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とあるビルオーナーの宇宙戦記  作者: ヨシペイ。
第1部 宇宙漂流と幻影都市
6/66

第1部 6話 『ビキニ決着と悲しき宇宙葬』

 目を開けて、最初に飛び込んで来たのは、形の良いお尻だった。



 んー、女の人のお尻だよなー。

 唖然として、ボケた感想しか出なかったのは、それまでのギャップのせいと言わざるを得ない。

 お尻と言っても、勿論裸じゃない。

 鉄製のビキニの様なパンツを履いている。



 鉄製のビキニの様なパンツ? いや! これはそんなもんじゃない!!!



 俺は目の前のお尻の人物の全身を見上げた。

 切り揃えた前髪に、艶のある長い後ろ髪が揺れている。

 こ、これは!



「ビキニアーマーだっ!!!」



 もうね。

 ガッツポーズですよ。



 じっー。

 抱き抱えたままのラシュリーの視線が、超絶冷たかった気がするが、俺は気にしない。いや、男ならば今この時、そんな些細な事が気になる筈があるだろうか。

 いや、ない!

 そこに美女がいて、ビキニアーマーを着ている。その事実!

 それだけだ。理屈はいらない。



「こんな男がワタシのマスターだと?」

 思いっきり舌打ちされた様な気もするが、気のせいだろう。しかしもし、舌打ちされていたとしても構わない。マスターって言っていたからな。

 初回ガチャで呼び出した人物確定である。



「守様っ!」

 ワチが飛びついて来た。

 可哀想に鼻血が出ている。

 カバラの野郎……。

 殺意が今の事態に俺を引き戻す。



 依然、危険な状況に変わりなかった。

 オンヤの振り下ろした一撃だって、このビキニアーマーが剣を抜いて防いでくれていなかったら、確実に俺とラシュリーは命を落としていた筈だ。

「おい、ビキニアーマー!」

「なんだその変な呼び名は!」

 鍔迫り合いを繰り広げる美女に呼びかけると、中々素敵な反応が返ってくる。



「お前は何者なんだ?」

「ワタシはワタシだ。こっちは、今忙しいんだ。下らない質問は後にしろ」

 なんだか、とっても偉そうでツネ。



『守さん、大当りでやすよ』

「タヌキチ!」

『彼女はワルキューレでやす。戦乙女でやすよ。流石は守さん。今のこの状況にこれ以上ない引きでやす』

「当然だ! 俺は持っている!」

 もう一度、ガッツポーズ!

 あぁ、ビキニアー(割愛)。



 しかし、ワルキューレか。違う呼び名じゃ、ヴァルキュリアとも言ったかな? 北欧神話じゃ生と死を司る、タヌキチの言う通り戦乙女である。

 確かに……戦いぶりを見るだけで、冷や汗が頬を伝うのを感じる。オンヤとワルキューレの戦いは、戦乙女の名に相応しい物だった。

 両手にワチとラシュリーを抱えたまま、俺はワルキューレの戦いをじっと見守っていた。



「さて、下郎。お前の力はこんな物か? もっともっとワタシを楽しませてみろ!」

「ウウググ……」

 オンヤの口の端からは泡が出始めている。あの全自動っぽいモード、相当な負担をオンヤにかけているな。

 右に左に剣撃を繰り出すが、ワルキューレはその全てを弾いていく。



「何をしてやがる、オンヤ! そんな変な女に手間取りやがって!」

 ワルキューレの背後から、業を煮やしたカバラが突きを放つ。

「危ない!」

 俺が叫んだから交わせたわけじゃないだろう。背後に目があるのかと疑う様な動きだった。

 踊る様なステップで、ワルキューレはカバラの突きを交わした。逆にカバラは勢いを止める事に失敗し、その突きがオンヤの肩先を掠めた程だ。



「ふん。いいだろう、二対一か遊んでやる」

「おい、ビキニ! 遊んでる場合じゃない、とっとと決着をつけろ!」

「変な呼び名を更に縮めるんじゃない!」



 やり取りは兎も角、俺は真剣だった。

 ゴブザは相当重傷を負っている筈だし、真田丸達も怪我をしている。一刻も早く、戦闘を終える必要があるのだ。

 ワルキューレもチラリと、周囲を見回す。

 俺の仲間達の惨状を確認し、その表情が引き締まる。

「確かに、遊んでいられる状況ではない様だな」



 いつの間にか、ビルのスプリンクラーは止まっていた。

 ワルキューレの濡れた長い髪から、雫が滴り落ちている。

 すらりと伸びた長い手足に、整った、いや整い過ぎている顔立ち。確かにビキニアーマーは着ているが、その時俺はエロスよりも、なんだかこう神々しいものを感じて、気がついたら口を開いてしまっていた。



「おい、ビキニ」

「だから、その名を止めろと……」

「今からお前の名前は、アンリエルだ」

「アンリエル……」

 ワルキューレは俺の名付けた名前を小さく呟いた。

 噛み締める様にもう一度。

「アンリエル」

 そして笑った。

「貴様の様なマスターにしては、中々ではないか! アンリエル。気に入ったぞ。お前達覚悟しろ! このワタシ、アンリエルがお前達を黄泉の国に送ってやる!」



「いや、待て。その性格悪そうなやつは兎も角、もう一人は操られるだけっぽい。なんとか、生け捕りに出来ないか?」

「操られている……?」

 アンリエルは目を細め、オンヤを見つめた。

 無防備に見えるのに、オンヤもカバラも踏み込めない。すげぇ……。

「確かに精神を蝕まれているな」

「何とか出来ないか?」

「ふふん。それは、一体誰に尋ねているんだ?」



 アンリエルは思いっきり剣を床に突き刺すと、口の中で何かを呟き始めた。

 うぉい、ビルオーナーの目の前で、俺のビルを傷つけるんじゃないよ!

