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私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です  作者: きゃる
第2章 それぞれの想い
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紅輝の告白

「――え?」


 気がつけば、紅の腕の中にいた。

 ちょっと待って、考えが追いつかない。

 これは何?

 何でこんなことをしているの?

 桃華のことを話していたはずだ。

 なのに、この反応は何だろう。

 彼女の好きな人が私だと気づいて、文句を言われるならまだわかる。それなのに、抱き締めてくるとは!?

 私の髪に紅の唇が当たっている。

 抱き込む腕は「離さない」とでも言うかのよう。

 どうもおかしい。

 だって、これではまるで――


「どうすればお前は、俺を見る」


 苦しそうに言う紅の言葉にびっくりしてしまう。

 お前ってどういう意味?

 紅が好きなのは桃華だよね?

 それなのにどうして。

 待って! 

 いったいどういうつもり?

 混乱しているくせに、心臓はうるさいくらいに音を立てている。ドキドキし過ぎて息苦しい。だって、演舞の練習でも、こんなに密着したことはなかった。

 この状況は何?

 だめだ、冷静にならないと。


「紅……苦しい」


 腕の中でもがいてみる。

 少しだけ、腕の力が弱まったような気がする。

 慌てて紅の胸に手を置いて、身体を引き離そうと突っ張った。けれど、背中にあった彼の手が腰に回されただけ。腕の力が強くて押し返せないから、結局身体はぴったりくっついたままだ。

 いったい、何が起こっているの?

 この体勢はどういうこと?

紅の顔を見上げた私は、薄茶の瞳を覗き込んだ。


「ええっと……今って桃華の話をしていたよね?」

「いや? 俺はお前の話をしていたが」

「へ? だって、転校生と話したって……」

「ああ。彼女が、紫記には好きな人がいるって言ってきた」

「――はい?」


 桃華ったら、早速バラすとはなにごとだろう。その場しのぎの嘘を、紅に言うとは思わなかった。いったいどうして? 二人ってそんな話をする間柄なの? だったら紅は今頃桃華と一緒にいるはずでは?

 ますます訳が分からなくなってきた。

 眉を寄せている私に、紅が話の内容を教えてくれるという。桃華も私のことを紅に喋ったし、おあいこだからいいかな。




『紫記様、他に好きな人がいるんですって』

『本人がそう言ったのか?』

『ええ。でも私、諦めない。他の女の人と呼び間違える紅輝様とは違うもの』

『他の女?』

『ええ。さっき外で、()()()って叫んで。まさか猫のことではないでしょう? 男同士よりもその人の方がいいんじゃないんですか?』

『……紫記は誰だと?』

『相手の名前は言えない。僕が勝手に想っているだけで、迷惑がかかると困るから、ですって。どの子かしら』

『……さあ』

『でも私、負けませんわよ。その子にも紅輝様にも』




「……というわけで、どうやら宣戦布告をされたようだ。でもまさか、お前が好きなのが藍人だとは」

「いやいや、違うから。それは勘違いだってば」


 私がそう言うと、紅は大きく息を吐きだした。髪をかき上げながらのその仕草は、スチルにしたいほど色っぽい。


「だったら、好きな人がいるというのは嘘だったのか?」


 紅がこちらをじっと見ている。

 私が男装していると知っているので、彼には遠慮なく本当のことを言える。


「だって、桃華とは付き合えないし。断るにしたって性別をバラせない以上、好きな人がいるって言うのが一番手っ取り早いと思って」


 ひどい言い分だけど仕方がない。

 他にいい方法を思いつかなかったから。

 でも、私のことはいいとして、紅は?

 桃華の好きな人を聞くならまだしも、私の好きな相手を聞いてどうする。


「確かにな」

「紅、私のことより桃華は? 男同士って、変な勘違いをされたままだよ!」


 攻略対象である紅は、ヒロインの桃華のことが好きなはず。以前、保健室でもそう言っていた。それなのに、私のことが好きだと桃華自身に誤解されたままだ。今から追いかけて訂正すれば間に合うと思う。こんな所で私を相手に油を売っている場合じゃない。


「放っておけばいいだろう?」

「そんなわけないでしょう。早く! 自分の好きな子を追いかけなくていいの?」


 紅の腕を掴んだ私は、必死に訴えた。

 ライバル宣言されたとはいえ、まだ桃華にフラれたわけじゃない。彼ならヒロインの心をあっさり奪える。魅力的だしその気になれば、すぐに振り向いてもらえるはずだ。それに、今のままではよくない。桃華が誰かに相談したら、『紅輝は男の子の紫記が好きだ』と変な噂が立つかもしれない。


「だからここにいる」

「……え?」


 胸の鼓動が大きく跳ねた。

 この先を聞いてはいけないと思う一方で、聞いてみたい気もする。

 紅は私を見下ろすと、掠れた声で囁いた。


「転校生の言った通りだ。俺が好きなのは、紫……お前だ」


 一瞬、自分の耳を疑う。

 時が止まったようだった。

 どういう反応をすればいいのかわからない。でも、桃華に告白された時とは違う、この気持ちは何だろう?

 本日――人生でも二度目の告白は、まさかの紅からだった。

 

「どうして突然……」

「突然? いや、ずっと前からだ」


 ずっと前から? 

 だったら、その気持ちは本物ではない。

 だって紅には以前、彼女がいたはずだ。

 夜も出掛けていたし、女子大生ともいちゃついていた。それに最近、攻略対象の一人としてヒロインの桃華に出会ってしまった。

今はまだ桃華に惹かれていないとしても、これから恋に落ちる可能性がある。しかも何の因果か、私は紅と同じくゲームの攻略対象だ。決して恋の相手ではない。


 それに――

 私と一緒では、幸せそうな三人のスチルの表情が見られなくなる。紅や蒼、黄の誰が桃華とくっついてもいいけれど、他の二人も彼女を想っていないといけない。前世でゲームが全てだった私にとって、この世界は『虹カプ』そのもの。シナリオ通りにした方が、絶対幸せになると知っている。彼らの母親であるレナさんとも約束したのだ。私が三人を幸せにするって。

 ぐるぐる考える私を他所に、涼しい顔で紅が聞いてきた。


「それで? 紫、お前は俺をどう思っている?」 


 どうしよう。

 どう答えればいいんだろう?

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