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サンクチュアリ・ファンタジア3―光の祈りと闇の呪いと機械仕掛けの災厄と神に選ばれた傭兵―  作者: みなかけん
第四章 『もう貴方の戦乙女にはならない』
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光と闇の決戦(4)

「貴様は……まさか、黒髪の魔女か?」

 ログは鞘から剣を抜きつつ、変貌した王妃と睨み合う。

 他の者たちも事態を呑み込めないまま、戸惑いを露わに二人のやり取りを見守る。

「呑み込みが早いのね。さすがは“狼犬”の副官ってところかしら?」

 王妃の姿をした魔女がほくそ笑む。

「何故、貴様が王妃殿下にとり憑いている?」

「ふふ、驚いた? 身体を大姉様と交換したのよ」

 王妃が両手を戯けるように広げた。

「私たちはね、肉体を共有できるの。私の身体を大姉様に貸してあげたの。こっちは大姉様が借りてたのを借りてるわけだから借り物の借り物だけどね」

 そう言って王妃は自分のスカートの裾を摘まみ上げていく。

「どう、むっつり野郎さん? お腹が大きいとはいえ、お美しい王妃様の御御足よ。興味あるんじゃない?」

「……黙れ」

 ログはゆっくりと剣を抜いた。

「なに、まさか王妃様を斬ろうっていうの?」

 魔女が挑発するが、その鬼気迫った姿に首をすくめて見せた。

「うわぁ、必要ならば斬るのもやむなしって顔してるわね。本気かどうか分からないけど、あんたさ、寡黙なふりして実は相当に頭のネジ外れてんじゃないの?」

 悪態を吐く魔女だが、ふと何かに気づいた表情をして、やがてうなずく。

「分かったわ、エレ姉様。あれはこっちで呼び出すわ」

「何をする気だ?」

 にじり寄るログに向かって王妃の姿をした魔女は小さく手を振る。

「すぐに分かるわ。派手な見世物になるわよ。じゃあね」

 そう言って王妃の姿が消えた。

(何がどうなっている? 王妃殿下と魔女の関連を閣下は考えていたが──)

 だが、魔女側にこちらが把握していない能力があったのは間違いない。

 ログは《グノムス》に向かって言った。

「すぐにマリエルたちの所に向かってくれ。嫌な予感がする」



「──ええ、頼むわね」

 真紅の瞳と金色の髪をした成人女性姿の魔女。

 突如、少女姿から変貌した魔女が崖からマリエルを見下ろしながら呟く。

 マリエルは挫いた足を庇いながら魔女を睨む。

「エレ……貴女が最後まで姿を見せなかった魔女の長姉──」

「お初にお目にかかります。妹の身体を借りてはおりますが、これが私のかつての姿です」

 魔女エレは静かに答えた。

「まさか魔女同士が身体を交換できるとはね……支配される直前の妹と入れ替わって出てきたってわけね」

 魔女が崖から足を踏み出し、ふわりとマリエルの近くに着地する。

「理解が早いですわね。貴女も優秀な科学者殿のよう。そのまま寝ていれば何もしませんわ。エンシア技術を受け継ぐ科学者を無下にはできませんからね。これからのエンシア再建のためにも」

 魔女はさらに下に視線を向ける。起動準備の整った強化装甲が隠されている方向だ。

「ただ、あの鎧だけは看過できませんわ」

「手出しは……させないわ」

 マリエルが立ち上がる。

「勇敢な方ですわね。でも、どうするおつもりです?」

「どうもしないわ。動かないだけよ」

 マリエルが主人でもある“狼犬”に倣った不敵な笑みを浮かべる。

 魔女が何かに気づいた素振りを見せる。

「これは──」

「あの鎧はこちらの切り札よ。何としてもそちらには渡さないわ」

 魔女は《アルゴ=アバス》の調整装置の異変に気づいたのだろう。それが急激に出力を上昇しているのだ。このままでは爆発を起こすだろう。

 魔女は何かを試みたようだが、その表情が戸惑いに変わる。

「止められない? これは──」

「神の魔剣を使った対生成機関の爆破装置よ。魔女でも止められないわ」

 自爆装置を兼ねた調整装置には副長ログから預かったシグの魔剣を装着している。

 光に属する剣を媒介に力を生成するこの機関は一度、発動したら魔力を操る魔女の力では止められないのだ。

 これはマリエルたちに何かがあった時、崖を破壊して《アルゴ=アバス》を埋めるための最終手段だ。マリエルが定期的に操作を取り消さない限り、この調整装置は常に自爆装置としても作動している。つまり、マリエルたちに何かがあれば自動的にそうなるように仕掛けていたのだ。

