第1部 1話 『宇宙とビルとポンコツと』
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朝目覚めると、何故か権利書入り封筒が目の前にあった。正確には起き上がった後、机の上で発見したのである。
「えーっと、何々?」
『拝啓、荒海守様。
この度、貴方は厳選な抽選の上、とあるビルのオーナーとなられる事が決まりました』
「何これ、すげぃ!?」
余りの事態に思わず変な声が出る。
思えばこの時、完全に寝ぼけてたんだろうな。でなきゃ、はっきり言って疑う。ビルのオーナーなんて馬鹿じゃねーと。
だって、俺、まだ二十歳の若造よ?
大学の友達と朝まで飲んで、昼に起きたとこだってのに。昨日、机の上にこんな書類はなかったのは間違いなかった。
なのになんの疑いもなく封筒を開けてるんだから、我ながら……と言うやつである。
『そのビルとは進化するビルでス。貴方の好みでいかようにも、進化しまス』
ほら、語尾がおかしい。
だが、夢と現実の境にいる俺は気づけない。
『さぁ、共二異世界へと飛び立ちマしょう』
共にの意味は正直未だにわからんのだが、ここで俺は致命的な一言を言ってしまうのだった。
「やった! この歳で、ビルのオーナーだと? どう考えても勝ち組だろう!! やった、やったー! 俺は世界一、いや異世界一、いや! 宇宙一のビルオーナーになってやる!!」
そうして同封されていた書類にサインして、まるでテレビの電源をオフしたみたいに突然視界が真っ暗になったんだよな。
恥ずかしい事この上ない馬鹿みたいな話だが、これが俺に起きた全てだ。
異論反論は受け付けない。
そんな余裕は今の俺にはないからな。
……そして今現在。
俺は窓の外を眺めている。
外は暗いけど夜とかそう言うんじゃない。ため息しか出ない。
「星、綺麗だなー……」
呟きも虚しさしか覚える事はない。
そう。俺の前にある窓の外には、広大な宇宙が広がっていたのだ。
頭いてー。
異世界、どこ行ったんだよ……。
俺の名前は荒海守。アラウミマモル。荒れた海で何を守るんだかわからないが、何だかを守れと、そう言う思いが込められているんだろう。ドゥーユーアンダスタン?
二十歳の大学生で、人生経験ってもんもそこそこなんだが、そんなこんなで絶賛宇宙漂流中である。
夢じゃないのかって?
試しましたー。それも散々ですー。
体は痛みを感じるし、記憶だってはっきりしてる。周りを見渡せばビルの一室で間違いないし、じゃ逆に寝て起きたらなんてのも試しましたー。
どうあがいても、ソ……じゃない、ここはビルの中で周りは宇宙です。ありがとうございました。
なんで、宇宙にビルがあって空気とか問題ないのかって? そりゃ、俺が知りてーよ。密閉されてんじゃないんですか?
宇宙船型のビルかもしれんし。
ハハハ!
……いかん。現実逃避で、思わず胡散臭い外国人笑いになっちまった。
落ち着くとしよう。目の前にあるもんが全てだ。俺は行動しなければならない。何故なら……。
「腹減ったな……」
これ以上、切実な問題はない。
と言う訳で行動開始である。
今俺がいるのは、広いフロアの一室だ。映画とかでよく見る、開放感のある大部屋である。机もなければ人もいないしで、薄気味悪いことこの上ない。
何しろ暗いんだよ。どこからか差し込んでくる非常灯みたいな明かりだけ。
正直、めちゃ怖い。普段人がいる建物に誰もいないのって怖いよな? 夜の学校とか怖いじゃん? なんでとかじゃなくて、ただ怖いんだよな。
びびって今の今まで、全然動かなかったとかじゃないんだからね!
