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河童様  作者: なぁ恋
各々個の真面目
68/70

 

河童は目を細め口を開く。


「私の息子は消えた」


悲しげに顔を歪め、ホロホロと涙を流した。


「息子?」

「私の息子の魂の欠片を身に宿した閻魔の朗」


河童は首を傾げて訊く。


「お前はゆうつきの娘? だが……何故? 私の知っている匂いが、する」


涙の枯れない瞳に輝く星。

紛れもないヒルコと同じ瞳。


その瞳を食い入る様に見る。


「知っているぞ!」


河童は顔を両手で覆い肩を震わせ叫ぶ。


「知っている。お前は、イザナミ!」


目の前に居る河童はヒルコ。

あの時に産み落とした愛しい我が子。


「ヒルコ」


思わず名を呼ぶ。


「イザナミ……母様?」


巡る運命の糸は誰が繰り出しているのか?


別れと再会が繰り返される。



気を取られ、背後に迫る気配に気付いたのが遅かった。


「「イ ザ ナ ミ」」


耳元で囁かれ、全身に鳥肌が立つ。

頭上で雷の走る光と、足元に響いた雷鳴。


体にまとわる痺れ。

肩に食い込む痛み。


「あぁっ」


雷の、イザナミの愛し子が、私の、優良の肉体に歯を立てる。

 

 

ゆうつきの加護が途切れ、私自身の気が反れ、油断していた。


私を見付けたのは、右手の“土の雷”。


右肩に食い込む雷の牙が、そのまま指先まで斑の跡を付けながら大地に縫い付ける。


「母様!」


ヒルコの悲痛な叫びと、大きな水の波動を感じて痛みをこらえて頭を上げる。


ドンッ


鈍い音と、土の雷の泣き叫ぶ声。

肩を見ると、水珠が肩から指先までを包み、キツく縛り土の雷を苦しめていた。


息を吐く事が出来、考える。


この子に見付かったと言う事は奴に知られたと言う事。


壁が壊される。

完全に崩壊してしまったら逃げる術はない。


水に閉じ込められた土の雷に話し掛ける。


「愛しい子。土の雷よ。

貴方は母と居たい?」


体に食い込む痛みは、昔を思い出させる。


「「イ ザ ナ ミ。イッショニ……イタイ」」


即答した土の雷に言霊を乗せる。


「これからの転生を私と共に、私の手と成り、私の力と成る事。

それが条件」


土の雷は、私の肩から指先に雷跡を残し、しがみついた。


承諾は服従に代わる。


水珠が雷の熱で蒸発し、ヒルコを見る。

 

 

 

「私は“壁”を直さなければならない」


ヒルコに言った様で、自分に言い聞かせる。


壁を補強する。


いつも視えていた透明な壁を仰ぎ見る。


全体にひび割れた壁をどうすれば?


―――桃の香りが仄かに鼻につく。


次の瞬間。

壁が一瞬輝き、その根元、三途の川から上へ薄い布の様な壁が壁の前に立ち塞がった。


「これは?」

「朗が命を絶ったからだ」


ヒルコが呟いた。

「思い出した。

       .

壁の出来た時、私は立ち会って居た。

泉守道者が命を賭して壁を張り巡らせた」


壁にひびを入れた閻魔が、まるでその責任を取った様に遺した新たな壁。


それは最初のものより明らかに薄く儚げで、保って数年。


口端を噛む。

やはり、今よりも強く保つ壁を造るには……この体を使うのが一番だと結論付いた。


そして知識と力を体とは別に分ける為“書物”を造る。


更に、書物を持ち徒人を助けるものが必要。


私を継ぐものが必要。

 

 

 

私は恋をして居た。

だから、本当はもっとそんな幸せを味わって居たかった。



「優良!」


丘から駆け降りて来た優陽が、躊躇なく三途の川へ足を踏み入れて私の傍へ来た。


「雷が落ちたから……優良が心配で」


息を切らし全身ずぶ濡れの私を抱き締める。

それがどんなに嬉しくて、どんなにときめいたか……愛しさが込み上げる。


イザナギ!


抱き締め返す。

この温かみや匂い、彼の全てを忘れない。


「優陽……貴方が好き」

「素直に、嬉しいですね」


でも。と、事の顛末の全てを優陽に語って聞かせた。


イザナミ。イザナギ。

始まりと今からも続くであろう道筋を。



そして優陽が笑顔を見せた。

光栄です。と、頭を下げた。










いつまで続くか判らない。

それを覚悟して……。

 

 

 





私達には“力”がある。



混沌から産声を上げた(いにしえ)の魂の。

それに続く血脈と、受け継ぐ能力は、護る力と成る。




全てを、終わらせるには……?







「“イザナギ”を倒さなければならない」




意識は現在へと戻る。

目に映るのは水面から見える風景の様に歪んでいて、それが徐々にはっきりとした形になって行く。


目を閉じて、新たな肉体と一体化して行く感覚に身を委ね、その力を吸い込む様に大きく息を吸う。


次に目を開けた時、そこに居る者達の顔がはっきりと見えた。

 

優月、朗。

優星、龍。

優太、璃世。



河童の夫婦に、

化け猫。


新しい者。




この世代で終わりにしなくては、改めてそう誓いを立てた。

 

 

 


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