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四話 渡世人

「それで……君達はこんな所で何をしているんですか? 貴族の腕試しなら、もっと適した場所があるでしょう?」


 唐突に現れた金髪の青年は、開口一番にそんな事を言ってきた。

 どうも勘違いしてるみたいだ。この中に貴族なんていないし、ただの迷子なんだけど。


「まあ、あたしの家は華族の流れを汲んでるって聞いてるけど……腕試しではないわね」


 いや、いた。

 柊さんは貴族だったらしい。

 なんか……どこまで完璧だったら気が済むんだろうか……


「じゃあなんですか? ただの物見遊山でスラムまで来たって言うんですか? それがどんな結果を生むか、わかってるでしょうに……頭に蛆虫が湧いてるんですか?」


「わ、湧いてないわよっ!!」


 うわ、この人優しそうな顔して、めっちゃ口悪いな……

 柊さんも急に悪く言われて、真っ赤になって返したがどこ吹く風だ。一番怒りやすそうな竜崎が、何でか冷静に諌め始めた。


「アカネ、落ち着けよ……口は悪いけど、一応助けてくれた、で良いんだよな?」


「まぁ、そうですね。ここはうちのシマですし、余所者に荒らされてはかないませんから」


「シマ……?」


 聞き慣れない単語を聞き返すと竜崎が答えてくれた。


「縄張りみてーなもんだな。ってーと、今度はアンタが強請ってくんのか?」


「それは君達の態度次第ですね。先程聞いたように、何しにここまで来たんですか? それとも、こんな簡単な質問に答えられないくらいの脳味噌しか持ってないんですか? ああ、だから考えもなしにスラムまで入ってきたんですね。なら、答えは簡単です。今から、君達を拐います」


 物凄く馬鹿にされてるけど、最後の一言が強烈に危機感を煽ってくる。その証拠に、金髪の彼から目がくらむような威圧感を感じた。風もないのに髪が逆立って見えるのは錯覚だろうか?

 同じものを感じたのか、慌てて柊さんが言葉を紡ぐ。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! あたし達を拐ってもメリットは一つもないわ」


 僕らには、まず間違いなく身代金を出す親はここにいないし、ここの常識にも疎い。拐っても対処に困るだけだろう。

 ただ、それは今わかっている僕らの事情。

 何も知らない彼は、予想通り怪訝な顔を浮かべた。


「…………? 貴族なんでしょう? 身代金ぐらいは出せると思うのですが……没落貴族なんですか?」


「そうじゃなくて……あたし達は、喋る猫を追いかけてここまで来たの。こっちの方に来たんだけど、あなた見なかったかしら?」


「猫が喋る訳ないでしょう。イケナイお薬でもキメてるんですか?」


「んなわけねぇだろ! 俺達は気付いたらここに居て、近くにいたのが喋る猫だった。だからここまで追っかけて来た。そんだけだ」


「……その言動、完全に麻薬常用者のトリップ状態だと思いますけどね。では、ここに来る前はどちらに?」


 彼の言葉に、僕らは黙ってしまう。端から聞けば、完全にトリップ状態の言動と捉えられてもおかしくないと思う。それなのに、さらに通じないであろう僕らの故郷の名前。

 それを伝えるべきか、煙に巻いて濁しておくべきか……

 悩んでいると、口火を切ったのは柊さんだった。


「……東京、でわかるかしら?」


「トーキョー……? 聞いたことありませんね……ん? 聞かない土地名に喋る猫……あぁ、『渡世人』でしたか。それなら納得がいきます」


 とせいにん?

 世渡り人と書くあれだろうか?

 あんまり良い言葉じゃなかった気がするけど、竜崎と柊さんにとってはそうでもなかったらしい。二人とも、どことなく先程までより口角が上がっている。その証拠に、ボツリと竜崎が呟きだした。


「トセーニン……いい響きだな……」


「レンと同じ考えなのは癪だけど……同意するわ……」


「おっ!? わかる? 山倉賢さんとかカッコよかったよな!?」


「そうね……山倉さんは私の理想を体現していると言ってもいいわ。無骨ながら一途に剣を追い求めるあの姿勢、何度真似したか……」


「無視して話さないでくれますかね? 君達が『渡世人』なら、僕にもメリットはあります。喋る猫の話も、いくつか聞かせてあげられると思いますよ。素直に付いてきて貰えますか?」


 脱線しかかった話を、金髪の彼に引き戻される。正直、この二人に突っ込んでいってくれるのはありがたい。まだ、僕は二人と平気で話せるほど肥えた心をしていない。


 でも、彼のメリットってなんだろう?

 僕らが『渡世人』だったとして、何か得する事があるんだろうか?

 そんな不安を抱きながら二人を見渡すと、二人とも大きく頷き口を開いた。


「情報は必要だもの」


「だな。とりあえず話を聞かせてもらいてぇし、アンタに付いてくよ」


「そうですか、それは良かった。では、行きましょうか……あぁ、それと勝手にはぐれたりしないで下さい。余所のシマに入ると面倒ですからね」


 そう言うと、金髪の彼はさっさと歩き始めてしまった。その後ろ姿を慌てて追いかけて行く。


 しかし、案の定竜崎と柊さんの二人には共通項があった。きっと、これから仲が進展していったりするんだろう。やっぱり、世界に選ばれたのは竜崎と柊さんなんだ。僕は、何故かここにいるモブA。それで良い。いや、きっとそれが良い。今まで目立って良いことなんてなかった。大人しく二人の成り行きに付いていこう。そのうち、自分の進む方向も見えると思う。

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