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とあるビルオーナーの宇宙戦記  作者: ヨシペイ。
第1部 宇宙漂流と幻影都市
2/66

第1部 2話 『今更ですが異世界確定』

 がっつり。



 がっつりワチには説教したのは、言うまでもない。半べそかいていたから、今後、勝手にポイントを使う事はないだろう。ない筈だ。



 何? こんな小さな子供を叱るなんて可哀想だ?

 アホか。ここは宇宙でビルの中には飯がないんだ。飯が食える宛は今んとこポイントしかないんだから、可哀想もへったくれもない。子供だからこそ、言うべき時はしっかり言うべきなんだよ。



『守さんもくだらない事に、千ポイント使おうとしてやしたよ』

「馬鹿者。綺麗なお姉さんが見れるかもしれなかったんだから、男には選択肢などない。わかれ」

『この人、大丈夫なんでやすかねぇ』



 失礼なタヌキである。



「守様。何を悩んでるです?」

 ほら、もうケロッとしてる。

 そう。俺はワチの言う通り悩んでいた。

 ポイント使用欄、人物の項目にいやぁな物を見つけてしまったからだ。それで悩んでいる。



『初回限定ガチャ3000ポイント』



 悩むだろ? 悩むよね!? 悩み、悩んで、悩む時!!

 エルフのポイントが700ポイントだから、丸々四人分超えとか燃える。どれだけ有能な人材が手に入るかわからない。



 俺だって馬鹿じゃない。考えている事は色々とあるんだが、やはりまともなアドバイスが欲しい。今ポイントをケチって、ゴブリンなんかで妥協したら、相談した瞬間に『ゴブ?』とか言って首を傾げるに決まっている。



『本音は?』

「何が出るかわからない。面白そう。引きたい!!」

「守様、ワチも気になります!」

 くっ。だが、3000ポイントはでかい。そして初回ガチャなんてものは平気でクズが入っているのも、わかってるんだよ。



「タヌキチ。この初回限定ガチャは引くのに期間とかあるのか?」

『ないでやす。初回サービスでやんすから、引くまで消滅しないでやす』

 良し。保留。

 いつか引く。絶対。

 とすると、呼び出すなら選択肢は一つしかないだろう!



「出でよ、エロフ!」



 700ポイントが消滅して、目の前に煙が上がる。煙が消えていくとそこには、一人の爺さんが片膝立てて座っていた。

「お呼びですか、我が主」



 渋い。渋過ぎる声。昔はさぞイケメンであった事だろう。

 今でも十分にイケメンであるが、刻み込まれた皺が……って違ーう! 俺が求めていたのは、刺激を求めて古の森を出て来た美女であって、こんな執事役とか紳士役が似合い過ぎる爺さんエルフじゃない。



