表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です  作者: きゃる
第2章 それぞれの想い
40/84

体育祭2

 二人三脚は、足の速さより二人の息が大切だ。私と組んだ福山君はふざけたことを言うけれど、器用だし合わせてくれるのでとっても走りやすい。


「なー紫記~。もしズレてお尻触ったとしてもセクハラじゃないから」

「なんだ、それ。男同士だしそんなことを気にしていたら走れないだろう」


 本番直前にいったい何を言い出すんだろう。まさか彼もそっちの人?


「だろ? 俺もそう思うんだ。でも、今日お前と組むって知ってるやつが、何人も注意してくるんだよな」

「みんなどうしたんだ?」

「さあ。でも万が一触っても殺されたくないから、ちゃんと了解取ったって証言してくれよ?」

「何だそりゃ。ああ、冗談で緊張をほぐしてくれようとしたのか。ありがとう」


 変なことを言うと思ったら、それでか。紅と藍人の会話を聞いたせいで、私の顔が強張っていたのかもしれない。

 緊張しているわけではないし、遠慮をしたら走れない。いつもよりさらしもきっちり巻いてきたから、どこを触られても平気だ。足元の紐をしっかり結んで互いの腰に手を回す。身長差があるため、肩を組むよりこの方が走りやすい。


「んー、じゃあ思いっきりいかせてもらうわ」

「望むところだ」


 普通の走りは本物の男子には敵わないけれど、こんな感じのは得意だ。だけど隣のクラスからは、器用な橙也が出ている。途中まで蒼組に先行されてしまう。


「1、2、1、2、加速、3、4」


 この日のために合言葉を決めていたので、ここからテンポを速める……というか、猛ダッシュだ。特訓した甲斐あって、加速もスムーズ。最後は橙也達を抜かして、我々が一位だった。そのままゴールになだれ込む。


「うわっっ」

「やべっ」


 ゴールした瞬間、お約束のように足がもつれて転んでしまった。私の背中に福山君が重なる形だ。


「こ、ころ、ころ、殺される……」

「何でもいいけど早く移動しないと!」


さすがに重いし早くどかないと進路妨害になるので、焦ってしまう。ぶつぶつ呟く福山君を促して、邪魔にならないところまで慌ててほふく前進した。後でよく考えたら、さっさと紐をほどいて歩いた方が早かったのに。

自分達の必死な行動がおかしくて、私は思わず吹き出してしまった。


「ぶふっ」

「紫記、お前……」


 何? まさか男装がバレた?

 着ていたジャージを確認するけれど、どこもおかしな所はない。下に体操服も着ているから、まくれたとしても肌までは見えないはずだ。


「笑うと確かに可愛いな」

「はい?」

「あいつらの言う意味がわかったかも。ごめんな」


 急に謝るなんて何なんだ? 

転んだのはお互い様だし、別にいいのに。


「ごめんって? 僕の方こそ悪かった。でもまあ、勝てたし良かったな」

「そう、だな。でもあいつらに責められたら、あとが怖いからよろしく」


 いったい何なんだろう。

 あいつらって?

 まあいいか。

 次の技巧走――借り物競争も頑張ろう!




 借り物競争には紅も桃華も出る。出走順は私が始めの方で、紅が真ん中。女子は後からなので桃華は最後の方だ。出走順に並んでいると、隣になった蒼が話しかけてきた。

 

