第1部 30話 『てめぇらの権力争いなんて知らねぇ』
「よ、四商会会議ですと? カフス殿は一体何を言っているのです!?」
バラモンの声に、ローグラインは辛うじて自分を取り戻す事が出来た。
愚者の愚直な意見と言うものも、時には役に立つものだ。
カフス・アグラ程の男が、公の場にアミエル、いやカースクラーを名乗る者を連れているのだ。これが危険と思わないのであれば、今までの人生の中で、とっくにローグラインは死んでいる。
明らかに危険な兆候であった。
だが、バラモンに問いかけられても、カフスはあくまでも涼しい顔である。
「おや、バラモン殿。これはおかしな事をお聞きになる。ここにいるのは、アミエル・カースクラー殿です。故ザザ・カースクラー殿のご息女ですよ?」
ローグラインは、カフスの横面を張り倒してやりたかった。謀ったな、若造が……。
「幻影都市発足以来、ダータネル、アグラ、カースクラー、ベンディミア。四大商会とはこの四つを示します。その四家が揃っているのだから、当然、四商会会議となりましょう」
「しかし……」
バラモンを手で制し、ローグラインは前に出た。
「カフス殿。私からも一つ宜しいかな?」
「ローグライン殿。勿論お伺い致しましょう」
「今から十年前に私は、亡きザザ・カースクラー殿より、カースクラー家の今後を託され、その大部分をベンディミアの配下としたのです。その際、カースクラー家は一度断絶したのです。一度滅んだものが、何の断りもなくここにいるのはおかしいと私は思いますが。如何かな?」
アミエルの瞳が殺意を持って、ローグラインを射抜いていた。ローグラインは気づいていたが、平然とそれを無視した。
視線では人は殺せんよ、アミエル・カースクラー。金か、権力か、刃の煌めきでなければ、人は殺せぬ……。
カフスは片手であご先を撫でて、『ふうむ』と唸った。
「何を考える事があるのかね、カフス殿」
「いえ、滅んだ……滅んだですか。アミエル殿、一つお聞きしますが、カースクラー家は滅んだのですか?」
アミエルは凛として答えた。
「滅んでおりません。ザザ・カースクラーの血を受け継ぐワタシが今ここにおります。また、数ヶ月前にワタシはカースクラーを名乗り、商売を始めましたが、ダータネル家、ベンディミア家ともに、カースクラーの名に対して異議があるとはお伺いしておりません」
腹が立つわ! カフス、アミエルともに殊更に、これ見よがしに、この私のベンディミア家の名前を、どの家より下に呼びおって!
「何を言う。儂は異議があるぞ!」
ローグラインは、バラモンの口を塞いでやりたかった。だが、一度発せられた言葉は戻る事はない。バラモンの質問から、間髪入れず、冷たいアミエルの言葉が部屋に響き渡る。
「その言葉は数ヶ月前に聞きたかったでありんすな。ザザ・カースクラーの娘が、商会を立ち上げカースクラーを名乗ったのです。カースクラーの名は既に世間に認められております」
アミエルは言い澱む事なく、言葉を紡いでいく。その立ち振る舞いは十二分に人を惹きつけ、堂々たるものであった。
少なくとも、バラモン・ダータネルは確実に圧倒されてしまっていた。
「断絶した、断絶していないに関わらず、ワタシ、アミエル・カースクラーはカースクラー家の長として、四大商会の商会会議に参加する権利を、ここに主張します」
「なるほど、これは筋が通っている。勿論、私は全面的に賛成させて頂きましょう。いかがお思いになられますかな、バラモン殿?」
「あ、いや……儂は、その……」
とんでもない茶番もあったものだ。
始めからこれを狙っていたのだな。
「私は認めない。バラモン殿も、同意見かと思われるが?」
「ローグライン殿……そ、そうですな。こんなものは到底認められやしない。そうだ。断じて認められない」
ふん。
例え、カースクラーの小娘を引き込んだとしても、話し合いは常に平行線になるだけだ。
バラモンは既にこちら側だ。
