第1部 29話 『商会会議開催』
ローグライン・ベンディミアは苛立っていた。
アブレーチェから作戦終了の連絡が一向に無いからだ。その上、アグラ家のあの男からの三商会会議の招集と来た。
クソ。
やはり、彼奴は目の上の瘤だな。
未だに尻尾は掴めていないが、確実に私の邪魔をしている。
あのカフス・アグラと言う男は。
予定ではとっくに幻影都市はローグラインの物であった。
ザザ・カースクラーを謀略で失脚させ、カースクラー家を潰し、ラフタ・ダータネルとの争いにも勝利し、いざゴールと言う所で、振り返るとカフス・アグラがいたのだ。
最初はただの若造と侮っていた。それが徐々に力をつけ、今では裏でローグラインの邪魔をする存在にまで成り果てた。
許されん事だ。
思い上がった若造には、近い将来必ず鉄槌を下してやる。ザザ・カースクラーに始まり、ラフタ・ダータネルも、彼は彼の邪魔をする者に容赦をした事はない。
薬漬けにしての衰弱死、無念の憤死、苦痛を与えてのショック死、食べ物を与えず餓死、悲惨な死に方はいくらでもあるのだ。
「オイ、アブレーチェからの連絡はまだか?」
問われたのはアブレーチェの留守を任された護衛隊長であった。格としては、アブレーチェは勿論、その下のブーチよりも一段下がる人物だ。
彼は内心、主人の怒りに恐れを抱いていた。
「ハッ……連絡は未だありません」
「全く! 何をしているのだ。彼奴は!」
ローグラインは怒りを隠そうともしていなかった。まだ、怒りですんでいるのは、彼が今回の作戦の成功を一ミリも疑っていないからであった。
もしそうでなければ、今の護衛隊長に、とっくに物でも投げつけていただろう。
アブレーチェに、クフィール、ガスト、ガイバーンまで預けたのだ。それに300人もの手勢をつけた。
敵は50人にも満たないのに、だ。
更に、アブレーチェには、宇宙海賊ウェスティン・ラパーザと共同開発した例の薬も持たせている。
失敗など、あり得る筈が無い。
それなのに、何故、報告が遅延しているのか?
ローグラインは、完全にアブレーチェ達が自分達の嗜好に走った為、遅延していると思い込んでいた。
血が大好きな連中ばかりだからな。獲物を嬲っているのだろう。だが、ガス抜きがしたいならば、報告を終えてからするべきなのだ。
馬鹿者どもが! と……。
これをローグラインの失敗と言うのは少し酷であったかも知れない。アブレーチェ達はいつ如何なる時も、彼の希望を叶えてきたのだから。
特に今回の作戦の立案は、ローグラインの希望が盛り込まれている。
アブレーチェが最初、ローグラインに要望した手勢は、ガスト、クフィール、ガイバーンの内一名の作戦参加であったし、人員は100名と言うものであった。
それでは足りぬと人員を追加させたのは、ローグライン自身の判断である。
石橋を叩いても、それでも尚疑う。それ程までローグライン・ベンディミアと言う男は用心深い男であった。
暴力の専門家が要求してきた倍以上の戦力を渡したのだ。この時点で、ローグラインにとって、失敗などあり得る筈が無いし、あってはならないものであったのだ。
ローグラインは怒りを抑える様に、自身の服装を整えた。もう、アグラ邸が眼下に見えている。
ここから先は、自身の怒りをただぶつけて良い人間とやり取りをするわけではない。
今は、まだな……。
三商会会議とは、三商会の長であれば誰でも開催する事が可能だ。通例では、開催者、招集者が、開催場所を提供するものだが、ローグラインが三商会筆頭の力を手に入れてからは、他の二家をベンディミア邸に呼びつける事が多かった。
それが力を示すと言う事なのだ。
だが、今日、カフス・アグラの求めに応じ、こうしてローグラインが出向いたのは、カフスにアブレーチェや、クフィール、ガスト、ガイバーンの不在を知られたく無かったからだ。
「こんな事になるのであれば、誰か一人でも手元に残すべきであったわ」
「誠に……」
「誠にでは無い! そう思うなら、貴様が少しは努力せんか!!」
「申し訳ございません……」
部下を怒鳴りつけて、ローグラインは少しだけ気分が良くなった。
やはり、権力を手に入れる事だ。
