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祖国の終焉に生きた一人の男の物語(2)

 街中をヴェルギリウスは駆ける。

 道路は混乱する人たちで溢れていたが、街自体は異様なほどに静かに感じた。

 魔力変動警報によりほとんどの動力が切られ、慌てふためく群衆とは対照的に街自体が死んだように沈黙している。

 やがて目の前に崩れた建物と瓦礫の山が広がる。

 客船の墜落と爆発により周囲の建物の一部も崩壊し、大惨事となっているようだ。

 原形を留める建物の向こうでは黒い噴煙が空を覆っていた。

(救助部隊はまだ来れないのか)

 魔力変動が収束しない限りは下手に動けないのだろう。

 ヴェルギリウスは瓦礫の散乱する道へ足を踏み込んだ。

 もはや区画の意味はなく、周囲ではヴェルギリウスと同じようにやって来た人々が怪我人の救助を始めている。

 救助されているのは爆発に巻き込まれた近辺の人々だろう。

 ヴェルギリウスも巻き込まれた人々がいないか探し始めた。

「──ッ!?」

 懐に入れていた通信端末が急に異音を放ち始めた。

「なんだ……どうして勝手に?」

『たすけ……て……』

 動力は切っていたはずだが、端末には通信画面が映っていた。

「お、おい! 大丈夫か! どこにいる!?」

 返事はないが画面に一瞬、壊れた建物と看板が映り、そして端末が急に火花を散って壊れた。

「どうなってる……勝手に画面や声が聞こえるなんて?」

 端末に勝手にそんなことをする機能はない。まるで下手な心霊現象であるが、これはまぎれもない現実だ。

 ヴェルギリウスは周囲を見渡す。

 そして近くに端末に映ったものと同じ看板を見つけた。

 そこを目指して駆け出したヴェルギリウスは周囲を探し続ける。

 そして、ついに壊れた建物の裏で倒れている人影を見つけた。

 それは一人の女性だった。

 金色の長い髪を地面に広げながら横たわっている。

「おい! しっかりしろ!?」

 ヴェルギリウスは慌てて駆け寄ると、まずは息があるのを確かめた。

 若い娘みたいだが、医療施設の検査着みたいなのを纏っていた。

 やがて娘が目を開けた。

 それは彼の碧い瞳と対照的な紅い瞳であった。

「大丈夫か? 頭とか打ってないか?」

 ヴェルギリウスは声をかける。紅い瞳がぼんやりと彼を見つめる。

 こうして見ると実年齢よりも幼く感じる表情だ。

 だが、娘はすぐに目を見開くと叫んだ。

「あ、危ないです! 離れて!」

 その途端、ヴェルギリウスは目に見えない力で弾き飛ばされ、近くの壁に叩き付けられた。

「……な、なんだ……」

 予期しなかった異変にヴェルギリウスは痛む身体をおして立ち上がる。

 娘は苦しそうにその場で悶え苦しんでいる。

 間違いない。漏れる声は確かに端末を通して聞こえたものだ。

「おい、しっかり──グハッ!?」

 横から叩き付けられた看板で顔を殴られ、ヴェルギリウスはその場にひっくり返る。

「姉様、いじめるな」

 ヴェルギリウスの前に立ったのは小さな看板を持つ褐色の肌をした少女だ。娘と同じような服装だが、歳は十代前半ぐらいだろうか。

 無表情だが明らかな敵意の目でヴェルギリウスを威嚇している。その辺の立て看板を拾ったのだろうがもっと固いものだったら危なかった。手加減なしでこちらを警戒しているようだ。

