表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンクチュアリ・ファンタジア3―光の祈りと闇の呪いと機械仕掛けの災厄と神に選ばれた傭兵―  作者: みなかけん
第四章 『もう貴方の戦乙女にはならない』
76/135

光と闇の決戦(2)

 地面が陥没し、その底から《グノムス》が浮上する。

 一緒に浮上するのは黄金の“鎧”を装着したマークルフとエレナだ。

「……思った以上に近くに潜んでいたんだな」

 荒野の只中に立ったマークルフたち。その目の前にはそびえ立つ機械神の姿があった。

 ヴェルギリウスたちの居た遺跡は“機神”が活動停止した場所の地下深くにあったようだ。

「“狼犬”、ここからはどうするつもりだ?」

 エレナが訊ねる。

「敵の親玉の力を封じることには成功したはずだ。残りの魔女たちを支配はできないのか?」

 エレナが首を横に振る。

「試みたが“機神”を介した感知では魔女たちの居場所を探れなかった。何か対策を立てたのかもしれん。直接、対峙すれば支配できるかもしれんが、一度はわたしに支配されているだけにそう容易くはいかないと見るべきだ」

「そうなると天使たち頼みだな。あいつらが魔女たちの相手をしている間が勝負だ」

 マークルフは《グノムス》に向けて言う。

「グーの字、お前はエレナ=フィルディングを連れてここから戻れ。王妃殿下をログの所に届けて保護させてくれ。それからは打ち合わせ通りに動く。敵がどう出るか次第だがな」

「分かった……頼んだぞ」

「そっちもな」

 エレナが《グノムス》の差し出した腕に乗った。鉄機兵を中心に地面が陥没し、その姿が地下へと消えていこうとする。

『マークルフ様、お願いが──』

 リーナの声がした。

 それを聞いたマークルフは手で《グノムス》を止める。

「グーの字、リーナからの伝言だ。いつ言えるか分からないからここで言っておくそうだ──この戦いが終わったらお前は自由にする。もう自分の命令を聞く必要もない。あの妖精娘と一緒に好きな所に行っても良い」

 鉄機兵は動かない。

「今まで自分を守ってくれてありがとうだってよ。俺もついでだが礼を言わせてもらうぜ。だから、もう少しだけ力を貸してくれ、グノムス──」

 その言葉を聞いた《グノムス》が静かに地中へと潜っていく。

「頼むぜ」

 そして鉄機兵の姿は消えた。

「これで良いんだな、リーナ?」

『はい。エンシアの亡霊は消えるべきだとしても、せめてグーちゃんだけは──』

「そうだな。あの妖精娘まで泣かせることはないしな」

 マークルフはそびえ立つ“機神”の方に振り向く。

 まだ離れてはいるものの、その巨大な機械神はこの世界を蝕む運命のように絶対の威容を見せる。

「思えば、こうして何もない場所で“機神”と睨み合うなんて今までなかった気がするな」

『そうですね。あの時は必死でしたもんね』

 二年前に一度、彼らは“機神”と戦ってその暴走を止めている。

 それだけに静かに佇む“機神”の姿が嵐の前の静けさとやらに感じられた。

『マークルフ様、一つだけ聞いてよろしいですか?』

「何だ?」

『なぜ、今まで私に手を出されなかったのですか?』

 マークルフは仮面の下で思わず驚く。

「な、何を聞いてやがる。こんな時に──」

『すみません。でも、こんな時だから聞いておきたくて……私が戦乙女だからですか?』

 マークルフは“機神”の姿を睨んでいたが、やがて答える。

「それも理由の一つだ。でもよ、別の理由もあったさ。奴との戦いが終わった時に俺が生きてるか分からねえ。生き残れたとしても寿命がどれだけ残るかさえ分からねえ。それを隠したままお前を抱くなんて、やっぱ騙してるようでな」

