表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/16

最初に作るもの

「まずは、『電卓』を作るところから始めようと思う」


 工房の黒板の前に立ち、チョークをひとつ握って、僕は言った。


「デンタク……?」


 椅子に座るアリシアは、その丸い目をきょとんとさせて、首をかしげた。とてもかわいい。


「そう。僕らはまず、電卓で今後の資金を集める」


 僕らが最初に作るものは、異世界製の電卓と決めた。


「電卓っていうのはね。数字と記号を入力したら、計算結果を出してくれる道具のことだよ」

「えっ!? すごい。そんなの作れるの?」

「作れる。僕と君がいればね」


 最初に作るものは、これくらい単純でないと厳しいだろう。


 僕の知識とアリシアの魔法の組み合わせは、もっともっとたくさんの可能性を秘めている。それこそ、理屈の上では僕のいた世界となんら変わらないコンピューターだって作れる。

 けど、それを作ることが理論上は可能であることと、現実的な時間で作り出せるかどうかは、全くの別問題だ。


 最初からいきなり僕が元いた世界のようなパソコンを作るのは、あまりに大変だ。どれだけ長い時間がかかるかわかったもんじゃない。


 最終的には、この世界にパソコンを普及させ、インターネットだって作ってやるつもりだ。だけどそれだけのものを産み出すのに、元の世界の人たちは天才が大勢集まって何十年も要した。いくら僕には、先人の知の積み重ねの知識があるからといって、途方もない時間がかかるのは疑いようがない。


 だからまずは、コンピューターと呼べるものの中では、かなり簡易的で、それでいて村で金を持っている職の人、すなわち商人たちの役に立ちそうな、電卓を作る。


「この村ってさ、アリシアのお婆ちゃんが先生やってるお陰で、それなりに教育は行き届いてるじゃん」

「うん。一緒にお婆ちゃんに読み書き計算を教えてもらったよね」


 このジャーラ国は、広大な大地を山に囲われた大きな国。中でも王都カルターは、それはそれはものすごい大都市だ。一度家族旅行で行ったことのある僕は、あまりの大都会ぶりに衝撃を受けた。

 街の広さや密度だけなら、元いた世界で言うところの東京や大阪、名古屋なんかと肩を並べられるんじゃないだろうか。


 王都では、義務教育に近い制度がとられており、王都育ちの大人は、日常レベルの読み書き計算ならできる。

 

 一方でこのオリヴェート村のような、広大な草原のなかにぽつんと存在する辺境の村では、とてもじゃないが教育など行き届いていない。


 そこで立ち上がったのが、アリシアの祖母でティモンドさんの母親である、パメラさんだ。


「パメラさんはすごいと思う。一人で村の教育水準を大幅に上げたんだ」


 パメラさんは、嫁ぐ前は王都に住んでおり、学校にも通っていたらしい。

 その知見を活かして、この村に来てから数十年、ティモンドさんが生まれる前から、子供たちに読み書き計算を教え続けてる。


「ミロはすごかったよね。計算の方はどんなテストも満点で、お婆ちゃんの質問への答えも全部完璧で。読み書きも優秀な方だった。お婆ちゃんも、ミロくんほどの優秀な生徒見たことないっていつも言ってたよ」

「あれはね……。ちょっとね」


 僕はあまり胸を張れない状況に苦笑する。

 僕が計算において非常に優れていたのは、前世で数学やってた記憶の片鱗のお陰だったのかもしれない。語学も堪能って訳じゃなかったけど、まあまあできたのも事実だ。

 そう考えると、成績がずっとクラスでトップだったことが、周りの子達に申し訳なく思えてくるね。人生二週目なら強いのは当たり前じゃん。


「それよりもすごいのはアリシアだよ。なんのバックグラウンドもないのに、読み書き計算どれも僕と同じくらいの成績だったじゃん」


 僕は純粋にアリシアをすごいと思う。かつての僕は低い魔力へのコンプレックスで、お勉強なんかできたってなんの意味ないってスタンスだったしね。


 前世の記憶を取り戻せたのは、簡単ながら算術に触れていたから、という側面もあるのかもしれない。そもそも転生も記憶取り戻したこともわけわかんないから、本当のところは知りようがない。所詮はただの憶測でしかないものだけどね。


「それじゃあ、始めようか」


 僕はチョークで黒板に文字を書き始める。


「まずは、整数の足し算と引き算をできるようにしたい」


 僕は告げる。 


 整数というのは、-2,-1,0,1,2,3といった数字のことだ。普通に日常生活で出てくるやつだね。


 足し算と引き算、特に整数に限ったものは、掛け算と割り算に比べて計算機構を作るのが遥かに簡単だ。これができなければ、早速頓挫することになるし、逆に足し算と引き算さえできれば、電卓の初期型として商人に売れなくもない形になる。


 僕らの電脳革命の未来を占う第一歩。その作業が今始まった。

 ミロは具体的に何を目指すの? 結局先人の知恵を借りて現実世界のコンピューターの歴史をなぞるだけ? そう思われる方は1章10話まで暫しお待ちを。電脳ウィザードの真の野望が語られます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