深慮遠謀。先の先を見越して、俺は行動しているのだ。うむうむ。
気合いを入れて歩き始める。
俺の足音だけが部屋に響き渡る。俺はここにいますよーって宣伝してるみたい。ジェイソンとか、フレディとかいたらどうするんだ! 肉フックに引っ掛けられてしまうかもしれんな……。
いや、進むぞ。
断固として、進む。
俺は腹が減ってるんだ。
「だ、誰かいませんかー?」
声、震えてますよって? 震えてませんし。ハハハ。
歩き回ったが、大部屋には何もないし、誰もいないことが確定した。扉を開けて、廊下に出る。
いくつかの部屋の扉と、階段。それにエレベーターホールもあったな。外に出られそうな入り口もあったんだが、びびって近づかず。ウィーンって自動ドアが開いて、外に投げ出されるとか勘弁して欲しい。
くそー。なんで宇宙なんだよ。
美人のエルフとか、いやもとい、美人のエロフとか、美人のツンデレお姫様とかいて、ウハウハするもんじゃないのか。理不尽な異世界に放り込まれたやつはそうなるべきだろーがよー。
宇宙でビルで、一人です。ヒロシです。
これはあれだな、詰みゲーでつね。
そんな馬鹿な事を考えながら、徘徊する。
このビルは三階建てらしい。
エレベーターは動いていないので、階段で移動して確認した。各階に大部屋がいくつか存在したが、全て無人。食料もない。
「ク、クソゲーだね!」
そう叫んでしまったのも無理はない。
フロア中に響き渡り、松尾芭蕉的な侘び寂びを感じてしまったものである。
さて、このビルのほとんどを確認した俺であったが、とある部屋の入り口前で、不審な目を向けていた。
扉にはノートの切れ端と思われる紙が、ガムテープで貼り付けられている。
子供が殴り書きで書いたらこんな字になるだろう。
『かんりにんしつ!』
まぁ、有り体に言って、嫌な予感しかしない。怖いとか言うんじゃなくて、この扉を開いたら開いた口が塞がらなくなるのじゃないか。
そう思う。
ちゃぶ台をひっくり返されるんじゃないかと言う予感がするのだ。どんでん返しと言えば、わかりやすいだろう。そういや、そんなちゃぶ台をひっくり返す映画があったな。銀号強盗の映画だったと思ったら、ヴァンパイア映画だったみたいな。
しかし、何があろうとも、俺はこの扉を開ける。開けなければならない。なぜなら……めっちゃいい匂いしてるからだ。これはカレーか? カレーなのか!?
「ええぃ、辛抱堪らん!」
俺は空腹からやって来る欲求そのままに、勢い良くその扉を開けたのだった。
目があって、そのまま見つめ合う。
部屋の中は、八畳程の和室でキッチンと言うよりは、台所というのが相応しい流し場がついていた。
そして、ちゃぶ台がありました。
なんだ? この世界は考えたら実現するのかよ。宇宙とか、ちゃぶ台とか。エロフはどうした?
まぁ、いい。
それよりも俺とがっつり目が合っているこいつだ。
くりくりの目に、ぷっくりした頰。可愛いと呼べる幼女である。だが、口いっぱいに含んだ米とカレー。口元についた米粒すら今はなぜかイラッと来る。目は俺を捉えて離さない癖に、手と口は動いてカレーを延々と運び続けている。
幼女とか関係ないね。
なんだこのイラッと感は……。
「お前誰だ?」
「あはやざゆわばあやばは」
口いっぱいに、米とカレーを入れていてはそら喋れないわな?
ごっくん!
「誰なのです! ここはワチの部屋なのです! すぐに出て行くのです!」
俺は念のため、もう一度だけ、入り口扉を見た。うんうん、書いてあるな。
「管理人室って書いてあるよ? お前が管理人なの?」
「そうなのです! ワチはこのビルの管理人なのです! 偉いのです。さぁ、誰だかわかんないやつ、出て行くがいいのです!」
ほー。
へー。
俺は知っている。ビルを探索した時に気づいていたのだ。尻のポッケに何か入っていた事に。それが俺が記憶を失う前に、署名していた書類である事は既に確認済みだ。
「俺、このビルのオーナーだけど?」
顔を真っ青にして、持っていた皿とスプーンを落としたのは面白かったな。
「しょ、証拠はあるのですか!?」
「ほれ」
俺は権利書を広げて見せる。
「偽物です、それか偽人間なのです!」
偽人間って何だよ?
「じゃ、偽物だって証拠だして」
「むむむ」
「あー、これ本物だから。間違いないから。よろしく」
俺は畳み掛ける。愚かな幼女め。悪魔の証明とか知らんだろ。
ワチと名乗る幼女は顔を赤くして、額には汗をかいていた。
なーんか臭うんだよな。こいつは後ろめたい事があるんだろう。でなきゃ、この慌てぶりと、人を偽物と決めつけている態度に説明がつかない。
観念した幼女は言った。
「な、名前を言うのです」
「荒海守だけど?」
この幼女、文字読めない疑惑が出てきたね。権利書に書いてあっただろう。偽物以前の問題だな。
プルプル震えていたワチは、それはもう綺麗なスライディング土下座。下は畳だし、痛くはないとは思う。
「オーナー様! オーナー様とは知らず、ワチはご無礼しました。勝手にポイント使って、一人でご飯食べてすみませんです!」
ポイント?
