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サンクチュアリ・ファンタジア3―光の祈りと闇の呪いと機械仕掛けの災厄と神に選ばれた傭兵―  作者: みなかけん
第四章 『もう貴方の戦乙女にはならない』
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光と闇の決戦(1)

 マークルフの掛け声と共に《グノムス》が胸の装甲を開いた。

 その中に居たのは外套姿の一人の娘だった。

「その権限を――」

 娘――エレナ=フィルディングが魔女に向かって手をかざす。

 魔女が明らかに焦った表情を見せた。

 傍らに居た獣人が動き出そうとするが、マークルフも“心臓”の魔力を用いて瞬間的に肉体を強化。その脚力で獣人を蹴り飛ばすと、さらに《戦乙女の槍》を投げつける。

 槍が獣人を貫き、そのまま壁に串刺しにした。

「――凍結する!」

 エレナがその手を握り締めた。



『これは――』

 リーナの前で、ヴェルギリウスの幻影がその姿を乱していく。

「……マークルフ様は兄様の存在を知ってから、兄様と魔女についてずっと考えていたのです」

 リーナは静かに立ち上がった。その思い詰めた顔を兄の幻影に向ける。

「エンシア王家の人間が黒幕なら、おそらく、その血を引くクレドガル王家に謎を解く鍵があるのではないか――魔女エレの正体と、そのお腹の子に何か秘密がある事も予想していました」

 周囲の計器が光を失っていく。

『そうか――どうやら彼に、謎解きの手がかりと――時間を与え過ぎ――』

 機械が動力を失い、次々に沈黙する。

『リーナ、お前はこれでいいのか――』

 乱れた映像の中、その声がリーナに問いかける。

 彼女は顔を背け、きつく目を閉じる。

『そうか――』

 幻影を映していた装置が停止した。

 部屋は暗闇に包まれ、死のような静寂が彼女を包む。

「兄様……わたしは……」

 残されたリーナは振り絞るように呟き、その静寂に背を向けた。



「あなた……」

 王妃の姿をした魔女エレから声が漏れる。

 周囲の装置が次々に停止し、彼女自身も力を失ったかのようにふらつく。

「この……ま……」

 魔女の身体から完全に力が抜けた。

 マークルフは慌てて駆け寄ると倒れる魔女――システィア王妃を受け止め、静かに膝をつく。

「失礼!」

 マークルフが王妃の頬を叩く。だが、王妃は気を失っているのか、目を開けない。

 エレナが《グノムス》から降りて駆け寄る。そして静かに王妃の下腹部に手を当てる。

「どうだ? お腹の子は無事か?」

「お腹の御子は大丈夫だろう」

「そうか……良かった」

 マークルフは心底、安堵するように息を吐く。

 その横顔をエレナが窺う。

「そなたにとっても大きな賭けだったようだな」

「……お腹の子がヴェルギリウスそのものではないと分かったが、それでも本当に悪影響が出ないかは分からなかったからな。もし、御子に何かあれば俺はこの首を陛下に差し出して詫びるつもりだった」