『今まで人を騙してきておいて、そんな事をおっしゃるんですか』

「そう言うな。今までずっと振り回してきたけど俺は俺なりにずっと──」

『分かってます。私のことを大切にして下さってたのですよね。ありがとうございます』

 マークルフは目をきつく閉じる。

 “鎧”となって身を守るリーナから自分の苦悩を隠すように──

「分かっているなら、これ以上言わせるな」

『……ごめんなさい。でも、聞けて嬉しかったです』

 マークルフは槍を握りしめると目を見開き、“機神”をその双眸に捉える。

「てめえも早く俺をひねり潰したいと手ぐすね引いているところか?」

 “機神”もまた見ているはずだ。

 世代を超えて抗い続ける不遜なる傭兵の姿を──

「待っていろ。これから俺たちが引導を渡してやる」



 執拗に狙う光輪を魔女トウが躱した。

 その背後を狼頭天使が襲いかかる。

「チィッ!」

 トウが黒剣で斬り払うも、ファウアンはそれを避けずに輝力に包まれた自身の手で受け止めた。

 黒剣の魔力と拳を包む輝力が衝突し、機械の手と黒の刀身が反動で軋む。

「しまった!?」

 反動に堪えられずに魔女の手から黒剣が弾き飛ばされた。

 ファウアンがそのまま掴みかかるがトウは後転しながら飛び退くと手をかざす。

 黒剣が空中で静止して魔女の手に戻ろうとするが、その刀身に光輪がぶつかり妨害した。さらに光輪が二つ飛来すると刀身をその輪に通したまま制止する。

 黒剣が火花を散らすが光輪に拘束されて動きを止めた。

「貴女の武器は封じました。ファウアン、お願いします」

「承知した」

 ファウアンが丸腰となった魔女に向かって身構える。

 魔女トウは腰の短剣を引き抜いた。

 狼頭天使の機械の指が軋んだ音を立てる。

「あの黒剣は魔力伝導の高いエンシア由来の特殊金属だな。しかし、それは普通の材質のようだ。それでは俺の装甲に傷を付けるのがせいぜいのはずだ」

「へえ、狼頭さんって鑑定もできるのね」

 トウは強がるが不利なのは否定できない。剣は少女天使クーラに封じられた。それで彼女も手を出せないが、トウの力はあの黒剣を利用した戦い方に依るのが大きい。このまま改造兵でもある狼頭天使との戦いは厳しい。

(ミュー、聞いてる? こっちは手一杯になりそう──そっちは?)



(ごめん、こっちも下手に身動き取れないわ)

 魔女同士の持つ共感能力で会話するミュー。

 その間にも剣が飛来して彼女を狙うが、操る鉄巨人が盾になって防ぐ。

(こうなったら天使たちよりも“狼犬”の動きを止める方が先よ。予測通りなら“機神”を破壊するために強化装甲を用意しているはず。それを潰してしまえば──)

