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私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です  作者: きゃる
第1章 友人という名のお世話役
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保健室での出来事

「あ……」


 自分でも気づかなかった傷を、彼はどうしてわかったんだろう? 見れば、右手中指の第二関節の所に赤い筋がある。飛び散ったガラスを避けきれなくて、うっかり切ってしまったのかもしれない。紅のことが心配だったから、自分のことはよく確かめていなかった。


「まったく紫は。いつだって自分のことは後回しだな」

「へ? ……って、うわっ」


 手を引っ込める間もなく、紅が自分の舌で私の傷をペロッと舐めた。いくら幼なじみとはいえ、いきなり舐めるっておかしいでしょ? 紅の赤い舌は、柔らかくてくすぐったい。


「ゆ、指、指~~~~! 私の手、汚いよ」


 焦って引き抜こうとするけれど、掴まれた手はびくともしない。


「どうして? 白くて綺麗な指だ」

「ちっがーう! 溶液飛んでるかもしれないし、危ないでしょ」

「さっき俺の腕を洗う時に一緒に洗ったはずだ」

「そういう問題じゃなくて……」


 恥ずかしいんだってば!

 こんなイベント、ヒロイン相手でもなかったような気がする。

 なのに紅は私の手を持ち上げると、自分の綺麗な顔を再び寄せた。


「は? いや……ちょっと!」


 私は慌てた。

 中世の騎士のように、そのまま手に口づけるってどういうこと? 

彼の赤茶けた髪や伏せられたまつ毛、整った顔は作り物のように美しい。キザな仕草でも、紅ならサマになっている。

 だけどだよ? そもそも相手を間違えている。私を相手にこんなことをしても、何にもならない。こんなシーンは覚えがないけれど、せっかくならヒロイン相手に頑張ってもらいたい。うっかりときめいてしまったのは、きっと気のせい。ゲームの彼を思い出してしまったからだ。


 さすがにこれは、幼なじみでもどうかと思う。自分の顔が熱くなっているのがわかる。

 調子に乗った紅は私の手をなかなか離してくれず、唇を傷に押し当てたまま動きを止めている。保健室に二人で突っ立っているけれど、事情を知らない人から見れば立派な男同士。もしここで誰かが中に入ってきたら、変な誤解をされてしまう。


「もう大丈夫だから離して。こんな怪我、絆創膏で十分!」


 ふと目を開けた紅が私の顔を見て、反応を確認している。その瞳が笑っているように見えるのは……もう、やっぱりふざけてたのね!


「だったら可愛くお願いしてみて? お前の願いなら、聞くかもよ」


 紅よ、一体どうした?

 掠れた声で言うなんて、突然何のスイッチが入っちゃったんだろう? バカなことはやめて! と言おうとしたその時――

 保健室の扉が勢いよく開いて、誰かが中に入って来た。




「紅、約束が違う。いつまでここにいるつもりだ?」


 良かった、蒼だった。

 彼ならこの状況を見てもおかしいとは思わない。

 いや、やっぱり変なのかな?

 私は蒼に困ったように笑いかけた。

 

「何だ、もう終わったのか。慌てて飛んでこなくても、無事に帰すから大丈夫だ」


 紅の声もいつも通り。

 さっきのは何だったんだろう?

 彼に握られている私の手に、蒼の冷たい視線が注がれる。もしかして、授業サボって二人で遊んでるって思われた? 私は急いで手を引き抜くと、自分の背中に隠した。今度は紅もあっさり解放してくれた。


 なぜか睨み合う二人を放っておいて、私はさっさと絆創膏を探しに行った。確か向こうの棚の救急箱の中に入っていたはず。保健室は結構常連なので、どこに何があるのかは大体わかっている。

 それにしても、約束って何だろう?

「いつまでここに」とか「無事に帰す」ってことは、やっぱりヒロイン絡みなのかな?

 処置を終えた私は、蒼に聞いてみることにした。


「桃……花澤さんは? 大丈夫だったの?」

「どうしてその名がここで出てくる?」


 蒼が(いぶか)し気に眉を(ひそ)める。

 何だか機嫌が悪そうだ。


「だって、さっきの実験で……。変な責任を感じていないといいけれど」


 急に心配になる。

 桃華が自分の失敗を悔やんで、落ち込んでいなければいいと思う。


「彼女が、授業の最初にきちんと話を聞いていないのが悪い」


 紅が冷たく言う。

 あれ、おかしいな? 

ヒロインに対する愛情の裏返し?


「それを言うなら私にも責任があるでしょ。考えごとをしていたせいで、ボーっとしてた」


 すぐに反論した。

 桃華一人が原因ではないと思う。

 女の子はちゃんといたわって優しくしてあげなくちゃ。それに元はといえば私が、よく確かめもせずに実験を進めてしまったからだ。作り置きの溶液に衝撃を与えたことが、原因なのかもしれない。


「紫はいい。大した怪我でなくて良かった」

「うわっ」


 紅を押しのけた蒼に頬を撫でられ、顔を寄せられた。昔から知る仲とはいえ、綺麗な顔のいきなりのアップは、心臓に悪い。


「蒼、俺の心配は? それに、お前こそ約束は?」


腕を組み、首を傾げた紅が問う。


「お前のことはどうでもいい。約束ならわかっている」


 約束って何だろう。

 不機嫌な理由はそれなのかな?

よくわからないけれど、二人にとって大切なものらしい。 さっきの実験中に交わしたの?

 あ、もしかして! 『転校生の桃華を寮まで無事に帰す』とかそんなやつかな? だったら大変! 急がないと、彼女は一人で女子寮に帰ってしまう。


「約束があるなら急がなくっちゃ! 早く行かないと、彼女いなくなるよ」


 私は桃華を引き留めるため、慌てて保健室の出口に向かった。二人に顔を見られたくないというのもある。だって、紅に舐められた指と蒼に撫でられた頬が熱い……


「おい、待て。急にどうした?」

「何を言っているのか、さっぱりわからん」


 言いながら、走る私を二人は追いかけてきた。

 約束の内容を私に言い当てられたからって、照れてごまかさなくてもいいのに。


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