「……や、やめなさい、トウ! その方は私を助けてくれようとした人よ。きっと悪い人ではないわ」

 娘が言った。トウと呼ばれた少女は娘の方を振り向くが、やがてポイっと看板を投げ捨てた。

 娘は苦しそうにその場にうずくまる。

 ヴェルギリウスは慌てて駆け寄った。

「大丈夫か? どこか怪我をしている──!?」

 懐に入れていた護身用の銃が急に熱くなり始めた。

 ヴェルギリウスは咄嗟に銃を取り出すと放り投げると、娘の上に覆い被さった。

 地面に落ちた拍子に銃声が鳴り響いた。あさっての方に発砲されたが、こちらに暴発していたら危ないところだった。

 ヴェルギリウスのアゴに少女トウの蹴りが炸裂した。

 娘から離れたヴェルギリウスはその場で悶絶する。

「姉様をいじめるな」

「ち、違うのよ、トウ!」

 娘が起き上がった。

「あの方はきっと暴発した銃が当たらないように私を庇ってくれたのよ。多分ね。多分だけど──」

「……乱暴だな、君の連れは──」

 ヴェルギリウスはアゴを押さえながら立ち上がる。

 どうも言動があやしいが彼女たちは姉妹のような関係らしい。少女はこっちに不信感を持っているようだが、娘の方は気遣ってくれているようだ。

「ただ無事のようで良かった。しかし、さっきの端末といい、銃といい、勝手に暴発したのは何故だ? まあ、それで君の存在に気づけたのは不幸中の幸いだが──」

 端末も銃も魔力を使っているのですでに動力は切っており、魔力変動の影響は避けられるはずだったのだ。それとも、今回はそれでも影響を与えるほどの未知の変動というのだろうか。

「申し訳ありません。それはきっと私のせいで──」

「何で君のせいなんだ?」

 その時、緊急車両の警報がこちらに近づいて来るのが聞こえた。

 どうやら、ようやく救助部隊が動き出したようだ。

 娘と少女が顔色を変える。明らかに警戒の表情だ。

「姉様、動ける?」

「え、ええ。身体の調子もさっきよりマシになったみたいだから──」

 少女は娘に肩を貸して逃げようとするが、娘がヴェルギリウスの方を気にする。

「お怪我は大丈夫ですか? ごめんなさい、こんなつもりはなかったのです」

「姉様、早く」

 少女が言うが、娘はヴェルギリウスの怪我に責任を感じているのか、なかなかそこから立ち去ろうとはしない。

「もしかして、誰かに追われてるのか?」

 娘はうなずく。

「……だったら、俺のことは気にしなくていい。早く逃げて隠れるがいいさ」

 ヴェルギリウスは元気を示すように立ち上がって両手を広げる。実際は背中もアゴも痛かったが──

「ありがとうございます。せめて、お名前を──」

「名乗るほどじゃない。ほら、早く行きな」

 娘は頭を下げると半壊した建物の向こうへと消えていった。



 やがて車両が瓦礫の向こうから姿を見せた。

 それは軍で正式採用されている武装車両が三台だ。

 大規模の災害とはいえ、物々しい登場にヴェルギリウスが警戒していると、車両から武装した兵士たちが一斉に降り立ち、周囲を警戒する。

 そして居合わせたヴェルギリウスにも当然、銃が向けられ、包囲される。

「何だ、お前ら?」

「喋るな」

 兵士の一人が近づき、ヴェルギリウスの持ち物を乱暴に検査する。

 そして腕に着けていた腕章を強引に外すと、そのコードを手持ちの端末で読み出す。

 腕章は身分証明証であり、その情報を検索しているのだ。

 どうやら、そこまでできるまでは変動も収まっているらしい。

 やがて照会した兵士が戸惑った素振りを見せる。

「ちゃんとヴェルギリウス=エンシヤリスと出ているか? それが俺の名だ」

 兵士たちの表情は分からないが、後方に控えていた兵士がどこかと無線で連絡する。

 やがて車両から軍服姿の中年の男が出てきてヴェルギリウスの前にやって来る。

「その方は本物のヴェルギリウス殿下だ。わたしがお話しする。持ち場に急げ」

 上官らしき男が命令すると、兵士たちはすぐにその場から離れた。

「大変、無礼を致しました。この部隊を指揮するロスト第七特捜班長です」

 敬礼しながら男が名乗る。

「……特捜班? どういうことだ? 救助部隊じゃないのか?」

 特捜班とは軍直轄の特殊部隊で一般には公表しない案件を担当する部隊だ。

「救助部隊はじきに到着します。我々の任務はそれとは別にあります」

「どういうことだ? この非常時よりも何を優先するんだ?」

「それは秘密事項ゆえ、殿下といえどもお話はできません。それに幸いにも魔力変動は収束しつつあります。救助部隊もすぐに到着するはず……迎えはご用意します。どうか、ご理解くださいませ」

