プロローグ
咽せかえる程の煙と火薬の臭いが辺りに充満している。
けれど、さっきから涙が止まらないのは、決して煙のせいじゃないと思う。
どうして、彼が僕を狙うんだ?
どうして、僕は彼に照準を合わせている……?
「僕とキミは仲間だった筈でしょ……?」
不意に出た言葉は、うねりをあげて火の手を増す炎にかき消された。
震える手を押さえつけるように、必死でグリップを引き絞る。
既に熱と涙で照準はままならない。ただ、その事は絶対に彼に悟られてはいけない。
彼にそんな隙を見せたら、一瞬で頭が弾け飛ぶのは、僕が一番よく知ってる。
その逡巡に気付いたのか、炎の揺らぎに合わせて彼の体が動き出した。
「うわぁぁぁあっ!?」
咄嗟に横へと飛び退いた。
刹那、さっきまで僕が立っていた場所が爆ぜる。
なんて事はない。ただ、ぶん殴っただけだ。
圧倒的暴力。特別な能力って訳じゃなく、ただ強い。
対峙しているのが、間違いなく僕のよく知っている彼だと思い知らされる。
「やるしか……ないのか……」
腹をくくる。
簡単に決断できる事じゃないけど……やらなきゃ、三分後には僕もすぐそこの地面のようになってるだろう。
決意を込めてトリガーに指をかける。
もう、戻れない。
彼が暴走してるなら、それを止めるのは仲間の役目だから……
「らぁああぁああっ!!!!」
迷いを振り切るように、渾身の声をあげて引き金を引いた。