第1部 27話 『護衛を連れていざ行かん』
「よぉし、見せてみろよ」
そうやって俺が促すと、宇宙船の奥から、服を着替えたX字とヨルコが姿を見せた。
X字には、髪をオールバックに整えさせて、黒のスーツを着させた。着慣れないスーツが窮屈そうだ。腰に下げた刀が絶望的なまでにミスマッチである。
本人が今着ている服に、違和感を覚えていて、それが立ち振る舞いに完全に影響している。ぎこちないのが丸わかりだ。
C級ヒーローだな。
と、髪型を見てくだらない事を考える。だが、自分自身、無理に下らない事を考えようとしていると感じて逆に萎えてしまった。
ふー。
落ち着けっての。
俺なら出来る。俺には出来る筈だ。
彼の事を懐かしむのはいつでも、出来る。俺は今、俺がしなきゃならん事に向き合わなきゃならないのだ。
ヨルコはX字とは違い、人目を引く赤を基本としたドレスを着ていた。こちらは無理くり着せられた感の強いX字とは違い、見事な着こなしであった。
体の線が綺麗に出るタイプのドレスで、ヨルコのスタイルの良さがわかる。
特に、空いた胸元がセクシーである。
ナイスドレス、グッジョブ!
アミエルが貸してくれたのか、その胸元には綺麗な宝石が見えた。どこに出しても恥ずかしくない立派なレディの姿である。
艶やかな笑顔をヨルコは見せた。
「いかがでございましょう、ご主人様」
「い、いいじゃねぇか。う、うん。いいと思うよ」
艶やか過ぎて、思わずキョドッてしまう。
うーん、あれだな。アンリエルと違って、ヨルコはあざとい感じだな。自分の魅力をわかっていると言うか、何というか……。
「本当ですか!? 似合い過ぎておりますの? ご主人様がそう言われるのであれば、ヨルコはいつでも……」
なんか、凄い勢いで、迫って来る。
前言撤回。
なんか、んー、なんか、違う。
「馬鹿野郎、ヨルコ。お館様が困ってるじゃねぇか」
「ちょっと、X字。お離しなさい。ぶっ飛ばしますわよ!」
「ハハハ!」
俺は思わず笑い出す。
突然、笑い出した俺を見て、二人はキョトンとしている。
「いいよ、いい。いやー、やっぱり、お前ら連れて来て良かったわ」
そうそう。これでいいんだ。
過去は戻らない。過去は俺の中にちゃんとあるんだから、俺はこれでいいんだ。
「その調子で頼むわ」
「はい!」
不思議なもんだ。仲は悪そうなのに、二人の返事はきっちり揃っていたな。
今、俺達が乗っているのはアミエル所有の宇宙船だ。正しくはカースクラー商会の、であるが。
俺は横に座っているアミエルに問いかける。因みにアミエルもヨルコに負けないくらいセクシーな感じのドレスを着てるんで、こちらも俺的に非常にグッジョブである。
「貧乏そうなのに、良くこんな船持ってたな」
「守様は失礼だね」
「守様だぁ?」
問いかけると、アミエルは顔を赤くして、露骨に下を向いて視線を逸らした。
「ア、アタシが、アンタをどんな呼び方で呼ぼうとアタシの勝手だろ?」
いや、そこには明確に俺の許可がいると思うが。
敢えて疑問を言うのもなんなんで、じっーと見つめていると、アミエルは堪え切れなくなったのか、逆に詰問して来る。
顔が近いぞ。
「嫌なのかい!?」
んー。どうだろう。
嫌ではない。うん、嫌ではないな。
内の連中も、気がつけば俺の事はみんな好き勝手に呼んでるしな。なんの問題もない。
「うむ。許可してやろう。好きに呼ぶが良い」
「ふざけたお人さね。フフフ」
アミエルは嬉しそうに笑っている。
何が嬉しいのだろうか? 謎である。
「商館がボロボロだったのは、ベンディミアの嫌がらせを受けていたからさ。商売だって相当邪魔されていたけどね。やれる事はやっていたんだ。貧乏って訳じゃありんせんよ」
「裏で協力してくれていた人物もいたから、か?」
「悔しいけど、守様の言う通りさね。その人が居なけりゃ、今頃、カースクラー商会は無かったし、アタシらもこの世にいないか、それよりもっと酷い事になっていただろうね」
「でも、油断は出来ない野郎なんだろ?」
「こんな状況でもなければ、アタシも気軽に話しかけたいとは思わないね」
「そうか」
過酷な人生を歩んで来たアミエルがそう言うんだ。やっぱり、油断は出来ない男らしい。
ま、協力してくれなきゃそん時は、そん時だ。
気楽にいこう。
俺はそう決めた。
大体、交渉ごとは緊張してても良いことは一つもない。リラックスが基本だろ。