「だが、ここからだぞ」

「ああ……分かってる」



「ヴェル兄、姉様――」

 別室にて待機していた魔女トウとミューも異変に気づいた。

 そして、それが“狼犬”たちの仕業だとすぐに突き止める。

「あそこにあの女を隠していたなんて――あの鉄機兵、やっぱりとんだ食わせ物だわ!」

 姉魔女に命じられて待機していた二人だが、まんまと“狼犬”たちに出し抜かれた形だ。

「ミュー、いくよ!」

「ええ!」

 二人はすぐに転移しようとするが、それよりも早く何者かが彼女たちの前に転移して来た。

 魔女の転移の気配に気づいて出現した天使たちだ。

「見つけたぞ、魔族ども」

「邪魔はさせんぞ」

 現れたのは森人天使と狼頭天使だ。

 魔女たちはしかめ面を浮かべながらも身構える。

「そう……“狼犬”と手を組んだってわけか。ミュー、まずはこいつらよ」

「分かったわ」

 魔女たちが姿を消した。同時に天使たちの姿も消えた。



 マークルフは慎重に王妃を抱え上げる。

「グーの字、この方を守れ」

 彼の命令に《グノムス》が膝をついて胸の装甲を開く。

「この鉄機兵の中に匿うのか」

「こいつの中は重力制御とやらが働いている。ちょっとやそっとでは揺れはしねえ。これから何が起きるか分からないここよりは安全だし、御身への負担も少ないはずだ」

「分かった。手伝おう」

 エレナも手伝い、王妃をゆっくりと《グノムス》に乗せた。

「何とかここまでは上手く事が運んでくれたな」

「そなたの予測通りだったな」

「おだては要らねえよ。そっちも気づいてたから俺に情報提供してくれたんだろ?」

 マークルフには一つの疑問があった。

 “機神”の制御装置を持つエレナ=フィルディングを魔女たちが直接、拿捕しようとした動きがなかった事だ。

 魔力のある場所や物ならおよそ自由に干渉できるはずの魔女たちなら、エレナを狙うことも容易のはずなのだ。

 最初は自分たちを支配できる“機神”の使役能力を警戒したためと考えていた。だが、エレナからの情報で他の理由を思い当たった。

 魔女たちはエレナの居場所を探れないのだ。

 エレナ=フィルディングの持つ“機神”の制御装置は特殊の物だ。

 命令の権限は一番低いが他の制御装置を管理する役割を持ち、その機能を凍結する能力を持つ。そのために他の制御装置の使用を探知し、逆にこちらから干渉しない限りは相手からは自分の存在を感知されない特性を持つという。

 エレナはある仮定をしていた。

 ヴェルギリウスは制御装置に類する能力を持っている。だから、奴の力を利用する魔女たちはエレナの存在を感知できずにいたのではないかと――

 マークルフたちはその仮定に賭け、《グノムス》にエレナを乗せると、自分たちは《グノムス》の地形操作によって地下に空間を作りながらここまで乗り込んで来たのだ。

 そして実際にヴェルギリウスも魔女たちも《グノムス》の中にいたエレナの存在に気づかず、マークルフの反撃を受けたのだ。

「しかし油断するな、狼犬。奴がこれで消えたとは限らない。一度は奴を抑え込んだが、いつの間にか復活していたからな」

「分かってる……それよりもリーナだ」

 マークルフは彼女がなかなか姿を見せないのが心配になり、足早に駆ける。

 エレナもそれを追った。

 二人が通路を抜けて機械に囲まれた部屋に入る。

 暗闇に包まれる中、中央の装置の前でリーナが膝から崩れ落ちていた。

「リーナ……」

 マークルフは声をかけようとして躊躇する。

 彼女の背中は震えていた。その悲痛な横顔に涙が流れている。

「ごめんなさい……兄様……せっかく会えたのに……ごめん……ごめんなさい」

 リーナが嗚咽の中で兄に謝り続ける。

 その声と姿はマークルフが初めて会った頃、まだ世間知らずの王女だった時の面影に重なる。

 マークルフは何も言わずに彼女を後ろから抱き起こす。

 リーナがマークルフの胸に顔を埋めた。

 マークルフは何も言えず、ただその頭に手を添えて慰めるしかできない。

 予想以上に彼女が動揺しているのはその身体の震えから伝わってきた。

「……すまん」

 相手が幻影であったとしても、何も分からない時代に一人逃げ延びた彼女にとって、ようやく再会できた家族だった。それさえも切り捨てなければならなかったのだ。

 おそらく、彼女自身もこの辛さを予想しきれていなかったのだろう。

 マークルフは腕の中で感じる彼女の存在を強く抱き寄せていた。

(俺もこれから、リーナを――)