「貴女……死ぬ気ですか?」

「この戦い、皆が命を懸けているのよ……名も分からないエンシアの先輩方からお預かりした遺産よ。横取りなんてさせられないわ」

 そして次の瞬間、その場が大音響に包まれた。



「姐さん!?」

 部下の二人が叫んだ。

 エルマたちが陣取る岩場から離れた位置に待機していたマリエルたちの居る場所で爆発音が響き、崖が崩壊していた。

「所長!?」

 アードがエルマの指示を仰ぐ。

「……うちはここを離れない。二人で《アルゴ=アバス》とマリエルたちの安否を確認してくれる?」

 エルマは腕を組んだまま、表情を見えないように顔を伏せて答える。

 あの崖の崩壊はマリエルたちが敵に襲撃されてそれを回避できなかった時の非常手段だ。

 鎧と魔剣を埋もれた崖の中に隠し、地中を潜行できる《グノムス》がそれらを回収して男爵たちの許に届ける手はずになっていた。

「分かりました。僕たちで行って来ます」

 アードたちがその場を離れる。

「二人とも、こうなった以上はこっちの目論見が外れて来てるってことだわ……これが潮時だと思ったらちゃんと逃げなさいよ」

 エルマが言った。

 アードとウンロクは互いに顔を見るが、一緒に親指を立てる。

「大丈夫っす。所長代理だけはちゃんと逃がしますから」

「姐さんも無茶せんでくださいよ!」

 アードたちは慌ててマリエルたちの方に行った。

 エルマはその姿を横目で見る。

「……悪いわね」

 そして不吉な予感を映すような暗澹とした空を見上げるのだった。



 黒剣の魔女は追い詰められていた。

 周囲を包囲する四人の天使。

 地面には天使クーラの展開した光陣が描かれ、三人の天使たちがその光陣の中で動く。

「まだよ!」

 魔女トウが剣を振るい、投げつけられた黄金の枝針を弾き返した。

 その隙を突いて狼頭天使と“監視者”の二人が拳と剣を手に襲いかかる。

「まだ!」

 魔女トウは剣を手放すと宙に浮く剣の鍔を足場に跳んだ。

 空を切る拳と剣。

 身を翻した魔女が手を伸ばして剣を引き寄せる。

 だが、宙にいた魔女トウの前に少女クーラが迫った。

 弾き返された枝針を器用に空中で掴むとそれを魔女に向かって振り下ろす。

 魔女は眼前に迫る針を黒剣の柄で辛うじて受け止めると、クーラを蹴り返してその反動で地面に着地する。

 その隙を突くように手首に光糸が巻き付いた。

 森人天使の掴む光糸に引っ張られ、魔女トウは剣を持つ手首を拘束される。

 頭上に浮かぶクーラと地上に立つ三人の天使。

 だが、魔女は絶体絶命の危機にありながらもその表情には笑みを張り付かせていた。

「……何を考えている?」

 力比べをしているドラゴが油断なく睨む。

 他の天使たちも警戒を解かない。

 魔女トウは空に浮かんでこちらを見下ろす少女天使に声をかける。

「そこの可愛らしい天使さん。あなたのこの円陣の力は中々手強いわね。この中にいる者の動きは全方位から把握できるって事でしょう?」

「何が言いたいのですか?」

「いえ、ね。もしかしたら下ばっかり見てるから、上には気付いてないオバカなオチになるのかなって、敵ながらつい心配しちゃったのよ」

 少女天使がハッとして天を見上げた。

「ようやく気がついた? 青天の霹靂ってやつかしら? 曇天だけどさ」

 交戦する魔女たちの頭上を真紅の閃光が広がる。

 それは天使たちに向かって降り注ぐ凄まじい破壊の魔力であった。



『マークルフ様──』

 振動を感知したマークルフは振り向いた。

 モニターを望遠にしてマリエルたちが待機しているはずの場所を確かめる。

 崖が崩れていた。

『マリエルさんとエレナさんは──』

 二人の姿を探すが崖に隠れているのか、ここからは確認できない。

 当初の計画ではマリエルの待機場所にエレナが合流し、そこに隠していた《アルゴ=アバス》を“門番”を使ってここまで転移するつもりだった。

「……もう少し待つ」

 マークルフは自身の苛立ちを抑えるように告げた。

 “門番”を使った転移が不可能になった場合、崖の下に鎧を隠し、《グノムス》が代わりに回収してここまで運ぶ手筈になっている。

 ただ、計画の要であるエレナの安否が気にはなった。

 最悪、撤退を余儀なくされる場合も考えなければならなくなった。

 だが、心配すらも許さないように警告音が鳴り響く。

 高出力の魔力反応を捉えたマークルフはその方向を見るが、その瞬間に閃光と衝撃が走り、地面が揺れた。

『これは──!?』

「何が起きやがった!?」

 マークルフは《戦乙女の槍》を構える。

 近辺で何かが爆発し、噴煙が空まで覆う。