 ミューは鉄巨人に命じると自分を懐に抱えさせた。

 そして肩に乗せた小型機械獣がその尾で彼女の周囲を守る。

 二体のしもべに自分の身を守られたミューは周囲の張られた光の包囲網を警戒しつつ、意識をもう一体のしもべに集中する。



「何を始める気だ、魔女め」

 木の陰に身を隠す森人天使ドラゴが怪訝な表情を浮かべる。

『空にいた翼竜がここから消えた。おそらく魔女はそっちに集中しているようだ』

 “監視者”の声が聞こえる。

『ああなるとこっちからも手出しはしにくいな』

 機械のしもべを行使する魔女の動きを封じるために罠と騙し討ちの包囲網を作り出した。しかし防御に徹せられては、魔女も動けないがこちらからも攻め手に欠けた。

「チッ、まどろっこしい」

 ドラゴは黄金の細い枝針を取り出す。余分な葉もそぎ落とした針のような枝だ。

 そしてそれを音もなく投げつける。

 それは自ら張った光の網を越えて魔女を狙うが、機械の尾が動いてそれを弾き落とした。

 魔女が挑発するような笑みを浮かべ、ドラゴは苛立ちを露わにする。

 あの機械獣の尾は自動的に攻撃を弾く高精度の防御装置のようだ。 

『焦ることはない。少なくとも魔女の動きは封じている。クーラたちの方も魔女を追い詰めているようだしな』

 “監視者”が言うとその気配が消える。様子身に徹するようだ。

「……呑気な奴だ」

 ドラゴは舌打ちすると自らも木の同化するように気配を消した。



 地平線に“機神”の姿が見える場所に傭兵部隊《オニキス=ブラッド》が待機していた。

 不測の事態に備えて待機する彼らの先頭に立つのは副長のログだ。

 これからどうなるか分からず浮き足立つ中、ログは一人静かに立っていた。

 その彼らの足許で地響きが伝わり、やがて地面に亀裂が入る。

「慌てるな、味方だ」

 慌てて武器を手にする部下たちにログは告げる。

 地割れが広がり、そこから《グノムス》が出現した。

 《グノムス》の胸が開き、そこに眠る王妃の姿を見たログは驚くも、すぐに冷静さを取り戻して控えていたウォーレンに命令する。

「女傭兵、後衛の給仕、集められるだけの女たちを集めてこの方を保護しろ。クレドガルの王妃殿下だ。丁重にな。王都への伝達も急げ」

 ログの命令ですぐに女性陣が集められると慎重に王妃を《グノムス》から降ろさせる。そして眠ったままの王妃を担架に乗せると、静かに運ばせた。

「どうやら、ここまでは上手く行っているようだな」

 ログが言うが《グノムス》は答えない。ただ王妃を連れてここに来たということはこちら側の予想が的中し、なおかつ相手の動きを封じることに成功したと考えて間違いないだろう。

「──総員に告ぐ」

 ログが背中を向けたまま告げた。

「ここから先は大規模な破壊が予想させる。離れてはいるがここも安全は保証できん。ここから先は志願者だけとする。それ以外の者は王妃の護衛に回れ」

 だが、そのログの前に傭兵たちは足を踏み出す。

「ここまで呼んでおいてそれはなしですぜ、副長」

「そうそう。こんな大舞台の見逃しちゃあ傭兵の名がすたるってものでさあ」

 部下たちの姿にログも思わず目を細めた。

「……忠告しておくが追加の給金は出ないぞ、クズ石ども」



 上空を機械の翼竜が飛来していた。

 空は急激な霊力変動によって生じた薄暗い雲に覆われ、地上に影を落としている。

 機械の目はその地上を俯瞰する。

 そして見つけた。

 “機神”を中心に広がる荒野。その外れにある崖の上に陣取る人間たちの姿だ。

(あれは……あの女!)

 しもべである機械竜を通して地上を偵察する魔女ミューは人間たちの一人が自分を陥れた女科学者だと気づく。この女の後ろには男たちが二人いた。

 女が空を見上げた。翼竜の姿に気づいたのだろう。

 魔女が使役する機械竜と知りながら女は怯む姿はなく、逆に挑むような視線をこちらに向けていた。

(こいつ、ふてぶてしいにも程があるわね)

 ミューは翼竜の衝撃波で攻撃しようと考えるがそれを抑えた。

 何を考えているか分からない以上、迂闊な攻撃をするべきではない。

 それに周囲に計測器はあるが強化装甲を隠して持っているようには見えない。

 ミューは翼竜に別の場所の偵察をさせた。

 そして、荒野を離れた崖の隙間に微細な魔力の反応を探知する。

 翼竜がその場所に急降下し、反応のあった場所を通り過ぎた。

 そこに一人の女がいた。

 科学者風の女だ。“狼犬”の仲間だろう。

 そして探していた強化装甲の姿が近くにあった。

(見つけたわ! あの女は本命を隠しておくための囮だったわけね)

 向こうも翼竜の姿に気づいたのか、慌てて動き出す。科学者の方が強化装甲の起動に入った。

(“狼犬”の所に飛ばすつもりか)

 強化装甲は独立して稼働し、装着者の許まで飛来する能力も持つ。“聖域”が不安定化して機械の活動が可能になっている現在、あの鎧も“狼犬”まで十分に届くはずだ。

 崖に隠れた女と装甲は上空からでは攻撃しにくい。このままでは強化装甲の射出を許すことになる。

(姉様、力を貸して)

 ミューが離れた場所で戦う姉魔女に助けと意図を伝える。

(──結構、無茶になるわよ)

(このまま負けるわけにいかないわ。お願い)

(分かったわ。ついでにこっちにも手を貸して)