「どうした? 気をしっかり持て」

 エレナの静かな声がリーナを――そして、マークルフを現実に引き戻す。

「気持ちは分からないでもないが、今は感傷に泣いている余裕はない」

「す、すみません、エレナさん……」

 リーナが袖で涙を拭い、マークルフから離れた。

 マークルフも自分に活を入れなおす。

 今のエレナの言葉はリーナだけではなく、自分に向けての言葉だったのだろう。

「“狼犬”よ、これからどうする?」

「俺たちは“機神”の所に向かう」

 マークルフは歩き出した。そして、その手をリーナに差し出す。

 彼女もうなずき、彼を追いかけながらその手を握る。

 マークルフの全身に魔力の紋章が浮かび上がり、それに呼応してリーナの姿が光に変わる。

 通路を進むマークルフの姿が光に包まれ、先ほど居た部屋に出る頃には黄金の装甲に身を包んでいた。

 エレナも黙ってその後に従う。

 “鎧”を纏ったマークルフは魔物を突き刺していた《戦乙女の槍》を引き抜く。

 胸を貫かれていた獣人が床に倒れた。計器による生体反応・魔力反応もゼロだった。

「ここまで案内してもらったのに、すまねえことをしたな」

 マークルフは待機していた《グノムス》を見る。

「グーの字、ここを脱出する。入って来た場所まで戻って俺たちを地上に上げてくれ」



 地上の荒野に跳躍した魔女トウを挟み込むように二人の天使が立つ。

 目の前に狼頭の天使ファウアン、背後に少女天使クーラだ。

「……二対一に持ち込まれたって訳ね」

 トウが剣を構える。黒の刀身が魔力を帯びた。

 ファウアンの右手が輝く。

 トウが警戒して身構えるが、その足許に光の円陣が広がる。

 クーラの踏み出した足を中心に光の円陣が周囲の地面に浮かび上がっていた。

「ここまで、です」

 クーラが広げた“翼”から光の羽根を抜くと、それが光輪に変わった。

「イヤね。人の運命を勝手に決めないで欲しい――わね!」

 そう叫ぶとトウがクーラに向かって剣を投げつけた。

 クーラが身体を躱して避けるが、その隙を狙ってトウが間合いを詰める。その左手にはいつの間に抜いたのか黒の短剣を握っていた。

 天使の注意が魔女に向くと同時に躱された剣が空中で静止し、背後から天使を薙ぎ払う。

 しかし、背を向けていた少女天使も咄嗟に屈み、黒の刃は頭上で空を切った。

(あれを避けた――!?)

 逆に不意を突かれたトウに天使が光輪を投げつける。

 トウも魔力を宿した短剣を投げつけた。

 輝力と魔力の反発で光輪の軌道が逸れ、トウへの狙いは辛うじて外す。

 互いに不意打ちを凌いだ状態で魔女と天使が肉迫する。

「なめるな!」

 トウの伸ばした手に黒剣が飛び込む。そのまま鋭い斬撃を繰り出すが、天使は落ち着いた表情を崩さず、わずかに身体を傾けた最小限の動きでそれを躱した。

 相手が剣術に疎いと見ていたトウは紙一重で攻撃を躱されたことに驚く。

 警戒して間合いを離そうとしたが、その背後を狼頭天使が右手を掲げて待ち受けていた。

「チッ!」

 魔女は剣を振って牽制すると大きく跳躍し、天使たちから離れた場所に着地する。

(あの小娘の天使、こっちの動きを完全に読んでいる)

 トウは足許を見る。周囲の地面には光陣が広がったままだ。

 研ぎ澄まされた剣士としての感覚があらゆる方向から向けられる“視線”に気づく。

(……そうだったわ。この光陣全体があいつの“目”のはず。光陣の範囲内の動きは全て手に取るように分かるってわけか)

 トウは自分の背後に回った狼頭天使の気配も追う。

(なるほど、そっちはわたしを光陣から出さないのが役目か)

 トウは足許の地面に向けて剣を振るう。

 地面が削られるが、その抉れた跡を無視して光陣は展開する。

(地面を削ったぐらいじゃ妨害はできないか――さすがにこれは厄介ね)

