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サンクチュアリ・ファンタジア3―光の祈りと闇の呪いと機械仕掛けの災厄と神に選ばれた傭兵―  作者: みなかけん
第四章 『もう貴方の戦乙女にはならない』
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“大地特異点”(2)

「もう一つ、“聖域”については長い間、謎とされていた事があったのです」

 エルマが近くに座るリーナを見てから説明を続けた。

「古代エンシアの崩壊後、暴走する“機神”を止めたのは“神”とされています。その年代に遺される破壊の痕跡からもそう推定されています。しかし、これにも説明できない部分がありました」

「それは何だ?」

 マークルフが尋ねる。

「“機神”と“神”は“闇”と“光”、それぞれ対極の力を司る特異点的存在です。背反する特異点存在が衝突すれば、凄まじい規模の力の暴発が予想されていました。それこそ、“聖域”全土を瞬時に消し飛ばしてもおかしくないほどの規模です。ですが、実際の遺跡の現状を見る限り、確かに当時は凄まじい破壊が生じたのは間違いありませんが、それでも特異点同士の衝突としては微風にも等しいのです」

「“聖域”全体に及ぼした破壊でも微風程度か……想像がつかんな」

「“神”と“機神”の戦いは無かったという説もありましたが、それでは逆に現存する破壊の痕跡が説明できません。だから謎とされていたのです」

 マークルフは机の端に座っていた老妖精ダロムの方に向く。

「妖精のじっちゃんは知らないのか? エンシアがあった時代には生きていたんだろ?」

「“機神”の暴走で地上は大変だったからの。仲間たちを助けて地下に避難していたんでエンシアの最期は見ておらんでのう」

 エルマは指を立てる。

「“聖域”の働きについて知ったうちは二つの謎を結びつける仮説を立てました。“神”と“機神”の衝突による“光”と“闇”の暴走は霊力に還元され、封じられた。“特異点”同士の衝突から生じた膨大な力もまた“特異点”という形で封じられるだろう。そして、それは“聖域”の空間と繋がり、“大地特異点”の霊力を“聖域”の霊力レベルを維持するために利用しているのではないかと──」

「二つの謎を解決する一つの仮説という訳か」

「ええ。あくまで説明のための仮説でしたけど、天使や魔女たちが“要”を探していると聞いてから核心は突いていると思ってました。古代エンシアの時代から存在するだろう天使や魔女なら“神”と“”機神 の衝突とその結末を知っていてもおかしくないですから──」

 “神”と“機神”の衝突で生まれた膨大な力は“大地特異点”として封印された。そしてそれはただ封印されただけではなく、“聖域”を満たす霊力の源として利用されていた。

 その仕組みを知っていた天使や魔女がそれを“要”と呼ぶのも理解できた。

「確かに納得できる説明だな。しかし、賭けをしていたって事は別の考えもあったのか?」

「オレフは少し違う形の仮説を立てていました。霊力の特異点は理論上、この世界なら分割が可能です。あいつは“大地特異点”という一つの特異点ではなく、“聖域”全体に“原初の特異点”という形で分散し、そこから還元される霊力が“聖域”を維持させていると考えていました。力の在り方としては一つに集めるよりも分散させた方が安定するからと──」

「だが、エルマの仮説の方が正しかったって事か」

「ええ。どちらが正しいか賭けをしてましたが、あいつが賭けていた筆記道具を譲るって事はうちの計算が正しかったと認めた訳です」

 マークルフは机に両手をつく。

「なるほどな……つまり現在も“聖域”内にその“大地特異点”が存在する。そして使い方は分からんが天使や魔女たちが欲しがっている訳だ」

 そしてしばらく何かを考えていたが、やがてエルマに尋ねる。

「そいつを見つけ出す事はできるか? 俺たちの手でどうこうできるものか?」

「オレフがうちにだけ分かる暗号で座標位置を遺してくれています。後はそこに赴いて調査をすれば突き止められるかも知れません。それをどうこうできるかは実際に見つけてからでないと何とも──」


『ヴァアアアアーーッ!!』


 突如、凄まじい咆哮が皆の耳に轟く。

「リーナ!」

 マークルフは壁に掛けていた《戦乙女の槍》を手に執るとリーナも立ち上がる。

 この脳裏に直接、響くような咆哮は間違いなくあの異形の叫びであった。

「また現れたというのか!?」

 城の警鐘が鳴った。

 ログも陣頭指揮のために急いで退室し、マークルフは窓から外の様子を睨むのだった。



 それから、しばらくの間、警戒が続いたがユールヴィング領内での異形の出現は認められなかった。

 やがて城の警報を解除したが、人々の心にはいつ現れるかも知れない恐怖と不安だけが刻みこまれる結果となった。

「……おそらく、どこか別の場所で異形が出現したのかも知れません。あの咆哮は“聖域”内にいる全ての人間の心に響くようですから──」

 ログの報告をマークルフは苦い顔をしながら聞いていた。

「どこに出現するかは分からない。しかし、出現したのだけは全ての人間に知らしめるって訳か……とことん反吐が出るやり方だな」

 異形化したアレッソス=バッソスを消滅させたが、先日には新たな異形が出現した。それも天使の手によって覚醒直前に始末されたはずだが、それを無駄だと言わんばかりに再びどこかに新たな異形が出現したのだ。