 狼頭天使ファウアンと対峙していた魔女トウが動きを止める。

 観念したのかと思うも、その表情はまだ戦意を失っていなかった。

「何を考えている?」

「すぐ分かるわ」

 そして魔女の言葉通り、天使たちはすぐに異変に気づく。

 機械の翼竜がこちらに飛んで来ようとしていた。

 それも速度を落とさずにまっすぐにこの地上にだ。

「ここにぶつけるつもり!?」

 クーラも警戒するが、魔女の剣を封じたままでは動くこともできない。

「貴様も逃げられんぞ、魔女?」

 クーラと二人で魔女を挟むように立ち回るファウアン。

「このまま負けるよりはマシよ」

 そして更に速度を落としながら翼竜が地上すれすれに突っ込んできた。

「クーラ、逃げろ!」

 ファウアンとクーラがその場から飛び退く。

 だが魔女は逃げない。

 風圧で周囲に砂塵が舞い上がった。しかし予想された衝撃はなかった。

「……さて、これでもう少しは戦えそうね」

 砂埃が晴れ、地上に魔女の姿が映った。衝突に巻き込まれることなく、その手には取り返して黒剣を握っている。

「あの機械竜は──」

「そうか、魔女め。転移装置を作動させたか」

 ファウアンは気づく。

 あの翼竜は古代エンシアが用いていた偵察機で、それにはあらゆる領域に移動するための転移装置が組み込まれている。魔女は衝突直前にそれを起動して翼竜を飛ばしたのだ。

 そして、魔力の波動から割り出した転移の予想先は──

「ドラゴ! シグ! 気をつけろ!」



 ドラゴたちの前で魔女が動きを見せた。

 転移を試みているようだ。

「魔女め、何を考えてやがる?」

 ドラゴが木の陰から警戒する。

 魔力のある場所なら転移の力を持つ魔女ミューであるが、今はドラゴたちの力が相殺して封じている。それを分かっていながら転移を試み続けているのだ。

 そして魔女の周囲を機械の尾が包み込む。まるでバネのようにだ。そしてそれを隠すように鉄巨人が身を丸めた。

『ドラゴ! シグ! 気をつけろ!』

 ドラゴの脳裏にファウアンからの警告が飛ぶ。

 同時に目の前に機械の翼竜が出現する。

「何だとッ!?」

 翼竜が林に突っ込んだ。鋼の翼が木々を薙ぎ倒し、着地の衝撃で周囲を揺るがす。

 光の翼が広がり、ドラゴは空を舞った。

 翼竜が口腔を向けて衝撃波を放とうとするが、ドラゴが貴石のクナイを投げつける。

 クナイに結びつけられた光糸が翼竜の顎に絡みつき、その口を封じると同時に姿を現した“監視者”がその剣で翼竜の眉間を貫く。

 翼竜の眼光が消え、そのまま動かなくなった。

「──奴は!?」

 ドラゴは魔女の姿を探すが、残っていたのは半壊した鉄巨人だけだった。

 どうやら翼竜の不時着に巻き込まれたらしいが、抱えていたはずの魔女の姿はなく、その気配も消えていた。

「……しまった、そういうことか」

 翼竜がここに転移したのは魔女を逃がすためだったのだ。

 だから魔女はそれに備えて身を守りながら転移を試み、翼竜衝突の混乱を突いてまんまと脱出しのだ。



 周囲の目から隠れられる崖の隙間にマリエルは陣取っていた。

 そこには強化装甲《アルゴ=アバス》と保守点検装置が置かれており、彼女は装置を動かしながら鎧の起動準備を始めていた。

 その装置の測定装置が魔力の反応を探知する。

 マリエルが振り向くとそこにはいつの間にか黒髪の少女が立っていた。

 何かに巻き込まれたのか、全身に傷と打撲を負っていたが少女は鋭い視線でこちらを睨んでいた。

「魔女!?」

 マリエルは護身用の銃を抜くが、肩に乗っていた機械の獣がその尾を伸ばし、銃を弾き飛ばした。

「そこまでよ……その鎧は使わせないわ」

 魔女は呟くが、その瞬間、足許を見て何かに気づく。周囲の地面は一度掘り起こされていた。「これは──」

「遅いわ!」

 魔女を中心に魔力の円陣が出現する。

「──“門番”!?」

地中に埋められていた“門番”の存在に気づいた魔女だが、罠だと気づいた瞬間にはその姿が消えていた。



 崖の上に魔力の円陣と魔女が出現する。

 “機神”の姿を一望できるその崖の上にエレナ=フィルディングが立っていた。

 背後には一緒に転移してきた“門番”が出現する。

「お前は──」

「そこまでだ」

 エレナが手をかざした。

「──ねえ──さ──」

 “機神”の力を行使したエレナによって魔女ミューが膝から崩れ落ちる。

 そして糸の切れた人形のようにそのまま地面に倒れるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