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犬になったら

作者: 水木


最近、冷たい空気にあたりながら、思うことがある。



犬になりたい。



朝、起きて、飼い主につれられ散歩をし、だされたごはんを食べて、自分のスペースでなにもしない時間を過ごし、また、散歩をして、自分専用のごはんを食べて、寝る。

なんて羨ましい生活なんだろう。


それに対して。


朝、目覚まし時計をかけた昨日の自分にに起こされ、自分の食べるものは自分でだす。満員の電車の乗り、言われたことだけを効率よくこなし、飲みたくもないものを飲み、みんなが飽きたら家に帰り、また、明日の自分を起こす準備をする。

これが自分の非健康的な日常だ。



あぁ、犬になりたい。いちいち選ばなければ行けない言葉なんて捨てて、ワンワン言いたい。言われるとうりにするだけで誉められたい。人なんてやめてしまいたい。


あぁ、犬になりたい。あぁ、犬に、犬に…



そう願いながら、帰ってきてそのままベッドに寝転がり、目を閉じた。






朝日がまぶしい。

ん?

昨日、カーテン閉めて、電気つけっぱなしで寝たはずなのに。

寒いな。あぁ、窓開けっぱなしだったか?

あぁ、んなこといいんだ。起きなきゃ。

暗くて何も見えない。やばいな、 立てない。飲み過ぎた。

痛っ。天井?


なんだ?どういうことだ。




「タロー!お散歩行くよー!」





「太郎」って。俺は慶太郎…


あ、そういうことか。俺は犬になれたんだ。

じゃあさっきの声の女の人が飼い主ね。把握。


よし、これからは言われるがままのゆっくりライフを過ごせば良いわけだ。早速ご主人様(?)のところにも尻尾降りに行こう。


「おはよう、タロー。今日は晴れてて、暖かいからちょっと長くお散歩行こうか。」

「ワン!」

「よしよし。」


女子高生に頭撫でられるとか人生初だ。あ、もう人生やめてますけど。



朝の散歩で、飼い主の子はたくさん喋ったので、状況は把握した。


ここは東京都。都心ではなく、市。いつも電車で通っていたが、人にもまれ窓の外を見る暇もなかったので気づかなかったが、のどかないい地域だ。

飼い主はこの高校生の女の子と、俺と同じくらいの年の両親、弟がいるようだ。彼女は部活で朝練があるため早く起きて散歩をしてくれている。お母さんは家に帰るとお弁当の準備をしていて、お父さんはパソコンを見ている。覗いたら仕事の資料のようだ。弟くんはギリギリまで起きてこない。築10数年の一戸建てに住んでいて、家のなかは整っていてキレイだ。お父さんとお母さんの努力が見える。


典型的というか、理想的というか。そんな家族だ。


家族が朝ごはんを食べ終わると、弟くんがごはんを持ってきてくれた。テンションが上がると尻尾が自動的に降られるみたいだ、これ。それに気づいた彼は頭を撫でてくれた。中学生の子供に頭を撫でられて喜ぶ日が来ようとは。今までなら「調子に乗るなクソガキ。」って言ってたろう。



皆が家から出ていくと、俺は犬小屋の中でもグダグダ過ごす。何もしないでいい。なんて幸せなんだ。日が出てる時は日にあたり、曇れば中にはいる。


一家が続々と帰ってくると、俺を家のなかに入れてくれた。


「夕飯はみんなで食べる」がルールらしく、それに俺も含まれてた。


食べ終わると、姉弟は僕をつかまえて抱き枕みたいにしてテレビを見る。人の温もりなんていつぶりだろう。10時になると、2人は部屋にいってしまった。


俺が外に出ると、お父さんが微笑んで手を降って鍵を閉めた。

さみしいけど、なんか、「犬になったんだな」と感じだ。





思っていた通り、こんな生活が2週間続いた。なにもしないでいい。言われたとうりにすればいい。同じ日々がただ繰り返される。変化を強いていうなら、四足歩行に慣れ、尻尾のコントロールが出きるようになった。まだ犬語は理解できないので、散歩中にすれ違う犬には不思議な目で見られ、吠えられる。




1ヶ月ほどたったある日、家の前をスーツ姿の男の人が通った。

お父さん以外のスーツ姿の人を久し振りに見た気がする。

それをみて、ふと、人間だった時と今を比べてしまった。




朝、目覚ましに起こされてた。今は飼い主が起こしにくる。


朝食は昨日の夜買ってきた出来合いのものを食べてた。今は用意されたものを食べる。


行きたくもない会社に代わり映えのない電車で行ってた。今はいつも同じコースの散歩を繰り返す。


会社で言われたことをこなす。飼い主に呼ばれれば尻尾降っていく。


夜になれば、代わり映えのない夕食を下らない高校生の話を聞きながらたべる。飲みに付き合った俺からすればそんなもの。


子供二人が飽きるまで俺を抱いて、眠くなれば外に帰して、手を振り鍵を閉める。彼女に捨てられたときとかを思い出すな。



今、なにもしなくていい生活だが、人の間、俺はなにかしていたのか?


言われるがままだったのは、今も前も変わられないのでは?




今まで俺は人間なのに犬と変わらない生き方をしていたのか。



そう思うと、人間の記憶があるまま、犬をやっているとつらなくなってくる。


「犬も大変だな。」とか思ってしまう。


「このままでいいのか。」


「人間っていいな。」








起きると、天井が見えた。





カーテンから光が入っていてまぶしい。

時計は12:00を指している。



あぁ、人に戻ったんだ。







電車の窓がら越しに、雪とビルを見ながら人にもまれて帰る。


何か変化があったかというと、そんなにない。会社を辞めたとか、出世したわけでないし、四足歩行をしたり、吠えたりもしない。



だけど、3つ。変わったことがある。



哲学の勉強をはじめた。昔の外国人のおじさんは「人間らしく生きるとか」「幸せに生きる」とか、現代日本人より詳しいみたいだ。


自分で考えて、楽しいことをするようになった。趣味としてピアノをはじめたり、無理な仕事、嫌な飲みは極力避けるようにした。意外と仕事に支障はない。



もう一つ。

犬に会ったら、敬意と哀れみを込めて、手を振ることにした。

犬を飼ってないけど犬派です。「犬になりたいな」って思ったので、犬になる話を書こうと決めました。本文を書く前に、柴犬の抱き枕をもって、ノートにまとめてる段階で「やっぱなりたくない」って思ったので、ヒューマンドラマ的な感じになりました。犬も飼ってないし、仕事もしてない高校生なので、イメージで書きました。


ここまで7回「犬」って書きました。あ、8回だ。

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