「紫記、さっきは大丈夫だったか?」

「さっき? ああ、見てたのか。転んだだけで怪我はない」


 紅だけでなく蒼も心配性だ。

 保育園時代は私の方が彼らの心配をしていたので、そのお返しかもしれない。


「違う。触られて嫌じゃなかったのか?」

「嫌って? 二人三脚なのに? あ、もしかして……」


 さっき福山君が言っていた『注意してくる』は本当のことで、『あいつら』の中に蒼が入っているのかもしれない。


「まさかセクハラとか何とか言ったのって蒼?」

「ああ言った。それが何か?」

「何かって……ダメでしょ。大げさだし怪しまれる」


 他の人に聞こえないよう小声で言う。私が女の子だというのは、櫻井三兄弟と碧先生しか知らないはずだから。


「私だけではない。紅も橙也も藍人もだ。一番大騒ぎしていたのは、お前のクラスの女子だったかも」

「女子?」

「そう。転校生だ」

「花澤さん? 何で彼女が」

「さあ。お前のファンじゃないのか」


 違う。そんなはずはない。

 彼女は紅のことが好きなはずだ。その証拠に、紅の近くにいる時に決まって桃華と目が合う。


「何でだろ。福山君、花澤さんにまでふざけたことを言って嫌われたとか?」


攻略対象ではない福山君まで桃華の虜? ヒロインのことを好きになったんじゃあ……

 でも、それも今日で終わる。桃華が紅とくっつけば、さすがの彼も手は出せない。




 いよいよ技巧走が始まった。

 ぐるぐるバットや平均台やネットなど、障害が多ければ多いほど小回りの利く私に有利だ。難なく次々クリアして、粉の中からカードを選び出す。

 

『尊敬する先生』


 一緒に走らなくてはいけないため、尊敬していてもご高齢の歴史の先生は無理みたい。だったら次はあの先生だ。私は真っ直ぐ救護テントに走ると、碧先生の姿を探した。


「碧先生、お願いします!」

「あれ? ゆ……紫記だっけ。何、『好きな人』とでも書いてあった?」

「ご冗談を。一緒に来てください」


 勝負がかかっているのだ。

 たとえお世話になっているとはいえ、いつもの軽口に付き合っている暇はない。苦笑した碧先生は、了解してすぐに走ってくれた。

先生のファンの女生徒達から、応援の声が飛ぶ。ゴール手前で手をつないでチェックを受け、審査を通過すればゴールまで走るだけ。


「何だ、もう終わり? もっと一緒にいたかったね」


碧先生が笑顔で冗談を言う。

 結果は二位だったけど、まあまあといったところかな? 借り物なので人とは限らない。一位の蒼は『眼鏡』だったから、自分の眼鏡を外してそのままチェックを受けていたし。


「楽しかったよ。じゃあこの後も頑張って」

「ありがとうございました」


 私は一礼した。

碧先生は待機するため、すぐにテントに戻って行った。


 紅や藍人の走る番がきた。藍人は200mで負けているからか、かなり気合が入っている。スタートした瞬間、全力疾走している。二人共足が速いので、そこだけ違う空気を(かも)し出している。


「キャーッ紅輝様~!」

「藍人くーん、こっちー」


 事前に流れた噂では、カードの中には『好きな人』というのが含まれているらしい。ちなみにカードを用意しているのは生徒会で、借りてくる物は彼らの独断と偏見に基づく。

該当する物や人がない場合、近い存在でもいいらしい。そのため、イケメンが走る時の女子はわくわくしているみたいだ。

 藍人がこっちに向かって走って来た。カードを振りながら、何か叫んでいる。


「紫記、頼む!」

「……え?」


 ま、まさか藍人もそっちの人?

 私は慌てた。体育祭というからにはお祭りなので、組が違えど協力し合わなくてはいけない。藍人に手を取られたので、取り敢えず立ち上がる。


「カードには何て?」

「あ、ごめん。『親しい友人』だ。俺達は友人だから……やましい気持ちはない」


 良かった。

変な勘繰りをしてしまった。


「当たり前だろう。藍人にそう思ってもらえて光栄だ」


 藍人は私より紅との方が仲がいいけど、さすがに一緒に走っているから無理か。だからこっちに来たのかな? 

蒼が不満そうな顔をしている。誘われたのが自分じゃなくて、ちょっとショックだったのかもしれない。私は藍人と手をつなぎ、ゴールに向かった。


 そういえば、紅の姿が見えない。

 彼はいったい何を借りに行ったんだろう。

 まさか『好きな人』?

私の心臓が、ドキンと大きく音を立てたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