第2部 15話 『擬き』
俺とシルバーが睨み合っていると、アンリエルがすっと間に入った。
「待て、シルバー。マスターはワタシを信用してこう言ってくれているが、ワタシだって流石に全開全力のお前と勝負になるとは思っていない」
「ほう?」
俺はこっそり心の中で……え、そうなの? と思ったが、ポーカーフェイスをキープ。
よくよく考えたら、アンリエルが戦いたそうにしていたから、シルバーを挑発しただけで、他意は全く無い。
シルバーと対立したいなどとはこれっぽっちも思っていないのだから、ここはアンリエルの好きにさせるべきだ。
「シルバー、ワタシとマスターは『残虐公爵』と戦う事になる。残虐公爵はお前と同じくらい強いのだろう?」
「俺があの野郎と同じくらいだぁ? 冗談言っちゃいけねぇや。付き合いは長ぇがね。あの野郎が逃げ回る所為で、勝負がつかねぇだけなんだ。俺の方が確実に強い」
「ならば、余計に好都合だ。シルバーの強さを知る事で、ワタシは残虐公爵の強さを測りたいと思う」
「なるほど。あの野郎の強さが分かればいいんだな。それなら本気を出すまでもねぇ。半分程度の実力で問題は無い」
「実力の一旦が知れれば十分だ」
なるほど、アンリエルはシルバーとのバトルを見せる事で、ウェスティン・ラパーザの強さを、俺に感じ取りさせたかったのだと理解した。
これだけ協力して貰って、こう言う想像は不謹慎だとは思うのだが、もし俺達が、シルバーの海賊団と対立したとする。
勿論海賊団の規模と戦う、集団戦闘としての戦いを最初に考えるが、それでもやっぱりシルバーと言う強烈な個性は無視出来ない。
長距離の攻撃に制限がかかるこの宇宙では、特に、だ。
個の力がどうしても、戦況を大きく左右する事になるだろう。つまりシルバー宇宙海賊団と戦う場合、こちらも個の力でシルバーを倒す必要が出て来る。
こう言う予感があるのだ。
もしかすると、ウェスティン・ラパーザを直接倒す事が、俺達がラシュリー達にしてやれる最大の手助けなんじゃないかと思うわけだ。
「……お前ぇさんの言いてぇ事はわかった。じゃあ、守。お前はどう思うんだ? この『片足』ジョン・シルバー様を真正面から挑発したんだ。まさか、ただですむと思ってた訳じゃあるめぇ?」
「ん、じゃあ無かった事にしてくれると助かる」
「はぁ? お前さんなぁ……」
「シルバーだって可愛い部下の為なら、暴走しちゃう時もあるだろ?」
「そりゃあ、あるがよぉ」
「じゃあ、俺の気持ちもわかるじゃないか。すまんかった」
「ハハ、いい性格してるぜ。お前はよぉ」
そう言ってシルバーは笑って、俺の無礼は許された。ラッキー。
「もしかすると、お前さんのそう言う所が、一番の才能なのかも知れねぇな」
「ん? シルバー。何か言ったか?」
「いや、何も言ってねぇさ。良し、アンリエルのお嬢ちゃん、一つこの俺が相手をしてやる。ウェスティンの小僧の強さって奴を見せてやる」
アンリエルはすっと頭を下げた。
「宜しく頼む」
流石のアンリエルでもシルバーの事は認めているんだと思って、俺は嬉しくなった。俺が好きな連中には仲良くして貰いたい。
「フリント!」
『了解、シルバー。シルバー』
フリントの体が変形して、シルバーの片足を補う。シルバーは松葉杖の代わりに床に落ちていた木刀を拾い上げた。
その頃には、アンリエルも木刀を構えている。
「おう、守。開始の合図を頼むぜぇ」
「マスター、頼む」
え? 俺かよ。
仕方なく、俺は前に出て、片手を上げた。
こう言うのは気合い入れて叫ぶだけだかんな。恥ずかしいとか言っている場合じゃねぇのだ。
「始めっ!」
俺が片手を振り下ろした瞬間に、激突は始まっていた。
まずはアンリエルが眷属を次々に突撃させる。眷属達は普段なら光の剣を持っているが、今は素手の様だ。だが、強かな打撃をシルバーに与えて離れていく。
「挑んで来る事だけはあらぁな。格段に制御が上手くなってるじゃねぇか!」
「マスターの教えのお陰だ」
「ほう、守にそんな知恵があるとは思えなかったがねぇ」
「マスターの力を侮るとお前でも、足元を救われるかも知れないぞ」
「おいおい、アンリエル。俺は一度も守を侮った事はねぇよ」
「それは賢い選択だ!」
光の眷属の攻撃の合間に、アンリエルも攻撃を加える。その連携力は大したものだった。
ステップインでシルバーの前に立ったアンリエルは、眷属達とは違い、正面からシルバーに挑んでいく。