 ヴェルギリウスは舌打ちする。

 これ以上の抗議は受け付けない、そして余計な詮索も行動もするなということだろう。文句は軍を指揮する兄王子らに言えということだ。

「……分かったよ。消えろっていうんだろ」

 ヴェルギリウスはロフトの横をすり抜けて歩き出す。

「どちらに?」

「自前の車がある」

「ならば、護衛を──」

「要らねえ。お忍びで来たんだ。救助活動の邪魔はしたくない」

 ヴェルギリウスは不機嫌を隠さずに背中を向ける。

「……一つお聞かせください。ここで何か変わったことはありませんでしたか?」

「目の前で大事故が起こっている。こうして王子と特捜班が面を合わせているのに見ているだけ! それぐらいだ!」

 ヴェルギリウスは吐き捨てるように言うと、ロフトももう引き止めはしなかった。

 ヴェルギリウスの背後で特捜班の部隊が展開する。

 その姿をヴェルギリウスは遠目に眺める。

(あの娘たちを追っているのか)

 特捜班は主に政府・王宮の裏の任務を遂行するための部隊であり、王子であるヴェルギリウスもそれに関する良くない噂はいくつも聞いていた。

 だから娘たちのことを教えなかった。

 ただ、彼自身も彼女たちが何者かを知らないのにその肩を持ったのかを説明できなかった。

 あるいは軽率な行動だったのかもしれない。心の底から気遣う娘の姿にほだされてしまったのかもしれない。

 ヴェルギリウスは黒い噴煙が覆う空を見つめる。

 確かなのは自分は何もできなかったということだ。



 ヴェルギリウスを乗せた車が屋敷へ帰還したのは夜も暗くなってからだった。

「──ああ、すまない。父上には心配をかけたと伝えてくれ。それとリーナにも俺が謝っていたと伝えてほしい。悪いな」

 ヴェルギリウスは車内の通信回線を切った。

 王宮への連絡を済ますと、車は屋敷の地下駐車場へと入る。

 ヴェルギリウスは王宮から離れた郊外近くに居を構えていた。

 ヴェルギリウスは上の兄たちと違って正妃の子ではなく、常に王宮と政府に詰めるほどの立場や役職でもない。父王から疎んじられている訳ではないが、上の兄たちとは一線を引いた立場だった。

 車が止まり、執事が扉を開けた。

「……すまん。少し一人にさせてくれ。屋敷の者ももう休むように言ってくれ。勝手なことをして済まなかったってな」

「承知しました」

 車に乗る間、事故の報道を見ながら気落ちするヴェルギリウスを見ていたためか、執事も何も聞かずに屋内へと入っていった。

 一人、薄明かりのついた駐車場で頭を冷やしていたヴェルギリウスだが、やがて後部座席に詰んだままの贈り物を見る。

「命令だ。車の荷物を一階の居間に運んでおいてくれ」

 ヴェルギリウスは外に出て車のボンネットの上に腰掛けると、隅に控えていた作業用機械人形に命じる。

 寸胴の胴体に細い腕を持つ機械人形は移動トレイを牽引すると車に近づき、車内にあった贈り物を器用に持ち出すとトレイの上に並べた。そして車の扉を閉めると通路の奥へと消えていった。

