お前、おかしいと思わないか?」
「何が?」
「部屋がやたらと綺麗な事だよ。執務室だけじゃない。調理場もまるで最近まで使われている様に綺麗だった。」
確かに。
内見した時は気付かなかったが、他の部屋と比べ執務室はやたらと綺麗だった。
机やソファは若干ホコリが積もっていたものの、50年使われていない割にはとても綺麗だ。
数年前まではここに出入り出来たにしろ、調理場が綺麗なのはおかしい。
何年も使われていなかったら普通、汚い筈だ。
「どうするの?」
そう言う僕に、ノアはニヤリと笑う。
「正体を暴く」
そう言ったノアは、部屋の明かりを消し、「着いてこい」と命令した。
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何時間、そうしてただろうか。
僕達は今、調理場のすぐ隣の食堂で暗闇の中ずっと息を潜めていた。
だんだんと飽きてきた僕は先程から腹の虫が元気よく鳴いている。
「その音止めろ」
僕が何度も腹の虫を鳴かせていると、ノアは横暴な言葉を投げ掛けてくる。
「しかし‥来ないな…。毎夜と言っていたが、違ったのか?」
「さぁ…?ノア、今日は諦めて、ご飯食べに行こうよ」
まだ酒場なら探せば空いているところもありそうだし。
そろそろお腹が空いて限界だ。
「お腹空いたぁ…」
そう呟く僕に、
「何が食べたいのかしら?」
とノアがやたら高い声で聞き返してくる。
「鳥団子の入ったシチュー!」
そう能天気にノアの方を向くと、ノアはやたらと青ざめた顔で僕の背後を凝視している。
酒場なら僕の要望した料理もありそうだけど…そんなに難しかったかな?
首を傾げると、ノアはいきなり僕に向かって浄化魔法を放ってきた。
「何するんだよぅ!」
反射的に避けられたから良かったものの、いや何も無い人間に浄化魔法なんて掛けられても支障はないけど!
「そうよ~。びっくりしたんだからぁ!」
そうだそうだ、と頷く。
そこでやっと僕は違和感に気付いた。
ノアにしたら声が高過ぎる。いくら中性的で女の子みたいな顔でも、こんな口調で喋る所を聞いた事はない。
それに今も尚、ノアは青ざめた顔で僕の背後を見詰めていた。
それにつられ僕も後ろを振り向くと………
「うふ。はじめまして」
ふっくら顔付きに優しげな表情。気品あるドレスに身を包んだ中年に見えるおばさまがそこに浮かんでいた。
「「えええええええええええ」」
「あら?」
いきなり音もなく現れたその存在に、僕達の木霊が食堂に鳴り響いた。