「……チェンジで」

「は?」

「いや、何でもないない。気にしないで」

 ため息は一回しかつかないぞ。

 はぁぁぁぁあ……。

 俺だってわかってんだよ。この爺さんが当たりだろうって事くらいは。

 幼女に、畜生に、爺さんが加わった。向こうの方で美女が仲間になりたそうにこっちを見ている、みたいな事にはならんのだろうなぁ……。



「爺さん……いや、名前はあるのか?」

「ございませぬ。名など無くても不自由はありませぬが、折角呼び出して頂いたのであれば、主には名前をつけて頂きたく」

 固いなー。見た目通りの人物の様だ。

「むむ、またお腹がすいて来た気がするです」

『すいやせんが、あっしにもお茶、頂けやせんか?』

 本当に、同じ世界観の住人だろうか。

 名前ねぇ。ま、いいか適当で。



「真田丸」



「……」

「どうした?」

「いえ、余りに聞きなれない響きでございましたので」

「俺の国では、武将っぽい名前なんだが気に入らないか?」

 途端に爺さん改め、真田丸の目がキラーンと光る。予想通り、武将とか好きみたい。見た目通りのキャラが確定した。



「いえ、大変気に入りました」

 あんまり素直過ぎるのも心配だけど、人材の柱になれそうな人物って事では、合格だな。

 なんで日本の武将っぽい名前にしたのかって? キャラが薄そうだったからです! 名前のミスマッチくらい必要だろう。



「して、主。私は何をしたらよろしいでしょうか?」

 おお、有能そう、アンド、やる気に満ちている。いいよいいよ、700ポイント、いい仕事したじゃんか。

「まずは現状把握と、それに対する対策だな」



 俺は真田丸に今の状況を話した。俺がオーナーだとか、ここがビルだとか、周りが宇宙だとか。ポイントの事なんかも話して、いかに厳しい状況なのかを再認識する。



「宇宙……ですか。それはまた、途方も無い話ですな」

 真田丸の反応はごく普通と言える。それはそうだ。魔法や、モンスターだ、エルフだエロフだって世界の住人が理解するのは難しいだろう。

 それでも窓の外に見える景色は、衝撃的だからな。真田丸も自分の常識を捨てざるを得ないだろう。



「これからについて話し合おうぜ」

「周りは真っ暗で何にもないのだー。キャハハハ」

「キャハハハじゃない」

 ワチといると俺、お父さんみたいだな。まだ、二十歳なのに!



「兎に角、一番大事なのは食い物だな」

 ポイントは消費されていく一方だ。方策を考えなければ、干上がるのは目に見えている。



「そう言えば、お腹減ったのです」

「さっき食べたろ」

「てへぺろりんです」

「どうした? 真田丸」

 ダンディな仕草で顎に手を当てて考え込んでいる真田丸に、俺は問いかけた。

「主。土を用意することは出来ませぬか?」

「土なんてどうするんだ?」

「食事がなければ、生み出せばよいではないですか」

 そう言って、真田丸はニヤリと笑ったのだった。




 あれから一週間が経過した。

 俺は、腕組みして目の前の光景を見つめている。

「壮観、壮観!」

「はい。試みは概ね順調です。一月もあれば、完全な自給自足の体制が整いましょう」

「ギリギリなんとかなるかな」

 残りのポイントなどを考慮すると、なんとも危ない状況ではあるが、真田丸のお陰で光明が見えた。



「タヌキチ。ポイントを増やす方法に間違いはないんだよな?」

『ないでやす。ビルの利用者が増えれば、ポイントはそれに応じて増えやすよ』

「宇宙でどうやってビルを利用して貰えっての。オーナーである俺や、管理人であるワチ。それにポイントで呼び出した連中じゃポイントは加算されねーんだろ?」

『ぽんぽこぽーん。正解でやす』

 たぬきの擬音、うぜー。



 ここは一番広いフロアを改造して作成した、畑である。プランターをいくつも並べて、農作物を育て始めている。

 走り回って作業しているのはゴブリン隊である。真田丸の求めに応じて呼び出した。取りあえずの五体。



 よく働くが、ずっとゴブゴブ言ってる。

 どうやら、良いゴブリンらしい。良いゴブリンは死んだゴブリンだけだ、みたいな世界でなくて良かった。

 土やプランターもポイントを消費して揃えた。後は各種、野菜や果物の苗も。

『ビル経営とは、とても思えないでやすね』



 うるさし。食べるのが先だ。



 水に関しては、ワチから貯蔵タンクがある事を教えられて、一つ策を講じた。食べ物と飲み物、両方なければ生物は生きられない。



「で、マキシム。懸案の水の循環環境の作成は上手くいっているか?」

「おうよ。儂にかかれば、大船に乗った気持ちでいてくれて構わん」

 髭面の強面の背の低い男が答える。



 ニヤリと笑ったこの男は、ドワーフのマキシムである。ポイントで呼び出した新たなる住人だ。

 素敵なビル面子に、ムキムキの小男が加わったのだ。



 ……ハーレムルートはどっちにあるとですか!?



 いやそんなもんないよ。ないと思うよ。こんだけ、ガチな感じで女の子と縁がないんだから、どーせ俺に女運がないんだろ?

 いや、わからない。わからないぞ。まだ、わからない……と思いたいんだ。いいだろ!?



 ドワーフのマキシムだが、名前は再び俺がつけた。どうやら、ポイントで呼び出したやつらには、名前はついていないらしい。

 名付けはフィーリングとセンスでやってるんで、宜しく。



 で、俺がマキシムに依頼したのは、水の循環だ。排水や汚水を綺麗にしてタンクに戻す。これに関しては、真田丸とマキシムで仕組みを構築中だ。

 真田丸は魔法と知識を使い、マキシムは鍛治で道具を作り、究極の目的はビルの中で全てを循環させる事だ。



 そうすれば、取り敢えず生きていける。



 食べる物があり、寝る場所がある。

 目標にしちゃ、夢が無さ過ぎるが、環境が環境だからしょうがない。なんせ、宇宙を漂うビルの中だ。いつ何かに衝突してバラバラになってもおかしくないし、或いは、どこかの星の引力に引き寄せられてそのまま墜落なんてのだって十分あり得る。