 その姿を見つめながらヴェルギリウスはため息を吐く。

「怒るかなぁ、あいつ」

「誰かに怒られるのですか?」

 ヴェルギリウスはハッとして振り返る。

 車のトランクが空き、金色の髪に紅い瞳を持つ娘がひょっこりと顔を出していた。

「もし、私のせいでしたらその方にお詫びを──」

 唖然とするヴェルギリウスを前に娘が話しかける。

 彼は顔を振った。

「い、いやいや、待て! 君、何でここにいるんだ!?」

 ヴェルギリウスは周囲で誰か見ていないか確かめると、慌てて詰め寄る。

「あの、逃げて身を隠せと言われましたので、ここに──あ、ほら、ご挨拶しなさい。先ほどの無礼も謝るのよ」

 娘に言われた横から褐色の肌を持つ少女が顔を出す。

「……さっきはごめんなさい。姉様、助けてくれてありがとう」

 少女が訥々としながら言った。

「いや、まあ、力加減はあれだが気にはしてないから……いや! どうやって入ったんだ!? この車は王族専用車だ。間違っても偶然に忍び込めるもんじゃないぞ」

「ここなら広いから身を隠せると思いまして。それでこの子と一緒に勝手に鍵を開けて隠れました」

 会話が少し噛み合っていないが、娘がさも当たり前のように答える。

「どうやって鍵を開けた!? それに屋敷には監視装置がいくつもある。不審な荷物はすぐに分かるんだぞ。なんで見つからなかった」

「難しい鍵だったけど開けられた。それに映らないようにごまかした」

 少女の方が答える。

 さっぱり分からない回答に、ヴェルギリウスは自分の常識が崩れそうになるのを抑えるように額に手を置く。

「どうしました? 気分が悪いのですか?」

「悪くないが、悪くなりそうだ……とにかく、こちらに分かるように説明してくれないか」

「ああ、すみません! ほら、挨拶して」

 娘の横からもう一人、黒髪の女の子が現れた。褐色の肌の少女よりもさらに年下の子供だ。

「もう一人、“妹”を連れて来てました。紹介が遅れてすみませんでした」

「増えた!?」

 ヴェルギリウスは頭を抱えてその場にうずくまる。

「どうかされましたか!? 気分が悪くなったのですか? あ、さっきのお怪我がまだ──」



「灯りをつけろ。それとしばらくはこの部屋に誰も寄こすな」

『かしこまりました』

 ヴェルギリウスの命令で部屋の管理システムが反応し、照明を点灯する。同時にシステム管理モードが表示される。

 彼は娘たち三人を自分の私室へと連れて来ていた。

 彼の暮らす居住階への出入りはシステムが監視し、用件もよほど重要でない限りはシステム側で肩代わりする。

「これで、しばらくは邪魔は入らない。少しは安心して──」

 ヴェルギリウスが振り向くと、娘と妹たち二人はすでに彼の寝台の上に腰をかけていた。

「フカフカしてるね、姉様」

「ほんとだね、大姉様」

「ええ。いいお布団ね」

 彼を無視して三人組をなごやかにくつろいでいた。

「……座れ!」

 ヴェルギリウスが叫ぶと、三人組は並んでベッドの上に正座する。

「いいか。まずは君たちが何者かを教えてもらおうか。俺の名はヴェルギリウス=エンシヤリスだ。知っているだろうけどな」

「はい。このエンシアの第四王子様ですね。紹介が遅れました。私の名はエレ。この子はトウ。もう一人はミューです」

「きちんと説明してくれ。君たちは何者だ?」

 ヴェルギリウスは娘たちと対面するように椅子に座りながら言った。

「それは……私たちの素性を教えろということでしょうか?」

「そうだ」

「かしこまりました。私たちはコードネーム“メディア”と呼ばれる被験体です。非公式ですが正式には汎魔導機構制御用魔力媒介擬人素体と呼ばれています」

 ヴェルギリウスは唐突な単語の羅列に鼻白む。

「汎魔導……素体?」

「汎魔導機構制御用魔力媒介擬人素体です。これで私たちの事はある程度はご理解いただけると思います」

「……いや、さっぱり分からん」

 眉を寄せるヴェルギリウスの姿に“妹”たちが顔を寄せる。

「ねえ、トウ姉様。この人、あたま悪いの?」

「でも、いい人らしいよ。エレ姉様が言ってる」

 無邪気にこちらをバカにする愛らしいお子様二人に大人げない怒りを覚えたが、それをグッとこらえて話を続ける。

「被験体ということは……君たちは普通の人間とは違うということか」

「はい。私たちは人間ではありません。主人の望みや命令に従い、魔力を自由に制御してあらゆる機械を操作する人型アシスタントデバイスです」

「エレ大姉様、この人のあたまじゃ説明むずかしいんじゃないの?」

 黒髪の少女がこちらを指差す。子供のわりにかなりの毒舌のようだ。

「そ、そんなことはないわ。ちゃんと説明すれば理解していただけるわ」

 エレが庇うが正直、庇ってもらってる気がしない。

「えーと、そうですね、分かりやすくいえば先ほど命令した管理システムと同じです。それが人型となり、もっと自由に機械を制御できるわけです。主人に従属し、その命令に従い、望むままに魔力や機械を動かす道具とご理解ください」