 少女天使の前に新たな光輪が現れる。

「見逃しません。そして、逃がしません」

「……面白いわね。全てを見透かす占い天使のお嬢さんってところかしら? でもね、わたしは占いなんて半分しか信じないたちなのよね」

 魔女トウは殺気に満ちた微笑を向けて剣を構えた。



 別の場所でも魔女と天使の戦いは始まっていた。

 魔女ミューが周囲を警戒する。

 背後には切り立った崖がそびえ、周囲は林になっていた。

 “機神”と“狼犬”の戦いによって周辺は荒野と化したが、ここは崖が盾となって樹木が残っていたらしい。

(そう、どうやら誘導されてしまったようね)

 ミューは操り人形である機械たちを召喚する。

 目の前に細身の鉄巨人が着地し、崖の向こうから機械の翼竜が飛来した。

 警戒するミューの眼前で何かが輝く。

 それは光糸だ。

 光糸が周囲の木に絡まりながら伸び続け、彼女を包囲するように張り巡らされる。

 気づけば周囲の木々に複雑に絡まるように光の網が形成されていた。

 ミューの操る鉄巨人が目の前の糸を払おうとするが細い光糸は切れず、絡まった木の方が葉をざわめかせながら揺れるだけだ。

「これで私たちの動きを制限しようってことかしら? 面倒だわ!」

 鉄巨人が近くにある光糸の絡まった木をへし折った。

 しかし、悪い予感がしたミューは咄嗟に鉄巨人を下がらせる。

 折れた木に絡まっていた光糸が解放され、生き物のようにうねりながら鉄巨人の目の前で空を切る。

 さらに背後で枝が折れた音がした。

 振り向くと、木々の向こうで枝をへし折る森人天使の姿が見えた。

 ミューの近くに張っていた光糸が意思を持つように彼女を襲うが、ミューも間一髪で避ける。

(罠!?)

 ミューは木の陰に隠れる森人の姿を目で追う。だが、相手は木々の向こうに溶け込むように隠れてしまった。

「さすがは森の種族ね! こういうのがお得意ってわ――!?」

 ミューの隙を狙ったように剣の刃が迫っていた。

 光の網をすり抜けた輝く剣が魔女の顔を貫こうとする。

 だが、その刃は魔女の眼前で止まる。

 刃を止めたのは金属の尾だった。

 弾かれた剣は引き寄せられるように光の網をすり抜け、木々の奥へ消える。

『もう一匹飼っていたか』

 男の声が念話となって届く。

 ミューの肩に小型の機械獣が乗っていた。

 イタチに似た尾の長い姿をしており、その鋼の尾が身を守るように彼女の身体を囲んでいた。

「だまし討ちが“監視者”のお得意技ってわけね。でも、そういうのはうちの姉様で慣れているわ。惜しかったわね」

 ミューは挑発的な態度を見せつつ、周囲を警戒する。

 周囲は森人天使による光の網が張られたままだ。

 この周囲に張り巡らされた光糸は単純に木々を利用したあやとりではなく、木や枝を折ると引っ掛かっていた光糸が解放されて投げ縄のように動くのだ。先程も避けなければ鉄巨人も自分自身も拘束されていただろう。

 そして森人天使はどの枝を折ればどう光糸を解き放てるかを完全に把握しているようだ。

 つまり、向こうにしてみればどこからでも罠を仕掛けられるのだ。

 さらに厄介なことに、もう一人の天使“監視者”もここに来ている。

 天使の中でも大物らしいが情報は少なく、それだけに油断できない相手だ。

(判明しているのは輝力を纏って姿を消す光学迷彩能力。目で隠れていても輝力自体を探知してしまえば恐ろしい能力ではないけど――)

 周囲に張られた光糸の網がミューの周囲を輝力の気配で埋めており、“監視者”自身の輝力が隠されてしまっている。

 そして相手の剣は光糸に邪魔されずにすり抜けてミューを狙えるのだ。

(二人がかりで本気で潰すつもりね……面倒だわ)

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