木刀を振り下ろすが、シルバーはそれを難なく受け止める。だが、手は止まらない。シルバーの実力をアンリエルは理解している。
だからこそ、それを凌駕する為に回転を上げていく。斜めに斬りつけ、横に薙ぐ。
「うぉおおお!」
「いいじゃねぇか。そうだ。格上の奴とやる時は、気持ちで負けていちゃあ駄目だ。気持ちで相手を食えよ!」
シルバーの言葉に応える様に、アンリエルの全力攻撃は続く。
こうやって外で見ていると良く分かる。それでもやはりシルバーは凄い。
アンリエルは自身の攻撃を行いながらも、眷属による一撃離脱の攻撃を続けいているのだ。横から、背後から迫る眷属達の攻撃を、シルバーは避け、受け止め、その中で全力のアンリエルの攻撃も完璧にさばいているのだ。
……激しい訓練をしても、まだ、こんなに差があるのか。
だが、衝撃を受けた俺とは違い、アンリエルは笑っていた。
「どうだ? シルバー、ワタシは戦えているか?」
「おう。訓練を始める頃に比べれば、格段に強くなった。俺達の前に立ってもいい位には認めてやらぁ」
「そうか! まだまだ、いくぞ」
アンリエルの速さが更に上がる。
俺の目では、もう全ては捉えきれない。
俺は訓練を始めた当初、アンリエルが何度もシルバーにやられている姿を見ている。ここまでの戦闘になったのを見た事はない。
アンリエルは強くなった。だが、それでも足りないのに、まだ強くなるとして、全く諦めていないのだ。
ハハ、凄えな。俺があの時呼び出したビキニアーマーは、努力と向上心の塊だ。俺はこの時、素直にアンリエルに尊敬の念を抱いていた。
「だが、まだまだ、俺達の前に立っていいって資格を得たくらいだ。そいつはわかっているんだろう?」
「あぁ、まだまだ、ワタシが強くなる事だけはわかるぞ。いや、ワタシだけではないな。ワタシの仲間達も、今よりも強くなる」
「上等だ」
そう言うと、シルバーは突如不可解な動きを見せた。
軽く跳躍すると、とんでもない力で両足で床を踏みつけたのだ。床に放射状のヒビが入るのがわかった。
余りの気迫に、ビルが壊されても俺は文句も言えない。
シルバーの異様に、アンリエルも、その眷属達もシルバーから離れて、彼の動きを見つめている。
「お前さん達の目標、ウェスティンの小僧には必殺技がある。大サービスだ。その擬きを俺が再現してやらぁ。このビルが持たねぇからな、一度だけだ。覚えて対策しやがれ!」
そう言うとシルバーは、手の中に光の玉の様なものを作り上げていく。それを目の前に掲げると、木刀を構えて、思い切りその光の玉に突き入れたのだった。
「巨象の嘆き!」
その瞬間、光の玉が弾けて、ビル中に震えが走った。
玉を中心に衝撃が広がっていく。光の眷属が俺の前に集まって衝撃を吸収してくれなければ、俺はきっと壁に叩きつけられていただろう。
アンリエルは腕を交差させ、木刀を前にしてその衝撃を受け止めたらしい。顔が驚愕に固まっている。
「擬きだし、武器が木刀だからな。本物はもっと強烈だ。こいつを何とかしなけりゃ、ウェスティンの小僧には勝てねぇ」
アンリエルがどう思ったのか、それはその表情から良くわかる。
こんな技を持つ敵を、どう倒すのか。
その事を必死に考え始めているのだ。
「守。アンリエルのお嬢ちゃんに感謝しておけよ。俺はお前さんへの罰として、少しくらいは怪我させても構わないと思っていたんだからな」
「いや、ちょっと位の怪我じゃすまなかったと思うぞ」
「そうか。ガッハッハッハッ!」
笑ってるし。
俺は今更ながらに、このジョン・シルバーと言う男のスケールの大きさに、ため息が出る思いだった。
こうして俺達は、ライガール王国に向かう間、シルバー達に激しい訓練を受ける事が出来たのだった。
□現在のオーナー状況
職業:四分の一ビルオーナー
オーナーポイント :23458ポイント(更新中)。
配下:幼女1、タヌキ1、老エルフ1、ハイゴブリ1、ハイゴブシャ1、ゴブ17、ビキニアーマー1、コロボックル14、XYZ各1、カースクラー商会の面々3、暴風壁1。
今の迷子:王国王女、王国騎士団長。
今の協力者:とある商会長の孫娘。
ビルサイズ:3フロア。
分割ビルA(ラフシー商会ビル):1フロア。
備考:航海も訓練も、終わりはやって来る。迷子の王国王女と騎士団長は貴方の助けを待っている。




