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極悪令嬢は極楽を目指す  作者: 三下S
17/24

強くなりたい!

 

 馬車に揺られて、かれこれ3時間以上は経っているだろうか。ひたすら森の道を通っている。

 今は御者をグリドがやってくれている。私が御者が不慣れだと気づいたグリドが交代してくれたのだ。


「あと半日はかかりそうだな。こりゃ、荷馬車の旅に誘ってくれて助かったよ」

「そうだねー」

「ちょっと押さないでよ」


 グリド以外の三人は、頭空っぽのバカム、踊り子のような艶かしいスタイルのリーン、そしてイライラしているセルビという少女だ。


 ソフィアは、目が見えないことから不安そうにしているが、それでも彼女たちと仲良く喋っている。


 私はというと、グリムの隣で彼の話し相手と山賊でもいないかと見張りをしている。


「あの、グリムさんは何歳の時に冒険者になったのですか?」

「12だったかな。村の冒険者に憧れてた。よくある話だよ」

「その時から強かったのですか?」

「いや、最初から強い奴なんてほとんどいない。先輩冒険者から色々教わったりして、なんとか今まで生き残ってる」


 冒険者の仕事はリターンに見合ったリスクがあるという。

 ドブ掃除ならばリスクも小さいしリターンも小さい。

 精霊狩りならばリスクは大きいしリターンも大きい。


「精霊狩り?」

「ああ、教会が悪霊と判断した精霊の討伐に向かう仕事があるのだが、これがとんでもない数の死人が出る」


 精霊は人知を超越した存在であり、それを殺めるとなれば多大な犠牲が必要になるそうだ。


「教会がそんなことをしているのですか?」

「ああ、これは聞いた話だが、『乱心』の加護を司る精霊がいた。この精霊の加護を授かった人間が何件も犯罪を犯してな。それで教会は精霊ごと葬り去ろうとしたわけだ。教会の軍隊が精霊を攻めたのだが、結局五体満足で帰ってきたのは百人中三人だけ。しかもは精霊は仕留められていなかった」


 そんなことがあったのか。

 ただただ精霊を盲信しているわけではなく、ちゃんとこの世界の防波堤として活動していたのか。


「面白いお話ですね」

「そうか?まあ最近は冒険者じゃなくて精霊専用の軍隊があるらしいがな」

「そうやって被害を少なくしようとしているわけですか」


 王国も思ったよりは腐っていないようだ。ならば兵士という職はかなりいい仕事のように思える。


「あの、兵士って私でも入れますか?」

「無理だ。年齢は成人済み、嬢ちゃんはどう見たって15歳には見えない」

「なるほど、でも女の人でも入れますよね?何か資格や経験が必要などあるのではないですか?」

「それに関しては特にない。男女平等だ。だが何かしら特技があれば、昇進スピードは早くなると聞いた」

「そうなのですか?!」


 てっきり男尊女卑がまかり通っている世界だと思っていた。日本でもヨーロッパでも女性よりも男性の方が優遇される時代があったが、ここではそんなことないのか。意外だ。


 しかし領主は絶対に男でないといけないらしいし、よくわからない。選挙とかあるのだろうか。いや、貴族政治のこの世界にそんなものはないか。


 グリドは荷台の中をちらっと見た後、さらに続けた。


「リーンとセルビも並みの男より遥かに強いしな」

「やはり強くなくてはならないのですね」

「当然だ」


 兵士になるにしても冒険者になるにしても、強くならなくてはいけない。


 私が使った空間停止術は後からの疲労が凄まじい。最近まで魔術を使っていなかったこともあるのだろうが、未だに体の隅々が痛いレベルなのでそんなに多用することはできない。


