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私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です  作者: きゃる
第2章 それぞれの想い
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体育祭5

 藍人にさらし姿を見られたけど、性別はバレていないはずだ。何たって「あるかないかわからない」って言ってたぐらいだし……。女の子だって思われなくて良かったと、前向きに考えるべき? 

 本番前にへこんでしまったけれど、気持ちを切り替えて頑張らないといけない。紅のいる赤組を優勝させないといけないから。私は藍人の失礼な言動を頭から追い出すと、急いで運動場に向かった。


 紅や赤組のみんなは、既に着替え終わっていた。衣装係の子が貫頭衣を渡してくれる。


「ありがとう。作るの大変だったね」

「いえ、大したことはありません。あの……紫記様、頑張って下さい」


 私は頷くと、今着ている衣装の上から被った。更に小道具の剣も用意し待機する。鳳凰用の紐の付いた帽子や扇は、演舞中にさりげなく渡されるから今は要らない。

 全員が手作り、または仕立ててもらった貫頭衣を着ている。女子は手に赤いポンポンを持っていて、男子は素手。男子の何人かは大きな赤い旗を振り回す予定だ。

 時間が迫ってきたので、みんなで円陣を組む。リーダーの紅が声をかけた。


「悔いのないよう全てを出し切れ!」

「「「おおーーっ」」」 


 紅と目が合う。

 もう不機嫌ではないようだ。

 互いに頷き確認すると、走って定位置についた。

 演舞前半は、激しい戦いを繰り広げないといけない。




「さあ、華麗な演舞も残すところ一組となりました。赤組は『鳳凰の舞』です。炎の中、激しく争う二つの国。やがて全てが燃え、大地が死に絶えます。灰の中から復活するのは、一対の鳳凰。甦った鳳凰は、人々に希望を与えることができるのでしょうか」


 アナウンスが流れ、激しい曲がかかる。

 まずは旗を持った男子が並び、大きく振って炎を表現する。残った私達は二手に分かれて突撃し、戦う。女子が戦火の役、男子が思い思いに戦いを表現する役だ。日頃の恨みとばかりに飛び掛かる生徒は、リハーサルの時に注意を受けていた。


 紅と私のみ剣を扱う。

 本部席側中央で舞うように剣を合わせる。

 飛び退り、近づいてはまた飛びのく。

 飛び上がったり、地に伏せたりして激しい戦いを剣の舞で表現する。

 何度も練習したから、楽しく思える。

 今日で終わりだなんてもったいない。

 この時間がいつまでも続けばいいのに……

 

 太鼓の合図で、互いに斬り伏せられる。

 全員が運動場に倒れる形となった。

 熾火(おきび)のような小さな火は、女子の赤いポンポンだ。その間に隠れた私と紅は、貫頭衣を脱ぎ捨てて、帽子を被り扇を持つ。

 ここからが『鳳凰の舞』。

 いよいよクライマックスだ。


 徐々に立ち上がり、復活を表現する。

 両手に持った扇で鳳凰の舞を舞う。

 他にも、何人かの女子が同じ踊りをする。

 その中には桃華の姿もあるはずだ。


「紫記、俺だけを見ろ」


 視線を大きく逸らしたつもりはなかったけれど、紅が舞いながら私に話しかけてくる。随分余裕だね? 首を大きく動かさないと頭の紐が揺れないので、それは無理。でも、チームワークを大事にしようということなのだろう。笑みを浮かべて紅に応じる。


「わかった」


 ずっと練習してきたから、息はぴったりだ。扇を閉じたり開いたりするタイミングも全く一緒。あとは、難しい表現を乗り切ればいい。

 紅に背を向け寄りかかる。

限界まで()()る私が、彼の腕一本で支えられる。戦で失われた人々の悲しみを表現しつつ、鳳凰の夫婦の情愛を表すんだとか。練習で「離さない」と言ってくれたから、遠慮なく体重をかける。重いと思われようと、どうせ今日が最後だ。演舞では密着するけど、実生活ではあり得ないから。


