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私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です  作者: きゃる
第3章 近くて遠い人
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文化祭の出し物

 私の予想は間違ってなかったみたい。

 ヒロインの桃華は最近、櫻井三兄弟と一緒にいることが多くなった。紅だけでなく、隣のクラスから蒼がわざわざ彼女のところに来たり、黄が猫に餌をあげに行こうと誘いに来たりする。夏休み中によほど仲良く過ごしたのか、ここにきて三人共、ヒロインへの恋心を自覚したようだった。

 ゲームのシナリオ通りなら、来年までに虹の名前を持つ誰か一人とくっつくことになる。けれど、今のところは紅の可能性が高そうだ。だって彼は同じクラスだし、彼女のために変わろうと努力をしているみたいだから。


 三人はよく桃華と一緒に理事長室に行っている。さっき私も誘われたけど、邪魔になると思ってやめた。ゆかりに会いたいのはやまやまだけど、貴重な彼らの時間を邪魔したくない。

 旧校舎で育てられていた猫の『ゆかり』は、今は理事長室にいる。秋に入って涼しくなったせいか、理事長の許可が下りたのだそうだ。理事長である櫻井のおじ様は、忙しくて学園に滅多にいらっしゃらないのに。許可が下りたってことは、おそらく世話をしていた黄が頼んでくれたのだろう。

 夏休みはうちで飼うことができたけれど、普段は無理だ。私の両親は忙しく、泊まり込みや出張が多くて家を留守にする機会が多い。そのため、ゆかりを休み後もうちに置いておくわけにはいかなかった。


「それにしても、理事長室のカギって誰が預かっているんだろう?」


 櫻井三兄弟の誰かだと思うけれど、あそこには個人情報や重要書類も多そうだ。それなのに、カギを簡単に預けちゃうって、公私混同を嫌うおじ様からはあまり想像がつかない。あ、それともおじ様もああ見えて、大の猫好きだったりして。




 今日は午後から、11月に行われる文化祭――『彩虹学園祭』の出し物が決められる。去年うちのクラスは執事喫茶だったから、今年もその路線でいくのかも。男女ともタキシードを着るから楽だったし、ケーキは一流店から取り寄せた物を出す。お茶は学園に普段から用意してあるので、美味しく淹れる練習をすれば良かった……まあ、ほとんどの人には難しかったみたいだけど。

写真撮影もOKだったから、執事姿の紅には行列ができて評判も良かった。執事喫茶の次はメイドカフェか何かかな? 確か『虹カプ』でも桃華がコスプレしていたし……

 けれど今年は、様子が違った。


「はーい。私、みんなで劇がしたいです!」


 桃華が元気よく手を挙げた。

 劇だと練習しなくてはいけないし、衣装の用意も大変だ。それにゲームの『虹カプ』は劇ではなくて、メイドカフェだったよ? 猫耳と尻尾をつけた桃華が可愛くて憧れたもの。

 メイド姿の桃華に、攻略対象達が殺到する。壁ドンあり、後ろからハグあり、空き教室で二人きりというシチュエーションもあったりした。

 

『お前のその姿を本当は誰にも見せたくない』

『もう少しこのままで。どこにも行かないで』

『僕だけのものになってって言ったら、君はどうする?』


 そんな感じのセリフがガンガン出てきて、大いに盛り上がったものだった……主に私が。それなのに『劇』とは、しかもヒロイン本人が提案しているってどういうこと?


「たまにはいいかも」

「私、温めていた物語があります!」


 反対意見が多いかと思いきや、なぜか賛成多数だった。


「いいんじゃないか、面白そうだし」


 紅まで乗り気だ。

 まあ彼が、大好きな桃華の意見に反対するわけないけれど。でも、文化祭はゲームでは大事な場面のはずなのに、ストーリーとは違っている。これってどういうことなんだろう?


 考えてみれば、この世界は最初から変だった。

 男の子の紫記が私で、ヒロインに起こるはずのイベントがなぜか私に起こっていた。

猫の名前が『ゆかり』になったし、橙也がテーマ曲を弾いていた。

体育祭で判明するはずの好感度はついにわからず仕舞いだし、重要な桃華のイベントは予定よりも遅れている。

桃華が好きだと告白したのは女の子の紫記だし、紅輝も……間違えて私に告白してしまった。まあ、紅は私の知らないところで修正したみたいだけれど。


 私は――私だけはこの世界がゲームの世界だと知っている。だから、シナリオ通りに進めた方が櫻井兄弟が幸せになれるとわかっている。それなのにこんなに色々違っていたら、このままでいいのかどうかちょっと自信がなくなってくる。


「……てもいいですか?」


 ふと気づくと、クラスのみんなが一斉に私に注目している。しまった。考えごとをしていたせいで、全く聞いていなかった。


「ごめん、何て?」


 司会役の委員長に聞き返す。

 見れば黒板には、配役が書き出されていた。

 何ともう役決め!

 主役の王子は櫻井紅輝、一択。

 姫、魔女、竜などファンタジーだと思われる。ところが、姫のところに桃華に続いてなぜか私の名前が書いてあった。


「紫記様を推す声が多いのですが。姫の役で採決を取ってもいいですか?」


 そんなことを聞かれても、賛成できるはずがない。


「いや、女生徒もいるのにダメだろ。体育祭の時も目立つ役だったんだ。そろそろ他の人にもお願いしたいな」


 慌てて否定する。

 とんでもない! 

 女の子の、しかも姫の役だなんて。

 ここまできて性別がバレてしまったら、何にもならない。クラスの女子の何人かがため息をついたような気がしたけれど、ここは無視するに限る。


「そう……ですか。私も個人的に見たい気がしましたけれど。では、姫の役は花澤 桃華さんでよろしいですか? 良いという方は挙手して下さい」


 委員長、あなたまで。

 でも、ヒロインなら桃華が最適だ。

 紅との相性もいいに違いない。

 私は迷わず手を挙げた。

 クラスのほとんどが手を挙げている。

 腕を組む紅は前の席のため、どんな顔をしているのかわからない。手を挙げたいけれど、我慢しているのかもしれない。自分の相手役が桃華だと聞いて、だらしなくにやけていないといいけれど。


 こんな時まで私は、紅の心配をしてしまう。そろそろその役は桃華に譲るべきなのに。考えただけで胸が苦しくなるのは気のせいだ。


 こんな気持ち、私は認めない。


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