 こうやって明日の心配でもしてなきゃ、絶望で頭がおかしくなっていたかもしれない。



「守様! 退屈です。ワチと遊びましょう!」

「お前はいーっつも、呑気だな!」

「それはいい事ですかっ!?」

「当たり前だろうが!」

 と言って、俺はワチの頭をわしゃわしゃしてやる。

「きゃー!」



 楽しそうなワチを見ていると、今やってる事を無駄に終わらせられねぇとは思うな。ビルの管理人としちゃ全く使えないが、ワチの明るさには正直救われている。

「守様、守様! ワチ、ついうっかり、守様が隠していた戸棚の奥のどら焼きを食べてしまったのだ。ついうっかり!」

「それ、うっかりじゃないだろ! 絶対!」

 前言撤回だ! くそー、楽しみにしてたのに。






 そんなこんなで、宇宙漂流生活は続く。

 みんな何だかんだ明るく振る舞っていたけど、取り繕っても今は先が見えない漂流中である。航宙じゃない。漂うビルの中で辛うじて生存しているに過ぎない。



「こんな状況なのに、どうしてみんな辛そうじゃないんだろうな?」

 ふと、真田丸に弱音を吐いてしまったのはしょうがない事だと思う。問いかけた真田丸は、しばらく無言で俺を見つめてこういった。



「それは主がいるからでしょう」



「俺が?」

「はい。主がいて、この状況もいずれどうにかしてくれる。我らは全員その気持ちでいるからこそ、明るく生きていられるのです」

「どうにかって……」

 プレッシャーが凄いんですけれど?



「我が主よ。主にはそれを為す力がお有りなのです。我らがそれを信じているのです。それをお忘れ無き様に」

「いや、ずるいだろ。逃げ場も無くして、信頼してるって? なんとかしなきゃいけないわけにはいかないじゃないか」

 俺は大きくため息をついた。



「主はお知りになった方がいい。歳を取ったものと言うのは、当然のように狡く賢い生き物なのです」

「弱音を吐く相手を間違えたな、これは」

「いえいえ、先程語ったのは当然私の本心です。言える機会を下さり、感謝しております」

「言ってろ」



 俺が毒突くと、抜け目ない老エルフはにっこりと笑っていた。なんか知らず知らずのうちに、みんなに対する責任が発生していたらしい。



 オーナーなんだもんな……。

 いいでしょう。やったろうじゃないですか! 二十歳の若造に責任押しつけやがって。舐めんな! 見てろよ。



「ところで……あれはなんだ?」



 そう。会話の間中、ずっと視界の隅でチラチラしてたんだよな。余りの衝撃に意図的に無視していたのだが、開き直った今の俺にタブーなどない。

 がっつり正面から問い詰めてやった。



「ゴブリン達の間で流行ってる遊びの様ですな」

 まさかのさらっと回答キター。



 そりゃあそうか。真田丸には宇宙の常識などない。そもそも呼び出した当初は、ファンタジー世界の住人で、宇宙の概念すら無かったんだからな。



 さて、その流行っているゴブリン達の遊びとは何か?

 ウィーンと自動ドアが開く。何故か空気は漏れない。ビルの不思議能力なのか? 空気は漏れないが、一匹のゴブリンが縄を腰に縛り付けたまま、外へと飛び出していく。飛び出して行くと言うよりは、漂って行くと言うのが相応しいのどかな光景である。



 宇宙服などない。生身である。



 彼は息を止めてしばらく漂流した後、限界が来ると、ビル内の仲間に合図を送る。するとロープが引かれて、彼は無事にビル内に生還するのだ。



「何やってるわけ!? ねぇ、ねぇ!?」

「ゴブリン語は余り堪能ではないのですが、『漂流遊び』とか言っておりましたな」

「守様、ワチもゴブ達がそう言っていたのを聞いているのだ」

「おい、ワチ。まさかお前もあの遊びをしたんじゃないだろうな」

「な、な、なんの事なのです?」



 突然口を挟んできたワチは、俺の問い詰めた顔が怖かったのだろう。あからさまに誤魔化しの笑顔を浮かべ、そっぽを向いて口笛を吹いたりしている。



 誤魔化し方、昭和か!