 その後起き上がると、鳳凰同士が最も近づく場面になる。私は紅を下から見上げて、優しく頬を撫でる。対する紅も情熱を込めて、私の方に(かが)まなければならない。力が入り過ぎたせいか、紅の鼻と私の鼻がぶつかる。小さな頃から知っているけど、イケメンのどアップは心臓に悪い。

 色っぽく、なるべく色っぽく。

 照れてはいけない照れてはいけない――

 一生懸命自分に言い聞かせ、赤くならないように注意する。必死な私とは違い、紅の切ないような表情は真に迫っている。本番だからだろうけれど、演技でここまでできるって相当すごい。そんな目で見られたら、桃華もきっとイチコロだろう。


 フィナーレは、起き上がった全員が喜びの舞を踊る。で、ここからが大変なんだけど、男子の作ったタワーの上に登らなければいけない。鳳凰の飛翔を表すらしい。でも、振り付けを考えた人は自分でやったことがないと思う。三段とはいえ平安貴族風狩衣(かりぎぬ)だとさすがにキツイから。

 崩れないように慎重に。

 一番上に立った紅と私は、羽に見立てた扇を同時に広げる。

 やった、決まった!


 曲が終わり、拍手と歓声に包まれる。

 終わったしもう十分働いたから、後は退場するだけだ。ところが――




 退場の時、誰が仕掛けたのか煙が上がった。

 みんなも咳き込みながら帰っていく。

 というよりこれって何?

 リハーサルには無かったのに。

 回って来た煙が辺りに立ち込め苦しい。

 喉が……息ができない――!


「紫!」


 紅が慌てて飛んで来る。

 タワーの一番上にいたために、下りた時にまともにくらってしまった。以前、小児喘息だった私。今でも大量の(ほこり)や煙に弱い。下りた瞬間、激しく咳き込む。紅に(すが)りついた私は、息を吸うのに必死だ。


「ハッ……ハッ……ハッ」

「大丈夫だ。落ち着け」


 紅が背中を撫でてくれる。

 そのまま私を横抱きにして、走ってくれた。

 終了のアナウンスが聞こえる。

 どうやら全て演出だと思われたようだ。

 違うのに――




 救護テントで携帯用の吸入器を借り、事なきを得る。念の為、お昼も保健室で休むことにした。こっちの吸入器の方が大きいから、私にとっては都合がいい。吸入中の私の側には、紅と碧先生が腕を組んで立っている。


「危なかったね、紫ちゃん。まあ喘息の子は他にもいるけど、今のところ誰も来てないかな」

「碧先生、すみません。紅もごめん。また迷惑をかけたね」

「構わない。疲れも出たんだろう。終わるまで側にいるから」


 優しい紅はそう言ってくれるけど、人気者の彼をここに引き留めておくわけにはいかない。


「もう大丈夫だから。みんなとお昼に行ってきていいよ」


 午後の私は最後の方に騎馬戦があるだけ。

 でも紅は、いろんな競技にエントリーしていた。

 しっかりお昼を食べないと、途中で力尽きてしまうかも。


「いや。話があると言っただろう? ちょうどいい。碧、外してくれ」


 紅が碧先生を追い出そうとしている。

 慌てて口を開こうとした私より先に、碧先生が抗議する。


「んー、タイミング的に最悪かな? 僕を外に出しても、ほら」


 碧先生が身体をどけると、扉を開けて入って来た一団が見えた。

 桃華に黄、蒼がいる。

 その後ろには、藍人と橙也まで。


「紫記様、大丈夫ですか? 私、もうびっくりしちゃって」

「ゆ……紫記、演舞の後どうしたの? 僕、心配しちゃったよ」

「紅、最後のはまさかお前の演出ではないよな? 片づけが大変だと先生方がこぼしていたぞ」

「紫記……さっきはなんかごめん。とりあえず謝っとくわ」

「鳳凰、なかなか良かったよ? 紅輝と一緒なのが妬けるけどね」


 途端に保健室が賑やかになる。

 私の異常に気づいたみんなが、わざわざ来てくれたらしい。


「はあぁぁ」


 紅は大きくため息をつくと、なぜか額に手を当てていた。

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