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サンクチュアリ・ファンタジア3―光の祈りと闇の呪いと機械仕掛けの災厄と神に選ばれた傭兵―  作者: みなかけん
第四章 『もう貴方の戦乙女にはならない』
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狼犬の牙は誰がために(2)

 ログは調整室を出た。

 エルマが戻ってから二日。

 再調整の為の修正作業が科学者たちの手で日夜行われているが、マークルフの容体は未だに先行き不透明だ。エルマの報告では成功の確率は五割に届かないぐらいという。

 それだけ今までの戦いが激しかったのだ。

「副長さん」

 通路の先にリファがいた。壁に背を預けており、ずっと待っていたようだ。

「男爵さんの具合は?」

 リファが尋ねる。その表情は男爵の身を案じるように曇っていた。

「……エルマたちが良くやってくれています。ですが、お目覚めまでにはまだ少し時間がかかるでしょう」

 リファが壁にもたれる。

「男爵さんのバカ……お願い、早く目を覚まして。お姉ちゃんを一人にしないで……」

 リファの願いは多くの者たちの願いでもあるだろう。

 だが、男爵が目覚めるかどうかは胸の“心臓”に委ねられている。装着員としてまだ使えるかどうかの非情な判断にかかっているのだ。

 その二人の前に侍女タニアが慌てたようにやって来る。

「あの、姫様の姿を見かけませんでしたか?」

「どうかしたのか?」

「姫様がお部屋にいなくて。城内は探したんですけど姿がなくて」

 タニアが慌てたように報告する。

「まさか、男爵のことを気にやんで──!?」

「副長さん!?」

 タニアとリファがうろたえるが、ログは冷静にその話を聞く。

「グノムスは見たか?」

「いえ、グノムスも見ていません。呼んでみたんですけど出てこなかったです」

 ログは視線を外の方に向ける。

「……異変があればグノムスが伝えてくれているはずだ。おそらく外出されたのだろう」

「こんな時間なのに、誰にも言わずにですか?」

「姫も心労が重なってお疲れだ。そっとしておこう。それに閣下を置いて遠くには行かれまい。きっと行き先はあそこだ」



 夜の“戦乙女の狼犬”亭──

 女将は店を閉めた後の後片づけをしていた。

 普段ならもう少し開けているのだが、いまは男爵が臥せっているためか客足が引くのも早かった。

 勝手口の戸をコンコンと誰かが叩いた。

「何かご用ですか?」

 女将は食器を磨く手を休めて戸の前に立つ。

「──夜分にすみません」

 その声の主に気づいた女将が固定していた板を外して戸を開ける。

 そこにはリーナが立っていた。

「姫様!? まあ、こんな時間にお一人でですか?」

 女将が尋ねるが、少女の思い詰めた表情を見ると何も言わずに中へと案内する。

「あッ!? おねえちゃんだ!」

 奥からフィーも出てきた。

「リーナおねえちゃん、男しゃくはげんき?」

 フィーが無邪気に尋ねてくる。

「ええ……今は静養されてるけど、少しずつ元気になってるわ。元気になったらまたここに来るって」

「ほんと! ねえ、こんどお城にあそびにいっていい!? ばあちゃん、あれ着て男しゃくにみせたい!」

「これ、ご迷惑をおかけしちゃダメよ。それにあれはまだ入らないわよ。元気になったら若様は来てくれるんだから、それまで待ちなさい? 待つのも看板娘の仕事よ」

 女将はそう言って孫娘の背を押して奥へと連れて行く。

「さあ、フィーはもうお休みの時間よ。後で本を読んであげるから待ってなさい」

 そう言って女将は奥に孫娘を連れて行くとやがて戻って来た。

「すみませんでした、姫様」

「いえ……フィーちゃん、マークルフ様に何を見せたかったのですか?」

「ああ、以前に若様から頂いた姫様のお古のドレスですわ。あんな良い物を頂いて姫様にもお礼を言わなきゃと思っていたところですわ」

「あれですか。いえ、喜んでくれてるみたいですね」