アミエルの船で俺達が目指していたのは、そのアミエルの協力者の屋敷である。
運転手はシャルケが務めており、乗り込んでいるのは俺、アミエル、そして護衛役として連れて来たX字とヨルコの合計五名である。
X字のスーツはポイントで購入し、ヨルコのドレス等はアミエルからの借り物である。
アミエルの協力者は権力者である。
護衛役くらいビシッと服装を決めて貰わんと、格好がつかないからな。
え? 俺。
俺はカジュアルな私服だ! ババーン。
権力者の特権だろ。公とか、服装で左右される場所にラフな格好で出れるってのはな。変な格好って訳じゃないんだから、これで良い。
いつかやりたい。徳利シャツで、プレゼンって奴を! ……なんてな。
『守さん』
なんと! 突然、空中にタヌキが現れた。タヌキは仲間にして欲しそうにこっちを見ている……。
仲間にしますか? はい いいえ
『また、馬鹿な事を考えてないでやす?』
「考えてたぞ。それでどうした?」
お、タヌキチめ。一丁前にため息なんて吐きやがって、生意気な。
『……まぁ、いいでやす。どうやら、またオーナーポイントが加算された様でやすよ』
ほー、どれどれ。
俺はポイントステータスを開き、残ポイントを確認する。
『25245ポイント』とある。
あの戦闘で俺はポイントのほとんどを使い果たしていた。だから、今回加算されたのは25000ポイントと言う訳だ。
オンヤ達の襲撃時は、2000ポイントだったから、実に十倍以上のボーナスポイントをゲットしたって訳だ。
ボーナスポイントじゃなく、気まぐれポイントだったか。
ま、どっちでも良い。
多いのか、少ないのか。
今回は、そう言う観点じゃないんだよな。
だが、まぁ、ありがたい事には間違いない。これから、俺達が向かうべき場所とか、俺が考えている事とかを考えると、有効に使うべきなのだ。
『……嬉しくないでやす?』
お、馬鹿野郎。てめぇ、気を使いやがって!
俺にしては珍しく、気遣いが嬉しくなってしまって、タヌキチの頭を撫でてやる。
途中まで、タヌキチは目を細めて嬉しそうにしていたが、急にハッとして、
『い、いけないでやす。アッシは立派なポンポコタヌキでやすのに!』
とか言って、慌てて消えてしまった。
だから、それ、何なんだよ……。
俺達が会いに行こうとしているアミエルの協力者とは、四大商会、いや現三大商会の一角、アグラ家の現当主である。
恐らく今までの話の中では、アグラ家は一番影が薄い。
カースクラーはアミエルの生家だし、ベンディミアについては……話す必要はないな。
ダータネルはアミエルを囲っていたラフタ・ダータネルが当主を務めていたが、そのラフタがローグラインとの権力闘争に負けてからは、明らかに力を落としているらしい。
現当主のバラモン・ダータネルは日和見主義者らしく、最近ではローグライン・ベンディミアと親しくしていると言う噂だ。
仲が良いつもりで、利用されてる典型的な奴なんだろう。
そう。
戦略系のゲームとかで見たら、アグラ家はこの時点で詰んでいる。
ダータネル家を平和的に吸収したら、次はアグラ家だ! 的な展開しか待っていないだろう。
バラモンって奴は馬鹿だろ。敵がいなくなったら、同盟ってのは破棄されるもんだぞ。少なくとも俺の知ってる何とかの野望じゃ、大体そうだ。
そうしないと、ゲームが終わらん。
そんな詰んでる状況の中、アグラ家の現当主は、裏でアミエルを援助してカースクラー家を復活させ、その援助をベンディミア家に気取られず、日和見主義のダータネル家を最後の最後のギリギリのラインで止まらせている。
その上で、自身はベンディミアと敵対してないってんだから、どこのやり手だ、スーパーマンだっつー話になるよな。
カフス・アグラ。
それが、現当主の名前である。
まだ、三十代前半の若さだと言う。
俺達に時間は無い。
ローグライン・ベンディミアを追い詰めるなら今しかないのだ。だから、まだ血の臭いも取れていない今、傷も癒えぬ今、俺達は動いている。
□現在のオーナー状況
職業:駆け出しビルオーナー。
オーナーポイント :25245ポイント。
配下:幼女1、タヌキ1、老エルフ1、ゴブリ1、ゴブシャ1、ゴブ17、ビキニアーマー1、コロボックル14、XYZ各1。
今の協力者:狐面2、落ちぶれ商会の面々3
ビルサイズ:3フロア。小さめ。
備考:状況は全国統一目前だ。全国版なら暗殺決めて一発逆転だ。




