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三話 洗礼

「しっかしよー、あの猫どこ行きゃがったんだぁ?」


「猫は気まぐれって言うじゃない。そう簡単には見つからないわよ」


 柊さんの言葉ももっともだと思うけど、このままだと何の手掛かりも得られない。

 薄暗かった町並みは、ますます暗くなってきている。このまま見知らぬスラムの路上で野宿なんてのもイヤだなぁ……

 自然と気持ちに焦りが出てきて、前を歩く竜崎とぶつかってしまった。


「あ、ごめん」


「シッ! お前ら、二人ともちょっと止まれ」


 素直に謝った所で、竜崎は口に手を当てて辺りを伺いだした。


「どうしたの……?」


「いいから二人とも下がってろ。こういうのは、俺の得意分野だ」


 何が……と聞き返そうとしたら、前から明らかに人相の悪い三人組が姿を現した。

 身なりは汚れていて、所々にツギハギが見える。格好からするに、どうもこのスラムの住人らしい。


「兄さん、いいカンしてるじゃねえの。そんだけカンがよけりゃ、これから俺達が言いたい事も解ってるよなぁ?」


「ハッ! 大方金目の物でも置いてけってんだろ? 言うとおりにでもすると思うか?」


 ヒューと三人組の一人が口笛を鳴らす。余裕綽々と笑みを浮かべながら腰の辺りに手をやると、暗闇の中でも光を反射する鋭利な物が突きつけられた。


「これを見ても強がっていられるかな? 悪い事は言わねえ。その上等そうな服と女を置いてとっとと消えな」


「……悪いけど、剣をそんな風に使う人に付いていく気にはなれないわ?」


 柊さんは冷静にお断り申し上げてくれてるけど…

 あれ、ナイフだよね。

 恐喝や強請りも初めてなのに、いきなり凶悪事件だよ……

 流石に、少し足がすくむ。


 でも、謂れのない暴力に屈するなんて許せる事じゃない。まして、柊さんを差し出すなんて言語道断だ。本人は蔑んだ目で相手を見ているけど、今の彼女は無手。いくら剣道の有段者でも、武器がないとどうしようもないと思う。

 やっぱり、すくんでばかりいちゃダメだ……



「セージ」


 勇気を持って声をあげようとした時、竜崎に話しかけられて肩が跳ね上がるのが、自分でも分かった。


「お前、こういうの慣れてねぇだろ? 今回は、俺に任せとけ……アカネの方をしっかり見とけよ?」


「えぇ!? 竜崎!?」


「ちょっと! 勝手に一人で突っ込まないでよ!!」



 僕たちの止める声も聞かず、竜崎は三人組へと足を一歩前に出した。その不遜な顔付きを見て、奴等の一人が呆れたように話しかける。


「なぁ、兄さん……俺らはその服に穴空けたくねぇわけよ。女の前だからって、下手にカッコつけねえでくんねぇか」


「……俺は頭悪ぃけどよ、『格』って奴はわかってるつもりだぜ?」


「あぁん?」


 唐突に竜崎が何かを語り始めた。


 こんな時に何を言い出してるんだろう……

 三人組の方も困惑した表情で蓮を見つめている。


「まぁ聞けよ。不良ワルって言ってもな、ある程度美学ってのがあるんだわ。イッパシの連中は無駄につるまねぇ。つるんで弱い者イジメすんのは大抵二流だ」


 竜崎は腕を組んでウンウンと捻りはじめた。


 いや、目の前のナイフ持ってる奴に集中して欲しい。そんな急に語りだしていきなり襲われるのでは、と心配したが、三人組は竜崎から目を離さず聞き入っている。同じ不良同士、竜崎の言葉に気になるモノでもあるんだろうか。


 よく見ると、不自然にチラチラと竜崎がこちらに視線を送ってくる。



 もしかして……時間を稼いでる?


 嬉しいけど、竜崎を置いて逃げ出すのも薄情すぎる。とりあえず流れ弾が来ないように、柊さんを後ろにやってかばう体勢をとった。



「そんでよ、三流っつーのは腰巾着だよな。テメーじゃ何も出来ねえくせに、偉ぶる奴」


 僕の動きに満足したのか、竜崎は話を続ける。なんとなく、その言葉は今の僕にも突き刺さるんだけど……


「つうと、何か? 兄さん的には俺らは二流だ、と?」


 竜崎はニヤリ、と笑うと、こう言ってのけた。


「いいや、お前らは三下。登場からいきなりそんなヒカリモンに頼ってる時点で、格落ちだわな」


「て、てめぇ!!」


「オラ、かかってこいや! 『格』の違い、見せつけてやんよ!!」


 そう言うと、竜崎は手首を立て、自分の方へ扇ぐように挑発した。焚き付けられた三人組は、いきり立って飛びかかってきたけど、竜崎の言う通り『格』が違った。



 奴等の攻撃はことごとく空を切り、竜崎の返す拳が面白いようにヒットする。


 というか、奴等は竜崎の動きがまるで見えてないと思う。僕は距離があるからまだ目で追えてるけど、目の前で、しかも攻撃の最中にあれだけ動かれたら消えたように思えるんじゃないだろうか。


 それにしても、竜崎ってめっちゃ強い。大晦日にやってる、格闘技のテレビ番組にでも出れそうなくらい動きが機敏だ。不良ってこんな人ばっかりなのかな?

 何か身体も淡く光って見えるし……うわ、また死角から殴った。



「ハッ! やっぱり三下だなぁ!! もっと気張ってみろや!!」


「レン! もうそれくらいにしときなさいよ!!」


「あぁ!? こっからがいいとこだろーがっ!! 大体、不良ワルってのは、徹底的にやらねぇとわからねぇ生き物なんだよ!!」


 三人組は既になされるがままのサンドバッグ状態だ。にもかかわらず、尚も拳を振り続ける竜崎。さすがに、過剰防衛だと思う。もう、その辺で止めないと……


「ア、アニキ……こいつ、やべーやつなんじゃ……」


「う、うるせえっ! こうなりゃ、魔法だ! 舐められっぱなしでいられっかよ!!」


 うん? 今、魔法って言った……?


 気になる言葉が聞こえ、ぶっ飛ばされてった三人組を見ると、竜崎から距離をとり、手を繋いで何か呟き始めた。その身体からは、先程の竜崎と同様、淡い光が立ち上っている。




「りゅ、竜崎! あれ!?」


「わかってる……! アカネをしっかりかばえよ?」


「っていうか、ここは普通逃げるんじゃない!?」


 うん、柊さんの意見が正しい気がする。


 ただ、今奴等から目を離すのは危険だ。何をしてくるかわからないのに、背を向けて逃げるのはリスキーすぎる。仕方なく、柊さんをしっかり覆うようにして再び前に出た。



「おらぁ! 後悔してももう遅いからなぁ!!」


 三人組のリーダーっぽい奴が怒声をあげた。


 同時に()()()()よく響く声が聞こえてきた。



「それはこっちのセリフですよ」



 声が終わるか否か、突風が吹き荒れて三人組を壁に打ち付けた。流石に、気を失ったようだ。


 声がした方を振り返ると、優しそうな顔をした男性が立っていた。


 助けてくれたみたいで良かったけど……

 また絡まれたりしたら嫌だなあ……今度は話し合う余地があると良いんだけど。

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