「ええ、それはもう大喜びで。フィーはあれを着て若様と踊るつもりでしてね。でも、あれが着れるようになるまでには後十年はかかりそうですけどね」

 その言葉にリーナの表情が動揺に変わる。今にも泣き崩れそうになっていた。

 女将も驚くが、すぐに落ち着きを取り戻すとリーナに席を促す。

「たいしたおもてなしはできませんが、さあ、どうぞ」



「どうぞ」

 客席のテーブルに座るリーナの前に温かいお茶が出される。

「どうかされたのですか、姫様?」

 リーナは唇を震わせてまま顔を伏せる。

 その様子を見た女将が何かを察したようにリーナの隣に椅子を置いて座った。

「……若様はもう、大きくなったあの子と踊れないのかも知れないのですね」

 リーナは驚いて顔を上げる。

「やはり、そうなのですね。ルーヴェンも昔、ここで悲しんでいたことがありましてね。自分の中の“心臓”は若様が成長されるまで待ってはくれそうにないと……運命は巡るってことでしょうか」

 女将が遠くを見つめるような目をしていた。

 女将は若い頃からの付き合いである先代を見送り、幼少の頃からマークルフの世話もしてきた二代に渡る“狼犬”の人生を見続ける人物だ。きっと自分には及ばない感慨と悲しみを秘めているはずなのに、それでも女将はただ静かに微笑むだけだ。

 その強さを見て、リーナは少しだけ自分の動揺が落ち着くのを感じた。

「姫様。私でよければお話の相手になりますわ」

 リーナがこの酒場に来た目的を分かっているかのように女将が言う。

「……知りたいのです。マークルフ様は何故、戦われようとされるのですか?」

 リーナは尋ねた。

「私には分からなくなりました。未来を捨てて……私に嘘を突き続けてまで……そこまで自分の命を削ってまで、あの人を戦わせ続けるのは何なのかを……」

 リーナは一つ、一つ、疑問を確かめるように口にする。

「確かに“機神”やフィルディング一族との対決は先代様から受け継いだ大事な使命だと思います……ですが、ご自分を犠牲にしてまで……確かに命の危険は何度もありました。ですが、それは乗り越えられるものと思ってました……でも、命を削るのはどうにもなりません。そんな運命を受け入れてまで戦わなければならなかったことなのでしょうか」

 リーナは感極まる自分の顔を両手で隠す。

「辛いんです……街の皆さんがマークルフ様の身を案じて見舞いに訪れてくれたり、フィーちゃんが無邪気に未来を楽しみにする姿が……辛いんです!」

 リーナの背中にそっと女将の手が添えられた。

「若様と同じ光景をご覧になったのですね」

 女将が答えた。

「ルーヴェンが倒れて、もう起き上がるのも難しいとなってからも領民たちが心配してよく見舞いに来てましたよ。ルーヴェンにずっと付き添っていた若様もその光景を目の当たりにしていました」

 女将が昔を懐かしむように目を閉じる。

「若様も辛かったのですよ。誰よりも尊敬していた祖父が衰弱して動けなくなっていく姿を見るのも、それを見舞って励まそうとする領民たちの姿も、それを前に何もできないでいる自分自身も……まだ十二歳でしたから、それは仕方なかったのですけれどね」

 女将に慰められ、リーナは顔から手を離す。

「だから……マークルフ様は先代様の跡を継いで“戦乙女の狼犬”になろうとされたのですね」

「必要に迫られてでしたけどね。あの時はフィルディング一族がルーヴェンの遺した強化鎧を狙っていたのを必死に守ろうとされたのですよ……苦肉の選択をしてしまいましたが、それが若様を“狼犬”の道へと進ませたのです」

 女将が昔を懐かしむように答える。

「ですが、若様といえどもそれは難しい道でした。とても苦労されてましたよ。何しろ、ルーヴェンの名が大き過ぎましたからね。失敗も多かったんですよ」

「マークルフ様が……」

「でもね、周囲の皆はそれを見て見ない振りをしておりましたわ」

 その意味がうまく理解できずにいるリーナに女将は続ける。

「私も含めて皆、若様があの人の跡を本当の意味で継いでくれただけで十分に嬉しかったですからね。それに比べればちょっとやそっとの失敗なんてなんです。見なければ済む話じゃないですか」