 膨大な破壊の力が地上を攻撃したとしか思えなかった。

 その噴煙に影が浮かぶ。何かの巨大な影だ。

 影は地上付近で軌道を変え、地表を滑空するようにこちらへと高速で飛来する。

『あれはッ!?』

 風圧で噴煙を振り払い、姿を現した影を目にしたリーナが叫ぶ。

 それはこちらに口腔を向けて吼える機械の魔獣──“機竜”だった。

 マークルフも驚愕に目を見開くが、背後を一瞥するとすぐに全ての推進装置を起動する。

『マークルフ様!?』

「奴を止めるんだ!」

 推進装置を開放して飛んだ黄金の“鎧”と機械の竜が地表付近で激突した。

「グッ──!?」

 “機竜”の肩に取り付いて止めようとしたマークルフだが、高速で飛来した巨体は止めきれず、景色がめまぐるしく前へと流れていく。

「リーナ! もっと出力を上げろ! このまま奴を突っ込ませたらまずい!」

『ダ、ダメです! この状態ではこれ以上──』

 出力が上がりきらないでいた。

 “鎧”に変身できるものの、“聖域”の影響が不安定になっているために出力が安定しないのだ。

 マークルフは後ろを向く。

 そこには微動だにしない“機神”の姿が迫っていた。

 このままでは“機竜”もろとも“機神”へと衝突する。

『マークルフ様!?』

「クソぉおおおッ!」

 マークルフは叫んだ。

 “機竜”と“機神”が衝突し、先程をも上回る大音響と爆風が吹き荒れる。

 その噴煙の中から黄金の鎧が飛び出した。

 吹き飛ばされたマークルフたちは地面に叩き付けられるように転げ落ちる。

『大丈夫ですか!?』

「それよりも“機神”だ!」

 マークルフは槍を手に立ち上がる。

 周囲は大質量の落下によって舞い上がった砂塵と風によってさながら砂嵐のようであった。

『何故、“機竜”が──』

 動揺を隠せないリーナが声を上擦らせる。

「……分からねえ」

 魔女たちの仕業と考えられたが、彼女らは人工知能を有する自律機械は操れないはずなのだ。

『まさか、兄様が……』

「奴の力は封印しているはずだ。そもそも、“機竜”を都合よく呼び出せるなんてできるわけがねえ」

 “機竜”は古代エンシアが誇った国防兵器であり、大量に存在していた訳ではない。数百年を経た現在でも、彼らが戦った機体を含めて存在を確認された例は数件にしか過ぎない。

 不安定化によってある程度の魔力は使えるようになっているとしても、“聖域”に縛られた“機神”がこの広い世界に現存して漂っている“機竜”を呼び寄せるなんて、偶然にしても到底考えられなかった。

 砂埃の向こうから“機神”が姿を現す。

 “機神”はあれだけの爆発でも動くことなくそびえ立っていた。

 いや、それどころか“機神”は蠢いていた。

 その胸に“機竜”がめり込むように埋まっており、鋼のツタが“機竜”を何重にも絡みとっている。そして、“機神”はその巨体をゆっくりと覆い被さるように動かしながら、自分の中に“機竜”を取り込もうとしていた。

 マークルフたちとの戦いで活動停止していた“機神”が再び動き出した瞬間であった。

「リーナ! 〈アトロポス・チャージ〉は!?」

『ダメです。出力が不足したままでは──』

「クソッ、このまま奴の“餌”にされるのを見ているわけには──」

 激突した“機竜”は前に戦った物よりも小さかったが、その機体に搭載された魔力炉や蓄積魔力は膨大なはずだ。

 それを“機神”が取り込もうとしている。

 かつてラングトン=フィルディングが画策していた“機神”復活手段が予期しなかった状況で始まろうとしていた。

『虚飾に彩られた希望の“光”は潰え、絶望から甦った叡智の“闇”こそが未来を手にする』

 近くの崖の上に幻影が姿を現す。闇の外套を纏った男の幻影だ。

「ヴェルギリウス!? てめえ、息を吹き返していやがったのか!」

『兄様がいるのですか!?』

 どうやらリーナには幻影の姿が見えていないらしい。

『“神”に選ばれし勇士の敗北をもって、それを示そう』

 幻影の後ろから複数の人影が現れる。

『あれは……』

 リーナの声が戦慄のようにマークルフの背を駆け抜ける。

 姿を見せたのは鋼のツタと水晶質の甲殻で覆われた人型の異形。

 数は六体。

 アレッソスが変貌した一体を倒すだけでも骨の折れた異形が幻影の両脇に陣取り、マークルフたちを見下ろしていた。

『マークルフ=ユールヴィング。いくら君が抗おうが世界の運命は止められないのだ』

 異形達が一斉に咆哮をあげた。

 おぞましき咆哮が全ての希望を砕くように世界中に響き渡るのだった。

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