 エレが手を伸ばした。

 すると机に置いてあった珈琲メーカーが勝手に起動した。

 自動的に珈琲を注ぎ込むと、そのカップがふわりと宙を浮き、それがヴェルギリウスの椅子の手すりに置かれた。

「勝手にすみません。お疲れのようでしたので。珈琲の味は過去の使用量を見て計算しました。これで私たちの能力はご理解いただけたでしょうか」

 ヴェルギリウスは黙って驚愕していた。そのままカップを手にすると珈琲に口をつける。

 確かに砂糖やミルクの量は彼の好みになっていた。好みの設定機能があるがそれは使っていない。つまり機械にある過去の使用データを直接、見たということになる。

 勝手に機械を動かし、しかも目に見えないデータを調べ、そして不可思議な力でカップを運んだ。

 それは全て魔力を完全に操れるという以外に納得できる理由が見つからなかった。

 話を聞くヴェルギリウスは両手を組んでそこに頭を置く。

「……確かに君の周りでは不思議なことが多かった。信じるしかないな」

「良かった。理解してもらえたのですね」

「君の能力はな……しかし、話を聞く限りではまるで君たちは奴隷みたいじゃないか」

「違います。奴隷というのは人間がなるものです。私たちは生体デバイスですので奴隷ではありません」

「ねえ、エレ大姉様。この人、やっぱりわたしたちのことが理解できないんじゃ──」

「ああ、できねえ!」

 ヴェルギリウスは叫ぶと立ち上がった。

 エレたちもその迫力に思わず身じろぎする。

「何だ、そのふざけた話は!? まるで君たちは欲望を満たすための道具じゃないか! 疑問に思わないのか!?」

「疑問も何も、それが私たちの活用方法ですので──」

「君たちはそれでいいのか! だったら聞くが、君たちは何でその姿に作られた!?」

「人間である主人に従うには人間の姿をして、人間の言葉を理解し、同じように応答できる方が便利だからです」

「君の姿は?」

「姿?」

「ああ、君は外見は美しい女性だ。君が作られた存在ならそう作られた意図は?」

「そういうことですね。理解が追いつかず申し訳ありません。この姿に作られたのは将来の主人候補となる方の需要です。私は男性の主人へ派遣されることを想定して設計されました。生体デバイスですが人間とほぼ同等の生理機能を持つため、人間の女としての需要も満たせるようにと──」

「分かった! もういいッ!!」

 ヴェルギリウスは再び椅子に座って頭を抱え込む。

「変わった人だね。理解できなかったり、最後まで聞かずに分かったりとか」

 トウが首をかしげる。

 ヴェルギリウスは理解してしまった。

 彼女らの素性はまだ全て明らかではないが、少なくともそれを作り出した者たちの醜悪な欲望を理解してしまった。

 正直、エレの姿を見てその意図を連想してしまった自分が嫌になるほどだ。

「あの、私たちの存在が不快でしたらここから出て行きますが──」

 エレが妹たちを立ち上がらせようとする。

「待て。行く場所があるのか? 君たちが安全に過ごせる場所が?」

「あてはありません。私もなぜ脱走したのか分かりませんので……このまま施設に戻る方が良いのならそうします」

「いや、戻らなくていい!」

 ヴェルギリウスは言った。

「君たちが不快であるものか……いや、君たちの方こそ、君たちを生み出したこの社会自体をもっと不快に思って当然なんだ」

 ヴェルギリウスは立ち上がると三人の娘たちの前に立った。

「君たちは俺が預かろう」

「では、これからは貴方様が私たちの主人として──」

「思わなくていい」

「え、ですが──」

「いいんだ。その代わり、君たちが知る限りのことを教えてくれ」

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