表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/84

プロローグ

新連載です。

お手柔らかに……(^。^)

「キャーッ、紅輝(こうき)様~素敵ーーっ」

黄司(おうじ)くーん、こっち向いて~~!」

蒼士(そうし)様~~、カッコいいー」

「好き~紫記(しき)様ー、クールで素敵~」


 今日もここ、『私立 彩虹(さいこう)学園』の中庭には、黄色い歓声が飛んでいる。朝早くから髪のセットやメイクに精を出し、男子寮から校舎までの道を埋め尽くす女生徒達の努力には、頭が下がる思いだ。


この学園は高等部からの共学で、赤レンガの校舎や意匠を凝らしたホールは、世界で名を轟かせている建築家がデザインしたものだという。敷地内には乗馬ができる馬場があり、噴水付きの緑の庭園や温室なんかもある。各界の御曹司や御令嬢らが通ういわゆる金持ち学校だ。

学園独自のカリキュラムはセレブ達に好評で、講師も一流である。レベルもそうだが、入学金や授業料がバカ高いことでも有名だ。大学部も近くにあり、男女とも全寮制。校則はそこまで厳しくないけれど、金持ちには金持ちなりの独自のルールやしきたりがある。一日一回お茶の時間を設けるだとか、長者番付でより上位の家の者に従えだとか。


 そんな大勢いる金持ちの中でも特に目立っているのが、紅輝、蒼士、黄司の櫻井(さくらい)三兄弟。彼らは泣く子も黙る『櫻井 財閥(コンツェルン)』の御曹司で、母方の祖母がイギリス人。そのため、いずれもすこぶるイケメンだ。

当然、学園の女生徒達が放っておくはずがなく、毎朝ただ登校するだけでこうして大騒ぎになる。けれど彼らも慣れたもので、長男の紅輝を先頭に、双子で次男の蒼士、三男の黄司はいつものように平然と進んでいく。


ところが今日は、勝手が違った。ふわふわボブの可愛らしい女の子が、意を決したように前に進み出る。


「紅輝様。あの、これ。昨日家庭科で作ったクッキーです。お口に合えば嬉しいのですけれど」


 見ればその子は、紅輝――私は(こう)と呼んでいる――に可愛くラッピングしたものを差し出している。


「ありがとう。大切にいただくよ」


 そう言って紅がその子に向かって柔らかく微笑むと、一部の女子から悲鳴が上がった。

 でも紅、嘘をつくな、嘘を。甘い物が苦手なくせに。後で処分するよう言われるのは、どうせ私だ。

 クッキーを渡したその子を皮切りに、我も我もと女子が群がる。そのうちの一人は、蒼士――(そう)にお菓子と一緒に手紙を渡しているようだ。


「あの、蒼士様。これ、読んで下さい」

「悪いが受け取れない。気持ちだけいただいておく」


 紅に対して蒼はバッサリ、にこりともしない。ただ、この前と違って一言付け加えられたことは大いに評価しよう。


「黄司君。あの、これ。ぬいぐるみが好きだって聞いて……」


 一つ年下でこの春入学したばかりの末っ子の黄司――(おう)もプレゼントをもらっている。


「うわぁ、可愛い。ありがとう。大事にするね!」


 また受け取ったか……。置く所がないからって実家の倉庫にしまうくせに。押し込められたクマやウサギのぬいぐるみが可哀想だ。それらをしまうのは、どうせ私の仕事だ。


「紫記様、お慕いしております。一日だけでいいんです。どうか彼女にして下さい」


 うるうるした目の大人しそうな女の子から声を掛けられた。あちゃー、困ったな。櫻井家でない私にまで来るなんて。巻き込まれないよう、普段からクールに振る舞っているのに。最近は積極的な女子が多過ぎる。

 紅はニヤニヤしながら私の顔を見るし、蒼は考え込むような表情でこちらを観察している。黄に至っては、私の答えに興味深々だという様子を隠そうともしていない。

 私――紫記はため息をつくと、目の前のセミロングの美少女に向き直った。わざと冷たく聞こえるよう、感情を込めずに言葉を発する。


「今後も学園で顔を合わせる仲だ。たとえ一日だろうと、互いに気まずくなるのは避けたい。すまない」


 ごめんね。でも、付き合うのは絶対に無理だから。


「いえ、私ごときが図々しくすみません」

「どうして? 君は十分魅力的だよ」


 あ……目の前で倒れた。

 別に変なことは言ってないと思うんだけど。

 立ち止まったままの紅が口に手を当て、面白そうに笑っている。蒼は苦笑し、黄も肩を(すく)めた。

 この答えじゃだめだったのか? だけど正体をバラせない以上、他の断り方を咄嗟に思いつかなかった。いくら彼女が可愛くても、受け入れられない理由がある。




 だって私――紫記(しき)は男装しているとはいえ、れっきとした女の子なんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