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私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です  作者: きゃる
第1章 友人という名のお世話役
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再び保健室

「ねえ、紅」

「何だ?」

「さすがにもう、恥ずかしいんだけど……」

「遠慮するな。重くはないぞ」

「いや、そのことは忘れてたっていうか、言わないで。でも、見た目が男同士でこれはないんじゃないかと」


 別にいちゃついているわけではない。

 紅にお姫様抱っこで運ばれている間に、休み時間になってしまったのだ。しかも、間の悪いことにちょうど校舎に入ったところ。教室から出てきた生徒が、目を丸くして私達を見ている。


「気にするな。保健室はもうすぐだ」


 しまった、やっぱり早めに下ろしてもらえば良かった。紅は気にしていなくても、私は非常に気になる。

 みんなに顔を見られたくなくて、紅の鎖骨付近に顔を伏せる。紅はなぜか笑っている。私を抱えて歩いても、息が上がっていないのが唯一の救いだ。


「紅輝様、どうなさいましたの?」

「大丈夫ですか? その方は……」

「紅輝様、何かお手伝いできることはありまして?」


 そうだった。

 紅が女子に人気なのを忘れていた。

 彼女達は話しかけるチャンスとばかりに突進してくる。しかも、彼の腕の中の私に興味津々だ。

 ごめん、男同士で。でも、女の子の格好のままで彼に抱えられていたら、今頃もっと大騒ぎになっていただろう。


「ああ、問題ない。ありがとう」


 紅の断る声がする。

 男子の制服を着ていて良かった。

 



 保健室に到着すると、碧先生が戸口で待っていた。


「さっき教えてくれた子がいてね。それはいいけど、追い払うのが大変だったよ。紅輝、そのまま奥に下ろして」


 ただ足首を捻っただけで、二人とも大げさだと思う。だけど先生が一番奥のベッドを使わせてくれたから、外から見えずにすんで良かった。男のくせにずっと運んでもらっていたと、噂にでもなったら大変だ。いや、もう遅いのかもしれないけれど。


「まだ痛むのか?」

「もう大丈夫。ありがとう……って、痛っ!」


 心配してくれている紅に答えた途端、先生が足首に触れたので痛みがぶり返す。


「うわー。これ、相当痛そうだ。骨折していないと思うけど、腫れてるし捻挫(ねんざ)かな?」


 医師免許も持っている先生が、即座に診断を下す。念のため他も色々見てくれたけど、やはり捻挫のようだった。


「迷惑かけてごめんなさい」

「いや、いいよ。他ならぬ君のためだ。紅輝、いつまでじろじろ見てるんだい? 紫ちゃんが気になるのはわかるけど、そろそろ教室に戻ったら? ついでに先生への報告をよろしく」

「なっ。碧、職権乱用だ!」

「まっさかー。だって、僕はこのために養護教諭になったようなものだし」


 碧先生、そんなに捻挫の治療が好きなのだろうか? だったらここではなく、整形外科に行くべきだった。


「ごめんなさい。でも、紅が私のせいで出席に支障をきたすのはちょっと」

「ほら、紫ちゃんもそう言ってるよ?」

「ちっ。碧、必要以上に触るなよ? セクハラしたら理事会にかけるぞ」

「嫌だなあ、下心があるように見える?」


 まさか碧先生、女子高生に触りたくて養護教諭になったの? こんなにイケメンだしモテモテなのにもったいない。あ、でも今の私は女子高生でもないのか。一応男子生徒で通っている。

 今の情報、保健委員の女生徒達が聞いたら喜びそうだ。来年は希望者が倍増するかもしれない。


「紫、変なことをされそうになったら、大声を出すんだぞ」

「いっつも保健室を使わせてもらっているのに。紅ったらどうしたの?」

「紫ちゃんが心配なんだよね~」

「うるさいっ! じゃあ紫――紫記、また後で」

「ああ、ごめん」


 片手を上げ、紅が教室に戻って行った。世話役の自分が彼に世話をさせるなんて、ダメダメだった。

 それに、紅がわざわざ言い直した通り、校内での私は『紫記』で通さなければいけない。女の子だとわかれば、この学園にいられなくなってしまうから。特待生から外されるだけでなく、周りを騙していた分責められて嫌われ、櫻井家にも迷惑がかかってしまう。


「さて、うるさいのがいなくなったことだし、親睦を深める?」

「あ……碧先生、別にお構いなく」

「そう。まあ湿布を貼って様子を見るだけだけどね? もうすぐ体育祭だけど、当分練習には出られないからそのつもりで」

「はい……」


 すっかり忘れていた。

 学園の二大行事、体育祭は五月、文化祭は十一月に大々的に行われる。体育祭といっても金持ち学園だから、そこまで危険なことはしない。それでも高校生らしく、汗を流し勝ち負けを競い合うのだ。もちろん私も男子生徒として出場する。走るのは男子の中では真ん中くらいだが、借り物競争や騎馬戦、男女混合の二人三脚などは意外に得意だ。自分で言うのも何だけど、去年も結構いい成績を叩きだした。それが練習に出られないとなると……うちのクラスは不利になるかもしれない。

 手当てを終えた先生が、私に注意をする。


「まあ若いし本番前には治ると思うけど、無理はしないように。君は昔から……」


 言いかけた碧先生が顔を上げて時計を見た。


「いけない、これから会議だ。紫ちゃんはここでゆっくりしていくといい。目の下にクマも出来ているよ? 寮生活が負担になっているのかもしれないね」

「いいえ、全然。思っていたより快適です」


 朝起こすのさえ別にすれば、普段の世話役の仕事はそれほど大変ではない。


「そう? まああの三人に、他を蹴落とす甲斐性があるとは思えないけどね」

「……? 上のベッドから落とされたら、さすがに危ないと思いますけど」


 どういう意味だろう? 

 時々ケンカはしているようだけど、櫻井三兄弟は仲がいい。取っ組み合いのケンカなど、まずしないはずだ。


「ああ、別にこっちの話。それより、せっかくだから少し横になっていたら?」

「碧先生は優しいですね。でしたら、お言葉に甘えて」

「ゆっくり休むといい。戻ってきたら起こしてあげるから」


 私がおかしいのは、色々あって疲れているせいなのかもしれない。白いベッドの誘惑には勝てず、少しだけと思いつつ休ませてもらうことにした。

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