 ならば新しい魔術か。


 昨日、私が魔術を発動したことにより、なんとなくコツが掴めた気がする。

 今までの失敗原因として考えられるのは、手だけに魔素を集中させていたこと。だから魔素の量が圧倒的に少なかったので魔術が発動する水準にまで達しなかったのだろう。


 つまり、莫大な魔素で全身を覆うことがあの術式の発動条件だったと推測できる。


 そして、昨晩のような心線を再現してみようとしているのだが、上手くいかない。


「どうしてだろう」


 他に何があったか考えると、どう考えても『怒り』という感情しかない思い浮かばない。


 怒っている時にしかあの術が発動できないとなれば、私はどんな相手にも瞬殺される自信がある。

 私は見境なくキレる人物ではないのだ。


「大きな感情が発動要因と考えると⋯⋯」


 喜怒哀楽、その感情により脈も揺れる。


 私の平常時、睡眠時、活動時、この三つに当てはめると、どれも気持ちが昂る活動時に術式が構築されるということになる。


 ならば、感情をコントロールすればいい。

 一流のアスリートならばできると聞いたことがあるし、決して不可能ではないはずだ。


 まあその方法がわからないのだが。


 どうしたものか。修行とかすればいいのだろうか。


「どうした?さっきからブツブツと」

「グリドさん、どうすれば感情をコントロールできるようになりますかね?」

「急に何を。いや、そうだな。俺の場合は悲しいことがあった時は楽しいことを思い出すようにしている」

「なるほど、『思い出す』ですか⋯⋯」


 それだけならばお手軽だ。

 さっそく魔心線を作り上げ、昨日の夜を思い出す。

 部屋に一堂に会した大人たちを前に自分が抱いた気持ち。血が沸いたかのように体が熱くなり、そして心臓がバクバクと音が鳴った。脚に血がいき、羽が生えたかと錯覚した。


「あ、できる⋯⋯」

「おい!なんだその痣は!?」

「ああ、魔術を発動しようとすると出るんです」


 昨晩と同じく、黒い線が浮き上がった。


 すぐに体を落ち着かせて怒りの感情を忘れる。この少しの間だけでも精神的には疲労が蓄積する。


 なんだ、意外と簡単だな。


 他にも色々とやってみたかったが、グリドが慌てて止めたのでまた今度こっそり練習することにした。




 その晩、見張りはグリドたちがやってくれるというので、お言葉に甘えてゆっくりと睡眠をとった。

 やはり荷台の上で毛布だけでは、長いベッド暮らしをしていた身には辛いところがある。


 私がなんとか快適に眠ろうと四苦八苦していると、ソフィアがポツリと呟いた。


「お姉様、私はもうお母様には会えないのでしょうか?もうこの目でお母様もお父様もお姉様もハルバームの姿も見ることができないのでしょうか?」


 なんと答えたらいいかわからない。

 私はソフィアの隣で横になり、彼女の頭を撫でた。


「大丈夫。私が必ずソフィアの目を治すわ。それに、きっとお母様は生きています」

「ありがとうございます」


 私は彼女に、あと何回嘘をつけばいいのだろうか。

 いや、嘘は言っていない。

 ヴァイオラはのうのうと生きているし、私は絶対にソフィアの目を治してみせる。


「ソフィア、ゆっくり休んでください」


 姉はもっと強くなくてはならない。

 目が冴えてしまった私は、荷台から這い出て魔術の練習をすることにした。


 もっとたくさん練習しなくては。

 コツは掴めたのだ。絶対にモノにしてみせる。


 結局、私はこの日も眠れなかった。



 ■     □     ■     □     ■ 



 魔術は奥が深い。

 セルビの魔術は私にとって憧れそのものだった。


「リーン、バカム、左からくる狼は私で対処する。グリドはお嬢様たちの護衛ね。二人は右だけに集中して」

「了解!」

「あいよ!」


 そうパーティ全員に命令すると、彼女は見事な魔心線で魔術を構築して火の矢を何本も空中に作り上げた。

 それらは凄まじい速さで狼の喉に突き刺さり、そのまま狼たちは絶命する。


「よし、こっちはあらかた片付いた。そっちは?」

「終わったよー」

「よゆーよゆー!」


 すごい。これが仲間というやつか。私が前世で得られることのなかったこの世の中で最も尊いものの一つ。


「なんかすごいですね!なんかすごく連携してて!」

「あんなの別に大した連携でもない。先頭の経験したことあるやつならすぐに対応できるレベルだ」


 グリドがなんとも言えない顔をしてそう言った。

 うわ、マジか。私もやってみたいが仲間がいない。

 いつかソフィアとできるようにしたいものだ。


 戦闘が終わり、私は聞きたかったことがあったのでセルビに話しかけた。


「セルビさん、さっきの火の矢ってどのくらいの魔素を消費しているのですか?」

「え?そんなの考えたことないけど」

「両手出してもらえますか?私は一回の魔術でこれだけ使ってるんですけど」


 そう言って、セルビの手を持ち、彼女の手を介して魔素を送り込むと彼女はすぐに手を離した。


「う゛っ⋯⋯!ちょ、ちょっと!」

「え?どうしました?」


 セルビはダッシュで茂みに隠れると、ゲーゲーと朝ごはんだったものを吐き出した。

 そして出すものを吐き出した後、彼女はお腹の辺りを撫でながらずんずんと私の方へと歩いてくる。


「あなた、なんて魔素量を送るの!」

「いや、そんなつもりじゃなかったのです」

「さっきの、明らかに魔術30発分は送り込んでた!」

「え、本当ですか⋯⋯?」

「うん、ホント!」


 先ほど送った魔素量は、怒りの魔術を使っていた時の1秒の使用量だった。

 つまり無駄が多いということか?あの魔術を1秒キープするのに30発分は多いのか?それとも全身に魔素が必要だから消費量が激しいとか?

 さっぱりわからん。


「今度は私の番!私に喧嘩売ったこと絶対に後悔させてあげる!」


 そう言ってセルビが私の両手を掴んだが、またしてもセルビの顔が青くなる。


「なんで!?どうして魔素を送ったの?」

「いや、何もしてないですけど⋯⋯」


 私の心線の方が強いからだろうか。彼女から魔素が流れた感じがしなかった。


 いや、もしや魔素には浸透圧のような働きがあるのだろうか。

 浸透圧は確か、キュウリを塩漬けする時のアレだ。塩水に含まれる塩が、塩分量の少ないキュウリへと勝手に流れていくやつ。


 私の方が体内にある魔素量が多かったためにセルビの方へと流れたのだろう。


 魔素の正体が何かは未だに不明らしい。何か認識を間違っているのではないだろうか。


 魔素は魔心線から発生するものだとジャックから習った。

 しかし、本当にそうなのか?それを証明する実験があったのだろうか?あったのならばそれはどんな方法だ?


 ふと考えたことがどんどん考えの連鎖を生み出す。


 もっと調べる必要がある。

 一度図書館にでも行ってみて本格的に調べて見た方がいいかもしれない。


 そんなことを考えていると、馬車はそろそろ戦場へと到着する時間となっていた。


 とにかく今は、もっと万人に通用する技が欲しい。

 となれば、昨日ちょっと練習した術を極めるしかないか。あれならば闘術師、魔術師、聖術師全員に効果覿面だろう。


 やっと魔術が使えるようになったのだ。絶対にものにしてみせる。



どの辺を改善した方がいいかなど、あれば教えていただけると助かります

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