 床に突き立てられた剣が雷を帯びる。剣を中心に風が巻いて、光がオンヤに向けて走ったのは次の瞬間だった。



「不浄なる者よ、浄化されるがいい!」

 光の柱が立ち登り、びくりと痙攣したオンヤの体が崩れ落ちる。

「く、クソっ!」

 それを見たカバラが駆け出すが、間に合わない。二、三歩駆け始めた時には、アンリエルがその背後を捉えていた。

「寝ていろ、下郎」

 剣の平を、強かに首筋の後ろに叩きつける。多分、俺がカバラだったら首が吹き飛んだんじゃないかと思っただろうな。

 ご愁傷様。

「オンヤ……」

 ラシュリーが小さく呟いて、俺は戦闘が終了した事を実感したのだった。






 色々と……。

 色々としたい事、しなければならない事、それはあったのだが、まず第一に俺たちがしたのは、傷ついた者達の治療であった。



「ワタシは戦乙女だぞ。癒しの魔法などお手の物だ」



 そう言って、ふふんと鼻を鳴らしたアンリエルがみんなを治療した。これが無かったら、ゴブザなんかは命が助かったかどうか、怪しいものだった。

 アンリエル様々と言える。



 話が出たついでだから、ゴブザの事も触れておこう。

『うーん、どうやら、ゴブリンリーダーに進化してやすね』

「ゴブリンリーダー?」

『そうでやす。ポイントで呼び出した者の中には、経験や自らの才覚によって進化する者がいるそうでやす。ゴブザはそう言った者の一人だったと言う事でやすね』

「全員が全員ってわけじゃねぇんだろ?」

『そうでやす。個体差、経験差、同じ事を同じ様にしても、進化するとは限らないでやす』

「今回、ゴブザには助けられちまったな」



 あのオンヤの全自動モードの強さを正しく測れたのは、間違いなくゴブザのお陰だ。三匹のゴブリン達を、失ったショックの空白を埋めてくれたのも大きい。

 俺は彼に報いないといけないだろう。

『オーナーポイントで、配下の者達の進化具合や職業を確認するスキルもありやすよ?』

「馬鹿野郎。そんな余分なポイント、今はねーよ」

『そうでやすね』

 タヌキチは空気が読めるのか、読めないのか……果てさて。

 ま、今回はこいつにも、ちょっとだけ。ほんの少しだけ、助けられちまったけどな!

『素直でないでやすねぇ』



 治療が終わって、不法侵入して来た二人を縛り上げ、更には彼らの乗って来た宇宙船をビルに繋ぎ止め、俺達がしたのは、仲間のゴブリン達の葬儀であった。



 こればっかりは、ポイントが無いなどとは言ってられない。棺桶を用意して、そこにみんなを入れた。

 一人一人でと思ったのだが、ゴブザがみんな一緒がいいと言う素振りを見せたので、三匹一緒だ。



 本来なら宇宙葬なんだろう。

 けど、宇宙に棺桶放り込んで、それで永遠に彷徨うって、そりゃーあんまりにも寂し過ぎないか?

 俺はそう思うんだよな。

 だから、俺はここが異世界の宇宙って事に初めて感謝した。この宇宙じゃ、炎が燃えるんだ。

 俺達は、棺桶に火をつけて宇宙に流して、それをみんなで見送った。ワチなんて鼻水流して、びーびー泣いてたな。



 そう。

 命なんて軽いもんだよな。

 あばよ。

 ゴブイ、ゴブシ、ゴブゴ。

 お前らと一緒の宇宙漂流は楽しかったぜ。ありがとな。だけど、俺達は笑って前に進むぜ? 過去を振り返って、笑えない毎日を過ごすのは俺の主義に反するんでな。

 そっちで、俺達が笑っていられる様に見守っていてくれよ。

 俺達はずーっと。その棺桶の炎の光が見えなくなるまで、みんな一緒に彼らを見送ったんだ。

 そうずっと、その光が消えてなくなるまで、だ。





◻︎現在のオーナー状況

職業:新米ビルオーナー。

オーナーポイント :860ポイント

配下:幼女1、タヌキ1、老エルフ1、ムキムキドワーフ1、ゴブ2(内ゴブリンリーダー1)、ビキニアーマー1。

ビルサイズ:3フロア。小さめ。

備考:貴方のパーティーは侵入者に辛くも勝利した。

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