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金の分配と祝勝会

 僕は賊に襲われやしないかと、びくびくしながら町を歩いて、アリシアの家へと向かった。


 僕の懐には1万Gの紙幣が129枚。1万Gといえば、ボロい小さなアパートを一ヶ月借りられる金額だ。

 129万Gとかいう金額は、王都の庶民の年収クラス。この村なら相当な高給取り。

 そんな大金が、僕の手に。

 そもそも1万G札なんて、数回しか触れたことがない。前世でも一万円札に縁がない生活だったから。


 オスカルさんは、現金で即座にすべての代金を払ってくれた。


『私は国の役人だ、などと言って、小切手や後日送金と言っても信用できないだろう。今すぐ現金で払わせてもらう』


 言ってることは分かるけど、僕の不安とかも考えてほしかったね。


「アリシア?」


 アリシアの家。僕は呼び掛ける。

 奥の工房からどたどたとアリシアが出てきた。


「どったの? 忘れ物? 休憩?」


 さっきアリシアから新しい電卓を受け取ったばかりだからね。こんなに早く帰ってきたら、完売とは思わないよね。


「それが、電卓、全部売れたんだよ」

「え? 早くない?」


 僕もそう思う。朝ここに来て、電卓を受け取って戻ってくるまで、体感で一時間くらいだ。


「目標売上30万Gはできた? それとも値引きしすぎちゃった?」


 僕は無言で懐から札束を取り出す。


「…………っ!?」


 絶句するアリシア。

 そして突然崩れ落ち、さめざめと涙を流し始めた。


「ど、どうしたの!? アリシア!?」

「だって、だって、いくら売れないからって、ミロは盗みなんてする人じゃないって信じてたのに……」

「違うよ、誤解だよ! 本当に売れたんだって!」


 そこからアリシアに落ち着いてもらって、事情を説明するのには結構時間がかかった。


「国のお役人さんが……?」


 ようやく話を聞いてくれたアリシアは、きょとんと頭にはてなを浮かべる。


「ミロ。それで、このお金はどうするの?」

「うーん。とりあえず一緒になんか美味しいものでも食べて、残りは今後の開発資金ということで。あ、アリシアがこれまでの作業の給料ほしいなら払うけど」

「えっ!? いいよ。そんな。ミロが結婚してくれればそれで」


 なんかしれっと爆弾が落とされた気がするけど、僕はいつものアリシアジョークだと考えて、分配の話をする。


「とりあえず10万Gでいいかな。僕の取り分は5万Gで」

「10万!!? そんなに!!?」


 売り上げの1割にも満たない給料は安すぎるといいたいのかと思ったけど、そんなに!?って言ってるからそうでもなさそうだ。


「苦しいよ。そんな。期待も大きくなっちゃうし」

「いや、これはこれまでの作業への取り分だから、期待とか考えなくていいよ」


 続けて僕は「これ以上は下げない」と宣言した。こうでもしないと金を受け取ってくれないのがアリシアという子だ。


「じゃ、じゃあせめて、ミロも同じお金を……」

「えっ!? 僕はまだそんな10万Gの価値ある仕事した覚えないんだけど」

「こっちも下げられません! ミロが10万受け取らないなら私も受け取らないから!」

 

 変なベクトルに強情な僕ら。二人であーでもないこーでもないと話し合った結果、二人で5万Gずつ山分け。110万Gは今後の資金で、9万Gは食事代含めた保留ということで合意した。





「めでたい! めでたいぞ!」


 丸テーブルの向かいに座る大男──ティモンドさんは、ジョッキに入ったビールを一気にあおった。

 

 夜。ここは村の酒場。僕とアリシア、算数教室から帰ってきたパメラさんと、クエストから帰ってきたティモンドさんの四人は、ささやかなパーティーを開いていた。


 肉を中心とした料理の数々と、ティモンドさん以外の前にはソフトドリンク。この世界には「お酒は二十歳になってから」なんて法律はないけど、単純に僕らは飲めないんだ。


「ティモンド。そんなに嬉しいか?」


 酔っ払った他の客のおじさんが、ティモンドさんに声をかけながら肩を組む。


「まあ、そりゃそうだよな。笑いが止まらねえ金額だろ」

「がはは! 違うぞ! 大事なのは儲けた金額じゃない。わしはアリシアがミロくんとなにかを成し遂げたことが嬉しいんだ!」


 そうして赤ら顔で鶏の丸焼きにがぶりつく。大きな鶏は、あっという間にその大きな口の中へと消えていった。


「今日はわしの奢りだ! じゃんじゃん食え!」

「え。ティモンドさん。今夜の宴会は僕らの売り上げから……」


 そういうお話でこの店に来たはずだ。


「遠慮するな! その金は結婚資金にとっておけ」

「けっ、結婚!?」


 いつも思う。この人は気が早すぎると。


 そして酒場の入り口の扉が開く。入ってきたのは僕の母親だった。


「聞いたぞミロ。すっげえ儲けたんだってな」

「おお、カルメンさんではないですか。ぜひこちらへどうぞ」

「ティモンドじゃないか。久しぶりだな」


 母親がティモンドさんとアリシアの間に椅子を引っ張ってきて座る。


 こうして、僕らの宴会は半分の月が沈むまで続いたのでした。

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