煙草
「ちょっとそこまで散歩してくると彼はこの部屋から出て行った。
とか言いながらで外で煙草を吸うだけだということを私は知っている。
いつもそうだ。彼はいつも本音の一つ手前のことしか私には話してくれない。
それは私にとってもある種の居心地の良さもあったけれど、はっきりしないこの関係を助長している諸悪の根源でもあった。
きっとこれからもそうなのだろう。
その度に私は心にモヤモヤとしたものを抱えていく。
彼が外から戻ってきた。
瞬間、外の冷気が部屋に入ってきた。
そして私は抱きしめられ彼のパーカーに顔を埋める。
微かに染み付いた煙草の匂いがする。
ああ、と思った。
この先も私はきっとわかっていないフリをするのだろう。
そして彼はこの先もいい彼氏のフリをするのだろう。
ただこうしてくっついていると不思議と落ち着いて、
「楽なんだよな」
「え、何か言った?」
「ううん、何でもない」と、私は彼のパーカーに顔を擦り寄せる。
微かに煙草の匂いが消えた気がした。