 アレッソス=バッソス一人を消滅させるのですら手こずらされたのに倒しても新手が出現するということなのか。

 領内に現れた異形化直前の男も遺体を回収して身元も調べた限り、平凡な領民の一人に過ぎなかった。

 いつ、どこで、誰が異形化して周囲に被害を及ぼすか分からない状態だ。

 そして異形が一体だけとも限らない。

 なにより危惧するのが、この話が広まれば間違いなく人々は恐慌に陥るだろう。

「時間はない……あるいは与えないって訳か」

 マークルフの呟きに傍らに控えていたリーナが悲痛な表情を浮かべる。

「エルマ、すぐに“要”探索の準備をしてくれ。俺も出る」

 やがてマークルフは静かに命じた。



 話が終わり、マリエルは部屋を出たエルマを追う。

「姉さん」

「聞いての通りよ。あんたはここに残って《アルゴ=アバス・アダマス》の完成をお願いね。それが終わる頃にはうちも“要”を見つけて来るわ」

 この先の運命を左右する重大な探索だが、姉はそれを微塵も感じさせないあっけらかんとした調子で答える。

「姉さん、“要”の正体に薄々気づいていたのなら、どうしてうちらに教えてくれなかったの? とても重要な話よ」

 マリエルは姉の横を並んで歩きながら訊ねる。

 エルマは少し困ったように苦笑いする。

「ごめんなさいねえ。実は前からリファちゃんに何かあるかも知れないって思ってはいたのよ。ただ、天使も魔女も狙ってるみたいだったしさ。下手に知ってしまうと後戻りできないってあるじゃない? あいつらが記憶を読み取る能力とかあったらさ、口が固くてもバレちゃう可能性もあったからね」

 エルマは立ち止まる。

「“要”探索には《グノムス》と妖精さんたちも連れて行くわ。あの子たちの能力が必要になりそうだから。うちと妖精さんはいないけど改修の大部分は終わっているから後はそっちでやれるでしょう?」

「……そうね。改修で新技術が必要な部分は姉さんとダロムさんでやってくれている。後はうちらで完成はできるわ」

「頼もしい返事で助かるわ。これで心置きなく“要”探索に出向ける」

「姉さん」

 マリエルが姉の前に先回りして立ちはだかる。

「分かっていないと思ってるの? ダロムさんからもたらされた古代文明の遺失知識を姉さんが自分一人で独占している理由を──」

「やだ、もう、独占なんて人聞きが悪いわね。改修設計をしたのはうちだから、それに必要な技術をダロムさんから教わるのはうちが適任と思っただけよ。いずれは吟味してマリエルたちにもさ──」

「それで納得すると思ってるの?」

 マリエルが睨め付けるように目を細めるが、エルマはそれをいなすように歩き出す。

「それこそ、あれよ──」



『知り過ぎるとね、後戻りできないこともあるのよ』 



 マリエルは姉の言葉を思い出しながら、書類の上に置いてある青金石の文鎮に目を向ける。

 それはかつて故郷の学院時代にオレフが使っていた道具だ。姉が気に入っていたらしく、どちらの“大地特異点”についての仮説が正しいかの賭けにしていたらしい。しかし姉は『間違ってたら返せばいい』とちゃっかりせしめていたそうだ。

(……何でもかんでも押し付けるな、バカ)

 姉は旅立つ前、文鎮を始めとする道具をマリエルに渡していた。賭けのカタとして持っていたらしいが勝負がついて不要になったので有効利用しろと押し付けられたものだ。

 あの大ざっぱな姉が大事に手許に残していたのも意外だったが、だからこそ、それだけの物をあっさりと手放したのも意外だった。

 マリエルは文鎮を手にする。

 オレフは“機神”の破壊方法を突き止めるために自らを犠牲にして散った。

 そして姉は“機神”破壊のために自ら後戻りできない道に心血を注いでいる。

 自分はあの二人のようになれるのだろうか。

 必要と判断すれば自身の名声、才能、命ですら不要と判断できるあの二人のように──

「どうかしたの、マリエルさん?」

 隣に座っていたリファが訝しむ。

「ああ、いえ。二人とも、そろそろ作業を再開するわよ」

 アードとウンロクの二人も作業に戻る。

 この二人がずっと姉に従うのも姉のそういう強さに惹かれたからなのだ。

「ねえ、男爵さんたちが留守の間に天使や魔女たちが来たらどうするの?」

 リファが尋ねる。

 男爵たちが留守のため、鎧を着用したり守る者がいない。実際、天使たちは一度、古代文明の遺品であるこの鎧を狙って来ている。気になるのだろう。

 マリエルは文鎮を置いた。

「天使も魔女もしばらくは手を出さないわ。あの異形も“機神”と関連するなら魔女の側と考えていいでしょう。両方とも姉さんたちが“要”を見つけ出すのを待っているはずよ。発見できるのは姉さんだけだしね。それにこっちもいざとなったら“鎧”を逃がす手段は用意しているわ」

「だったらいいけどさ。でも、男爵さんは何で“要”を探しに行ったの? 必要なのは天使や魔女だけで男爵さんが何かに使うわけでもないのに──」

「……きっと何か考えがあるのでしょう。それは男爵に任せてうちらは“鎧”を完成されるだけ。それが今、やるべき事よ」

 マリエルはリファを納得するように述べる。

 本当は彼女も男爵の目的は分かっていたが、それを心配している少女に告げることはできなかった。

   

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