 リーナは戸惑う。

 マークルフに従う傭兵や領民たちは彼を先代の素質を受け継ぐ後継者と見ていたのではないのか。そして、その才覚と信念が彼らを惹きつけていたのではないかと──

「誰かが誰かの代わりをするなんて難しいものでしてね。英雄と呼ばれたルーヴェンの代わりなら尚更です。ルーヴェンの時代から仕えていた者は皆、それを承知していましたわ……ですからね、若様が挫けたり諦めたとしても誰もそれを止めたり責めたりするつもりはありませんでしたよ。そして、若様がルーヴェンの代わりを演じようとされる限りは皆、力を貸そうと思っていましたわ」

 リーナは旧フィルディング領を旅していた時に力を貸してくれた、あの白髭の行商を思い出す。

 あの人も言っていた。マークルフが“狼犬”の看板を守るうちは自分たちも協力すると──

「きっと当時のことはログ副長の方が詳しくご存じだと思いますよ。自分は“狼犬”が居てこその“懐刀”──だから“懐刀”を演じて若様を“狼犬”として演じさせる。先代のやり遺した道を進むために若様としばらくは二人三脚を続けるとおっしゃってましたわ」

 女将はあくまで世間話のように続ける。

「若様は常々こうおっしゃっていたのではありませんか? 自分は“戦乙女の狼犬”を演じているだけだと──」

 女将の言う通り、彼は常にそのような事を口にしていた。

 自分は先代である祖父が遣り残した使命を代わりに果たすために、この英雄の後継者を演じているのだと──

「芝居は誰かそれを求める観客がいてこそ出来るんです。二代目“戦乙女の狼犬”はマークルフ=ユールヴィングではなくて、先代の真似事をする若様とそれに付き合う多くの人々ででっち上げ続ける傭兵芝居の名なんですよ」

 リーナはどう返答すれば良いのか分からない。だが、女将の言う事も何となく分かる気がした。

「ですが、その芝居のためにマークルフ様は自分の命を──」

「若様は“狼犬”の名を背負っていますが、でも同時にその背中を押しても貰っているのですよ。演じているというのはですね、ルーヴェンに対して謙遜で言っているのではないのですよ」

「でも──」

 女将はリーナの手に自分の手を重ねる。

「姫様は戦乙女だから、若様が勇士に相応しい英雄だと思って助けてくれているのですか?」

 その問いにリーナは答えを返すことができない。

 自分はリーナという一人の娘として彼を選んだつもりだったからだ。

「若様もそうですよ。今の道を選んだのはただルーヴェンの孫だったからではないのですよ」



 あれからリーナはすぐに“狼犬”亭を去り、《グノムス》に乗って地中を城へ向かって進んでいた。いつまた“聖域”変動があるか分からず、長く城を離れるわけにはいかなかった。

 リーナは鉄機兵の中で女将の言葉を反芻する。

(わたしがマークルフ様を助けるのは……)

 整理しきれない様々な思いがよぎる。

 この時代で目覚めて何も分からない自分を保護してくれたから──

 彼を勇士に選んだ戦乙女としての使命からか──

 それとも彼が好きだから──

 理由は次々に浮かぶが結論は常に一つしかない。

(わたしはあの人を助けたい。だから傍にいたい)

 だが、いまはそれが分からない。

(あの人の何を助けたいの、わたしは──)