「お前なー、危ない事してんじゃねー」

「あうー、ごめんなさいなのだー」

 無論、こめかみグリグリの刑である。



 迂闊さは都度教育してやらんと、ワチの為にならない。ロープが切れたり、引っかかったりして、息が持たなくなったらどうするんだ。死んでから後悔しても遅い。

 ワチの教育がひと段落して改めて、ゴブ達の遊びの事を考えて、俺は頭をかいた。



「となると、色々考え直さなきゃならんな」

「主、どう言う事かお聞きしても宜しいでしょうか?」

 真田丸の問いかけがありがたい。

 考えを整理する為にも、俺は自分の考えを口に出して話す必要がある。



「一つはここが異世界だって事が確定したって事だ。ワチ、お前もゴブ達がやってるあの遊びをやったんだろ。何も問題はなかったのか?」

「問題などないのです。こう見えてワチは最長漂流時間のタイトルホルダーなのです。エッヘン」

『凄いでやす!』

 クソだぬき。危ないから甘やかしてんじゃねーよ。



「人間? ワチって人間だよな……多分。人間であるワチが無事なら恐らくこの宇宙は俺が知ってる宇宙じゃない。だから異世界確定って事になる」

「主の知ってる宇宙だとどんな違いがあるのですか?」

「宇宙ってのは普通真空だ。空気がない。勿論酸素もない。呼吸が出来ず生物は直ぐに気を失ってしまう。それこそ十秒も持たないんじゃないか? ワチお前の記録ってやつはどれくらいなんだ」



「八分二十秒なのです」

「凄っ! ……ま、と言うわけで、この宇宙が異世界の宇宙だって事が確定したわけさ」

「なるほど」

『確定するとどうなるんでやんすか?』

 タヌキチが喋ると話が出来ない真田丸に説明しなきゃいけないから、面倒なんだよな。



『仲間外れは駄目でやす』

「じゃあ、全員に見える様にしてくれ」

『ポイント使うでやす?』

「守銭奴か!」

 アホな会話をしてしまった。



「生身で外に出れる。これは重要な事だぜ。呼吸の問題さえなんとかなるなら、船外活動が出来るって事だからな」

 正しくはビル外活動だが、勿論突っ込む必要はない。



「となると、今の体制の見直しも考えたい所だな」

 俺は電気を使ってビルの照明を灯し続けていた。それは、宇宙漂流しているこのビルを誰かに見つけて貰う為であり、それ以外生きる道はないと思っていたからだ。



 因みにビルには自家発電機が搭載されていた。壊れたら終わりって感じが凄い。ポイントでも買える様だが、勿論、今の手持ちのポイントで手に入る代物じゃない。



「真田丸どう思う?」

「お隠れになられた方が良いと言う事ですかな?」

 流石は真田丸。

 考えがバッチリ読めている。



 俺は、このビルを誰かに見つけて貰いたかった。誰でもいい。だがそれは、あくまでも生き残る為に仕方なくだ。どんな生物がいて、どんな道理があるのかもわからないこの世界で、無条件に命を差し出す真似は本音を言えば避けたいと思っていた。



 可愛い宇宙人がいるかもって? SFホラーみたいなのが、襲って来たらどうするんだって方がリアルだと俺は思う。

 賭けるのは命だ。それも俺の命だけじゃない。なら、俺は迷わずリアルを取るね。



「私も主と同じ考えですな。他人に命の手綱を委ねる気にはなれませぬ」

「よし。すまんが手分けして、窓に目貼りをしてくれ。ビルの中の光が外に漏れない様に。キツイけど見張りのシフトも増やさないとな」



 ポイントに余裕があれば、人員を増やしたいのだが、生憎とポイントには全く余裕がない。少なくとも食料の自給自足体制が整うまで、食い物以外にポイントを使うつもりはない。



 ビルを利用する人が増えればポイントが増えるんだって? 宇宙空間に漂うビルを一体誰が何のために使うってんだ。ふざけんな。無理ゲーめ。

 理不尽に思うなら、人間戦うしかない。



「大将!」

「どうした、マキシム」

 一人で見張りを担当していたマキシムが、走ってやって来る。慌てているのは、このドワーフとしては珍しい。



「妙なもんが流れていてな。判断を仰ぎてぇんだ」

「妙なもん?」

 変化は向こうから、勝手にやって来る。どうやらそう言う事みたいね……。






□現在のオーナー状況

職業:新米ビルオーナー。

オーナーポイント :4200ポイント

配下:幼女1、タヌキ1。老エルフ1、ムキムキドワーフ1、ゴブ5

ビルサイズ:3フロア。小さめ。

備考:うちゅうのなかにいる。

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