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最初の仲間

 夕方。僕はアリシアとの待ち合わせ場所に向かう。


「ミロ。体調はもういいの?」

「うん。集会場で休んで、家に帰ってからはもうスッキリ」

「よかった。じゃあ行こっか。私の家に」


 村の喧騒から離れた小高い草原の丘、そのてっぺん。そこにアリシアの家はある。

 幾度となく訪れた二階建てのロッジ。だけど今の僕には、自分がここに入っていいものかと戸惑う。

 だけども躊躇なく扉を開けるアリシアに続いて、僕は迷いを降りきって彼女たちの家に入った。


「おばあちゃん。ただいま」

「おかえり。おや。今日はミロくんと一緒かい」


 この腰の曲がったお婆さんは、アリシアの祖母、パメラさん。

 アリシアはこのお婆さんとティモンドさんの三人で、この家で暮らしている。このお婆さん。料理がとてもうまくて、よくご飯をご馳走してもらったものだ。


「うん。ミロがやりたいことがあるんだって」


 アリシアの家に入った僕は、井戸の水を一杯。冷たくてとても美味しい。喉から入った冷気が、すうっと僕の体を通り、目を醒まさせる。

 僕は隣の部屋にある姿見に、自らの姿を映した。

 毎日見てきた『自分の』顔。だけども鏡に映るそれは、とても自らのものだとは思えなかった。


「……ものすんごい美少年だね」


 髪長くすればかわいい女の子にしか見えないであろう顔。健人の顔とは似ても似つかない。


「顔のいい男に転生するなら、もっと男前系がよかったかな」


 謎の文句をつきながら、僕はアリシアのもとに戻る。


「アリシア」

「なにかな?」

「アリシアの工房、また見てみたいな」


 アリシアは、魔力の出力こそ低いものの、魔法を器用に扱う力は尋常じゃないくらい高い。だから工房と呼んでる部屋で、アリシアは魔法で作った道具なんか作り、それを市場でを売っている。


 その詳しい説明を初めて求めた僕は、アリシアから解説を聞いているうちに『アレ』に襲われた。

 記憶の再起。僕は伊藤健人としての人生を思い出した。


「いいけど……、どうしていきなり?」

「なにか、とんでもないことに気がついちゃったかもしれない」


 リビングの奥の廊下、その向こう側。突き当りの壁にアリシアの工房への扉がある。

 久々に入った工房のなかでは、アリシアの作った「魔力量が少なくなると警告を出してくれる剣」といったクエストで役立つものから、「ボタンを押して点ける明かり」といった、見知ったお役立ちアイテムの詰め込まれた棚が、壁一面に広がっていた。どれもアリシアによる魔術処理で作られたものだ。


 やっぱり、アリシアの魔術加工の力は、とんでもない可能性を秘めている。僕はそう確信した。


「さっき僕がしたのと同じ質問だけど、もう一回聞かせて?」


 そうして僕は、市場で倒れる寸前にアリシアに尋ねた質問を、再度投げ掛ける。




「このボタンが押されたときだけ魔力が流れて灯りが点くと言ってたけど、例えばその内部回路を『両方のスイッチが押されているときだけ消える』ように作れるか。どの程度小型にできるか、そういった回路を繋げたり循環させたりできるか。どうかな?」




「えっと、さっきも言ったけど、ミロの言ったことは全部できるよ? 小さくするのもいくらでも」


 やはりだ。やはり、僕の閃きは間違ってなかった。

 あまりに大きな事実。それにより、僕は前世の記憶が甦るほどの衝撃を受けてしまった。


「アリシア!」


 僕はアリシアの肩を掴む。細い肩がぴくんと跳ねた。


「僕と一緒に、コンピューターをつくろう!」


 アリシアの魔法細工。その性質は、コンピューターを作るのに必要な数学的要件をすべて満たしている。

 つまり、


「僕の知識と君の魔法があれば、この世界にコンピューターを作り出せるんだ」

「え? コン……? なんだっけ?」

「うん、異世界の人にはまだわかんないと思う」


 今はいいのだ。現時点では、それでいい。じきにわかるはずだ。


「アリシア。これから忙しくなるけど、折り入って、お願いしたい。僕と一緒に、この世界で革命を起こしてほしい。僕にウィザードの夢を、見せてほしい」


 僕はアリシアに頭を下げる。

 視界の端に映るアリシア。その顔に浮かぶは戸惑い。

 

「えっと……」

 

 アリシアは困惑を声にのせて僕に放つ。


「顔をあげて?」


 あげる。思ったより近くにあった澄んだ蒼が、僕の目を留める。

 

「コンピューターとかウィザードとかよくわかんないけど……」


 アリシアは僕に向けてすっと手を差し出す。



「私なんかが、ミロの役に立てるなら、ぜひ」



 僕は安堵。床に膝つきかしずいて、小さな白い手を取った。


「なんかが、じゃないよ。僕の知識だけじゃだめなんだ。君の力が必要なんだ」


 (ミロ)は魔法に長けた家の生まれ。自身の魔力は弱いけど、それでもわかることがある。

 電脳革命にはアリシアの力が不可欠。この子の代わりになる魔術師なんて、おそらくこの世には存在しない。

 コンピューターの機構を魔術で再現するには、ありえないレベルの器用さが必要になる。

 そう。ありえない次元だ。

 アリシア以外には、不可能だ。


 こうして僕は、絶対に必要な最初の仲間を手にいれたのでした。


 コンピューター。漢字で表すと計算機、もしくは電脳。

 アリシアと二人で、この世界にそれを作り出す。


 僕らの電脳革命は、今ここから始まるんだ!

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