権力さえあれば、こんな事にはなっていないのだ。やはり、力だ。他者を従える力。私こそが、この幻影都市の支配者として相応しいのだ。
しばらくの後、彼はアグラ邸に降り立っていた。
だが、彼は知らない。
今、思い描いた中の誰一人として、彼の元には戻らない事を。その部下達も、その権力と怒りを恐れて、誰一人彼の元に戻ろうとしない事を。
あの戦闘を経験した者達は明確に感じ取っていたのだ。ベンディミア家の失墜の可能性をある事を。命を掛けた戦闘とはそう言う物だ。
失敗にはより苛烈な報復があって然るべきではないか。血の臭いがきつい場所にいる人間程、そう言う鼻が効くのは当たり前だ。
ローグラインに最後まで忠誠を尽くそうと言う者がいなかったのは、興味深い事である。
因果応報とでも言えば良いのだろうか。
今この時、ローグラインの元には誰も戻らない。
「いいか! アブレーチェから連絡が来たら、何があろうと直ぐに私に知らせるのだぞ!」
宇宙船に居残る者達にきつく言い残し、ローグラインはアグラ邸に足を踏み入れた。
通された待合室で、話しかけて来たのは、バラモン・ダータネルである。
底の知れた人物だ。
見た目だけでも人を威圧したいのか、見事なカイゼル髭を蓄えている。
「おぉ、ローグライン殿。カフスの若造が、我らを呼びつけるなど、不愉快な事ですな」
「全くだ」
私はお前ごときが、未だに私の事を『殿』呼ばわりしている事が不愉快だがな。
貴様如きが、私と同格か? 早く『様』付けに変更させたいものだ。……いや、いっその事、早く視界から消え去ってしまえば良いのに。
しかし、ローグラインはそんな事を思っているとは、少しも表情には出さず、バラモンの主張を受け入れる様に微笑んだ。
「なるべく早くご退場頂くのが吉ではありませんか?」
「そうですな……その後は我ら二人で」
何が二人か。
カフス・アグラが消えれば、貴様など用無しだ。
「そうですな。早くその未来を掴み取ると致しましょう」
そう言って、ローグラインはバラモンの肩を親しげに叩くのであった。
会議室に通された瞬間に、ローグラインの眉が大きく跳ね上がった。
表情に真剣さが帯びる。
会議室の中央では、ホストであるカフス・アグラが笑顔で手を広げている。
「ようこそ。良くおいで下さいました。ローグライン・ベンディミア殿、バラモン・ダータネル殿」
それは良い。
問題はその隣に立つ女の存在だ。
何故、この女がここにいる?
黒のドレスを纏った美しい女である。美しい事は美しい。だが、不愉快さが募る余り、その美しさを少しも楽しめ無い。
何故だ。何故、この女がここにいるのだ。
アミエル・カースクラーが何故、ここにいる……。
頭は止めどなく回転するが、ローグラインは自分が混乱しているとは思っていなかった。混乱する様な事態に陥る事自体、彼にとっては数年絶えて久しい事であった。
この時、ローグラインは気づいていない。
視界の隅にいる。一人の男の存在を。
その男は出窓の一つの縁に座っていて、立ち上がりもしていない。来客を迎え入れようとしていない事は明らかだった。
あぐらをかいて座り、窓ガラスにもたれかかっている。そうして、ただ、冷めた視線をローグラインに注いでいるのだ。
その男の隣に寄り添う様に立つのは、一人の女だ。絵画の様な美しさを持っているが、こちらも今のローグラインの目には入っていない。
その女もアミエルと同じく、黒のドレスを纏っていたが、その目は怒りに燃えていた。怒りを込めた瞳で、ローグラインを睨みつけている。
そんな部屋の中のピリついた雰囲気には、まるで頓着しない、満面の笑みを浮かべてカフス・アグラはこう言い放ったのだった。
「さぁ、では皆さん揃った所で始めましょう。『四商会』会議をね」
と。
□現在のオーナー状況
職業:駆け出しビルオーナー。
オーナーポイント :25245ポイント。
配下:幼女1、タヌキ1、老エルフ1、ゴブリ1、ゴブシャ1、ゴブ17、ビキニアーマー1、コロボックル14、XYZ各1。
今の協力者:狐面2、落ちぶれ商会の面々3
ビルサイズ:3フロア。小さめ。
備考:舞台は整った。後は追い詰めるだけだ。