ならば、若造と小娘が手を組んだとしても、どこまで行っても二対二の平行線なのである。
若造にはわかるまい。
そうなった時は、家の力が物を言うのだ。四大商会時代を乗り切り、それを終わらせ、三大商会を作り上げたこの自分に敵うと思うなら、抗って見せればいいのだ。
ほれ。抗って見せるが良い。
私はそれを決して許しはしない。それでも良ければ、な。
「……オイオイ、ちょっといいか?」
会議室中に明らかに場違いな声が響いたのは、その時である。
全員の視線が、一人の男に注がれる。
「よっと」
男は掛け声をかけて、立ち上がる。
勿論、彼は荒海守であった。
その横には、戦乙女こと、アンリエルが一人付き従っていた。
「俺にとっちゃ、てめぇらの権力争いなんてどーでもいいんだよ。ローグライン・ベンディミア。俺がケジメをつけてぇのは、てめぇなんだよ。てめぇ一人だけだ。俺は貴様を告発する」
「告発だと?」
「貴様の部下が俺のビルを襲撃した。それで取り返しのつかない被害が出たんだ。しでかした事への責任は取って貰う。そして……ついでに、この薬についても洗いざらい吐いて貰おうか?」
そう言って、守は懐から、例の小瓶を取り出したのだった。
それは事前に、守がアミエルから預かった小瓶であった。
子供に変装したアミエルとシャルケが、命がけでベンディミア家から盗み出した小瓶であった。
追い詰められたアブレーチェが、中身を飲み干した薬瓶と、オンヤが宇宙海賊ウェスティン・ラパーザに騙されて飲んだ薬瓶と、全く同じ形状をしている小瓶である。
体の硬直、即ち表情の強張りは誰にも気づかれていない筈だ。一瞬、いや一瞬にも満たぬ間に自分は、その衝撃から復帰した。
バラモンなどとは違う。
私はローグライン・ベンディミアなのだ。ベンディミアの名を継ぐ者が、こんな風に追い詰められて良い筈がない。
筈がないのだ!
「なんの事か、とんと身に覚えがないな。そもそも、貴様は一体誰なんだ。カフス殿、部外者がここにいる。会議を開いた貴様の責任だぞ」
「私の責任ですか……」
たっぷり時間をかけて、カフスはローグラインの顔を観察した。笑顔で、余裕たっぷりの表情でカフスは、ローグラインを見つめている。
無論、ローグラインは苛立った。しかし、今は表情に出すわけにはいかない。平然を装うが、心の中は溶岩の様に煮えたぎっていた。
若造めぇ……。
やがて、カフスは頭を振った。
「残念ながら、ローグライン殿。貴殿の主張は聞き入れる事が出来ない」
「……何故かね? 私の部下がその男のビルを襲撃したからかね? 襲撃に関しては私は勿論知らない。だが、例えその件が本当だったとしても、直接の利害関係が発生しない限り、各家は各家の行いには口を出さない。この不文律があった筈だと思うがね」
「ビル? あぁ、ローグライン。その話に私は興味がない。私にとって、彼が今ここにいるのは彼が証人だから。ただそれだけですよ」
「証人だと?」
「その瓶が原因です」
「瓶? はて、何のことやらさっぱりわかりませんな」
「苦しい言い訳だな。ローグライン・ベンディミア。俺はある日そいつを手に入れた。手に入れた経緯を話してやる」
守は鼻息荒くまくし立てた。その立ち振る舞いは、カフスやローグラインに到底及ばない。若さに溢れ、素人臭い物であった。
「それを手に入れた奴は言っていた。ベンディミア家から盗んだ物だと。つまりはてめぇの家だ。人を殺戮機械とするとんでもない薬を、貴様は製造していたんだろうが!」
怒りに任せた守のその声。弾劾の台詞は、部屋中に響き渡ったのであった。
□現在のオーナー状況
職業:駆け出しビルオーナー。
オーナーポイント :25245ポイント。
配下:幼女1、タヌキ1、老エルフ1、ゴブリ1、ゴブシャ1、ゴブ17、ビキニアーマー1、コロボックル14、XYZ各1。
今の協力者:狐面2、落ちぶれ商会の面々3
ビルサイズ:3フロア。小さめ。
備考:貴方の怒りは本物だ。だが、その演技力は本物とは限らない。