何だそりゃ。
ワチを問い詰めるのは一旦置いておこう。
「今は詳しい話はいいや。俺、お腹減っちゃって」
勝手に部屋に上がって、勝手に皿を手に取って、勝手にご飯とカレーをよそう。
「では、頂きます!」
腹が減っていては、なーんにも良いことはない。俺は今の状況とか、土下座する幼女とか、全て忘れて飯を食い始めたのだった。
土下座しながらも、チラチラこっちを見上げて来るワチは、お預け食らったペットの犬みたいだったな。
やはり、食は偉大である。
ご飯を食べている間に、今の境遇とかへの嘆きとか薄れたもんな。腹が減っていては気も滅入るし、良い考えは浮かばないな。
覚えておくとしよう。
では……。
「うむ。では、表をあげい」
「へへーっ!」
何やってるのかって?
いや、ワチが土下座したまんまなもんだから、大岡越前ごっこでも、と。え? そんな事してる場合かって? 場合ですー。ユーモアはいつ如何なる場合でも、必要なんですー。
「ワチは悪い子なのです。オーナー様を導く役目がありながら、管理人室に引きこもっていたのです」
「ワチ屋よ。それはなぜじゃ?」
「廊下が真っ暗だったからです!」
瞳キラキラー……じゃねぇ。幼女が。
イラッとメーターが激しく上昇するが、何とか押さえる。
「さようか。他に申しておくことはあるか?」
「はいっ! オーナー様のポイントを、勝手に使って美味しい物を沢山食べました。美味しかったです!」
でしょーね!
この散らかった管理人室を見ればわかります。ええ、わかりますとも。こいつは。このワチは、ポンコツだ!
「沙汰を申し渡す」
へへっーとワチは、再び平伏する。
「打ち首、獄門!」
「な、な、何故ですかー。オーナー様ぁ」
涙をぶあっと流して、鼻水まで垂れさせて、ワチが迫って来る。
「うるさい。獄門だ。獄門!」
「オーナー様ぁ!」
くそぅ。
また、下らないやり取りをしちゃったじゃないか。
さて、色々落ち着いて、ワチの前にも、俺の前にもお茶を淹れて準備は整った。
真面目な話をすんべーよ。
「改めて、俺の名前は荒海守だ。歳は二十歳。宜しくな。ワチ……ワチでいいんだよな?」
「はい。ワチはワチです。……ぐす。オーナー様、もう怒っていないのですか?」
「怒ってねーよ。ポンコツはポンコツで、愛すべきもんだからな。それにオーナー様ってのはやめてくれ。こそばい。守でいい」
「はい、守様!」
それも多少、こそばいが、まぁいいか。
「ワチはポンコツですか?」
「おう、恐らく十中八九な!」
俺は親指を立てて、グッドスマイルを送る。何故か、ワチは、
「うふふー、そうですかー。ポンコツですかー」
両手でほっぺたを押さえて照れている。
褒めてない。
うむ。ワチ、お前はポンコツで馬鹿だわ。
「で、この状況の説明をして貰おうか?」
「ここはビルでワチは管理人です。オーナーである守様のお手伝いをするのです、まる」
あ、難しい。
凄く難しいぞ。
こいつからどうやって、情報を引き出せばいいのか。俺は心の中で頭を抱えたが、顔にはおくびにも出さず、にこやかに問いかける。怯えさせてもしょうがないからなー。
「ポイントについて教えてくれ」
「はい。ビルを成長させたり、助っ人を呼べたりするものです」
「ご飯も食べれる?」
「そうです!」
「使い方を教えてくれ」
中々いい感じだ。曖昧はダメ。具体的な事なら答えられるって事だな。
「呼び出して、バッーって見て、これだって感じで使うのです」
ポ、ポンコツだね!
いかん。深呼吸、深呼吸。クールにいこう。ヒントが少なかろうが、俺には出来る筈だ。なんせ、俺だからな!
呼び出す、呼び出すねぇ……。
ポイント来いっ!
すると流石俺、やって来たね。空中にタヌキが、ポンッと。
『呼びやした?』
「いや、呼んでない……」
『もー、困りやすよ。こっちも忙しいんでやすから』
「へー、それは。えろう、すんまへん」
「変な喋り方なのだ」
「うるさし。お前がもっとちゃんとしていれば、俺がこんなに困る事はないのだ」
「頑張ります!」
はい、解決!! みたいな顔してんじゃねーぞ。たく、幼女が。
では、改めてもう一度、ポイント来いっ!
