二話 シンパシー
「おしっ! んじゃ行くか!!」
猫が喋ったことにしばらく茫然としていた僕たちだけど、突然竜崎が声をあげた。
「行くって……どこへ行くのかしら?」
「そりゃお前、今の猫追っかけるに決まってんだろ」
「猫を……? 何か関係あるの?」
そう呟く柊さんに、竜崎は頭を振って答える。
「あの猫、助けられたって言ってただろ? 助けた覚えはねぇけど、何かしら関係あるだろうよ」
そう言われると確かに、僕たちが今ここに居ることに関わっている気がする。
あの猫、僕たち三人を別の国の仲間として扱ってた。三人とも着ているものは学校の制服で、見ればすぐ同じ学校だとわかる服装ではある。だけど、校章が入ってるわけでもないし、そんなの知っていないとわからないはずだ。
「それによ、何の手がかりもなしにうろつくのはイヤってんだろ?」
「まあ、そうだけど……やけに態度がかわったじゃない? どうして?」
「あー……ま、同郷の仲間って言われたらな……仲間は裏切れねーだろ、そりゃ」
「は……?」
たぶん、今の僕は柊さんと同じ様な顔をしていると思う。
竜崎が仲間思い?
学校にいた時の様子は、傍若無人、尊大不遜。自己中が服を着て歩いていた様な人間が、仲間を裏切らないって……
「あんだよ、二人して鳶が鷹を食ったような顔して」
「どんな顔よ……それを言うなら鳩が豆鉄砲でしょ……」
「おぉ、それな」
「それな……じゃないわ。あなた、どう考えても学校でそんな態度見せてなかったじゃない!」
「しゃーねーだろ! 俺は口もガラも悪いし、誰も近寄って来ねーんだから!! 寄ってくんのは喧嘩目的のチンピラだけだ……」
そこまで聞いて、何となく竜崎に親近感が沸いた。
僕の場合、影も薄いし、上手く話せる相手もいなくて、一人でいることがほとんどだったけど、実は竜崎も一人ぼっちだったんじゃないだろうか。
気の合う友人がいなくて、見た目から不良に絡まれて……それでも自分の価値観は曲げない。
まあ、絡まれた不良を返り討ちにしちゃうあたりが、確実に僕とは違う点だけど。
凄く一方的なシンパシー。だけど、何となく、そう何となく竜崎と話せる気がしてきた。
「竜崎は……あの猫を追っかけてどうするの?」
不意に出た言葉に、今度は二人が同じ様な顔をして僕を見ている。
竜崎的に言えば、鳶が鷹を食ったような顔。
そんな不思議な事は言ってないと思うんだけど……
「お前、喋れたんだな……」
「びっくりしたわ……」
いや、随分失礼だな。なんならさっき自己紹介したでしょうに。
「まぁ、どうしたいってのは決まってねぇけどよ……何か知ってんだろうから、そこを聞きてえかな」
「そうね。そこには賛成だわ。あたし達は何も知らないし、わからない。何か情報を集めるのが第一だと思うわ」
うん。僕もそう思う。何でここにいるのか、誰もわからないんだから、知っている人に聞くのが一番早い。
でも僕が聞きたいのは、その方法だ。
「一応、聞くけど……猫をぶっ飛ばしたりは……」
「しねぇよ!! 俺から喧嘩吹っ掛けた事はねぇの!!」
そうなんだ。
ちょっと意外。でも、理不尽に暴力を振るわないなら、猫を追うのに全面的に賛成できそう。
「意外と思いきった事を聞くのね……」
「まったくだ……人を何だと思ってやがる……」
「いや、僕は噂でしか二人を知らないから……」
「あら? あたしの事も知ってるの?」
「そりゃ、まあ……」
「色々と有名人だもんなぁ……学校で知らねえ奴の方が少ないんじゃねえの?」
「……その言葉、貴方にも当てはまるわよ」
「まあまあ……猫を追うなら早く行こう? 見つからなくなっちゃうよ?」
このままだと、また喧嘩が始まりそうだったので、慌ててとりなす。実際、既に猫の姿は見えなくなってるし、急いだ方が良さそうだ。
二人もわかっているようで、睨み合っていた身体を、すっと猫が去っていった方向へと変えた。
「よし、セージ、アカネ、行くか!!」
「馴れ馴れしいわね……」
「いんだよ! 仲間ってのは、こういうもんだろ!? 俺の事もレンって呼べよ!?」
「はいはい……」
そうやり取りを交わすと、二人は猫が去った方向へ歩みを進めていった。
これからどうなるんだろう……
三人が同じ夢を見るなんてありえないし、何かに巻き込まれてるんだろうけど……
「志賀くん! 置いてくわよ!!」
っと、考え事してたら本当に置いてかれそうだ。まずは今の状況をはっきりさせないと。
慌てて二人に駆け寄り、足並みを揃える。
日は落ちて、既に辺りは暗くなっているのに、何故か何時もより景色がよく見える気がした。