すると再び、空中にタヌキがやって来る。
『呼びやした?』
「つかぬ事を聞くけれども、お前名前、ポイントとか言う?」
『やだなぁ。あっしの名前はタヌキチでやすよー』
まんまだ!
「あのさー、ポイントっての使いたいんだけど、わかる?」
『わかりやすよ』
あら、やだ。有能タヌキ。
『ポイントステータス、オープンでやす』
「おお!」
タヌキチがそう言うと、空中に半透明なウィンドウが浮かび上がる。
「お師匠! 何を見ているです?」
「いつ師匠になったんだ? って、ワチ。お前これ見えないの?」
『個人情報の塊でやすからね。因みにあっしらナビゲーターも、その人個人にしか見えやせんぜ』
「ワチ、このタヌキも見えない?」
「タヌキ?」
「ポイント使う時に出てくるだろう?」
「あっー。ボンッキュボーンのお姉さんの事です?」
俺の視線に殺気が走ったのは言うまでもない。
「オイ、タヌキチどう言う事だ?」
『ナビゲーターは個人差ありやすよ』
「チェンジで!」
『無理でやす』
俺はちらりと、幼女を見下ろす。
「えへ。守様、なんです? ワチをじっと見てー。さては、ワチの魅力にやられました? ですね!?」
「チェンジ、チェンジ、色々チェンジだぁ!」
叫んでも、何も変わらない。虚しい。
こいつがポイントか……。『残りポイント9750』とある。多分1万ポイントスタートだろうな。ワチめ、250ポイントも飲み食いしてやがる。
別のウィンドウに俺の名前が書いてある。
『荒海守。職業新米ビルオーナー』
へーっ、本当にビルオーナーになってる。新米って事は成長する余地は多いにありそうだな。
ふむふむ……HPとか、魔法力とかわかりやすそうなステータスはなし。ゲームとは違うのだよと言う何者かの意思を感じるな。
フハハハ。いいだろう。ヌルいゲームなどこっちから願い下げだ! 手強いゲームほど、燃えると言うものだ!
さっきまで飢えてたじゃないか、と? 何とかなったから、オッケーなんですー! 勝ったものが勝ちなんですー。
さぁ、次は肝心のポイントで買えるものだな。
お、人物とか食料とか、色んな項目があるな。ビル関連とか、重要そうなものもある。
俺はグルリと周囲を見回す。
「守様、ご命令を!」
と、忍者の真似をして、シュタッと床に伏せる幼女と、
『なんでやす?』
のほほんと宙に浮かぶタヌキチ。
人材だな。
我が軍には圧倒的に人物が足りない。皆無と言っても過言ではない。
お、何々。ゴブリン一匹100ポイントに、トロル一匹300ポイント。お! エルフがいるぞ! エルフっ! 他にもドワーフなんてのもあるけど、ちょっと待て。
「タヌキチ?」
『オーナーさん、なんでやす?』
「俺の事は守と呼んでくれ」
『守さんでやすね。了解でやす』
「いきなり、ゴブリンだトロルだエロフ……いやエルフだなんだで混乱しているんだが」
『そんなもんでやす?』
「何? そりゃあそうだろう。ビルオーナーになって、外を見たら宇宙空間で、今度はファンタジーだぞ!? 育成ものなのか、SFなのか、異世界ファンタジーものなのかとか……色々とこうあるだろう!?」
『ないでやす。今が全てでやすよ』
「守様。細かい事は気にしてもしょうがないです」
『小者っぽいでやすね』
「もっとでーんと構えて欲しいです?」
この呑気コンビが!
「……ちょっと待て。ワチ。お前なんで、タヌキチと会話出来てんだ?」
「ワチだけ仲間外れみたいだったんで、守様のナビゲーターを見れるようにしました」
ほう?
「どうやって?」
「ボンッキュボーンにお願いしたのです」
お、お前! ポイントが千ポイントも減ってるじゃねーか! く、くそっ。
「おい、タヌキチ。俺もワチのナビゲーター見れるようにしてくれ!」
『オーナー用には、その機能ないでやす』
こ、このポンコツがぁー!!
□現在のオーナー状況
職業:新米ビルオーナー。
オーナーポイント :8750
配下:幼女1、タヌキ1。
ビルサイズ:3フロア。小さめ。
備考:うちゅうのなかにいる。