 地中を潜行していた《グノムス》が止まった。

「どうしたの、グーちゃん?」

 天井のモニターが点き、同時に地上から音声が流れる。

『や、やめてくれ!』

『黙れ! これ以上、とやかく言うならこの槍で串刺しにするぞ!』

 緊迫した男と老人の声にリーナは慌ててモニターを通して地上を見る。

 とある民家の前で骨のように細い老人が椅子に座っていた。その手には槍を構えており、その先を老人の前に立つ男に向けていた。

 リーナは慌てて《グノムス》に命じようとしたが、その前に民家の扉から一人の女性が出てきて二人の間に割って入る。

『あなた! おじいちゃん! 喧嘩はやめてください!』

 老人は槍を引っ込め、肩に担ぐ。だが枯れ枝のような老人の身体はむしろ槍に振り回されているかのようだ。それでも老人は鋭い目で外を見張るように椅子の上に居座る。

『おじいちゃんも無理しないでくださいな。せっかく腰痛が少し良くなったのに──』

『やかましい! 坊ちゃんの一大事に腰痛なんぞに構っておれるか!』

 老人は夫婦らしい男女を一喝する。

『ワシは先に逝ってしまった隊長に代わって坊ちゃんを守らねばならんのじゃ!』

『城では副長様や傭兵たちが男爵様をお守りしてるんだ。親父の出る幕なんてどこにもありゃしないって』

『だったらおまえたちだけ先に寝ておれ!』

 老人は断固居座るように槍を抱える。

『はあ……ボケが入ってますます頑固になったもんだぜ。何でそこまで親父がやろうとするんだよ?』

 疑問に思う息子夫婦に槍を胸に抱えたままの老人が答える。

『前に教えたじゃろうが。ワシは若い頃はいつ野垂れ死んでもおかしくない、放蕩無頼のろくでなしじゃった。きっとまともな死に方はできんと思っておったし、隊長に助けられなければその通りになっておったじゃろう』

 老人は夜空に浮かぶ月を見上げながら言った。

『隊長はワシのような者にまでその力が必要だから助けて欲しいと言ってくれての。傭兵仲間としてくれたんじゃ……こうして、この領地で家族まで残して余生を過ごせたのは全てあの人のおかげなんじゃよ」

 老人は枯れ枝のような腕で槍を掴む。

『その隊長の跡を継いでくれた坊ちゃんをみすみす死なせたら、ワシはあの世で隊長に会わせる顔がなくなるんじゃ! じゃから、せめて若様を狙う敵が現れたら、ワシはそいつと刺し違えてこの命を“狼犬”に返すんじゃ!』

『わ、分かったから親父、とりあえず家に戻ろうぜ。こんな夜に外にいたら敵と戦う前に風邪ひいて死ぬぞ』

 戸惑う息子夫婦の間から孫娘らしい子供が現れて老人の前に立った。

『じいちゃん! じいちゃんが死んだらあたしが代わりに若さま守ってあげるよ!』

『こら! 何て事を言うの!』

 母親はたしなめるが、老人は嬉しそうに顔を綻ばせて孫娘の頭を撫でる。

『よう言うた! ワシが死んだらおまえが坊ちゃんを応援してやってくれ。坊っちゃんは隊長が目指していた世界を自分の目で見ようと頑張ってくれておる。ワシが倒れたら代わりにその世界がどんなものか見てくれ』

 地下から会話を聞いていたリーナは何かに打たれかのように目を見開く。

『もう、二人とも。近所迷惑だから早く家に入って!』

 リーナはモニターから目を離した。

「……グーちゃん、もういいよ」

 地中にいた《グノムス》が再び進み出す。

(マークルフ様が見たいと思っている世界──)

 きっとあの老人が言っていた『隊長』とは先代ルーヴェン=ユールヴィングの事なのだろう。

 リーナはあの老人と孫娘の姿に、見たことのないルーヴェン=ユールヴィングとマークルフが一緒にいる姿を重ねていた。

「……グーちゃん、わたしは恥ずかしいよ」

 リーナは自問するように呟く。

「わたしが一番傍にいたからマークルフ様のことを分かっていると思ってた……全然、違った。わたしが一番分かっていなかった」

 かつてリーナは彼の瞳の奥に“狼犬”の姿を見た。

 それは偉大すぎる英雄の後継者としての使命や矜持だと思っていた。

 きっとそれもあるだろう。しかし、その本当の姿はリーナが考えていたものと違った。

 重圧ではない。

 切実な願いなのだ。

 初代“狼犬”ルーヴェン=ユールヴィングを支持した人々は英雄が目指した世界を見たかったのだろう。

 そして、その人々の中にマークルフもいたのだ。いや、誰よりも先代の傍にいたからこそ、先代が目指したものをずっと見てきたはずなのだ。

 リーナがいくら思い悩んでも答えはでなかったのは、彼が戦う理由がとても簡単な理由だったからだ。

 誰よりも──他の誰よりも祖父の目指した世界を見たかっただけなのだ。


『俺を見ていれば分かるだろ? たった一人の祖父様の代わりすら、ままならないんだぜ』


 ルカの隠れ里での言葉が脳裏をよぎる。

「本当にバカだね。マークルフ様は誰の代わりでもないってちゃんと言ってたのに……」

 リーナは目尻の涙をぬぐった。

「……わたし達は五百年、地中で眠りながらずっと待っていた。“機神”が消え、その運命に翻弄されることのない世界を──でも、それはまだ実現していない」

 リーナは《グノムス》に向かって語りかける。

「先代様もきっとその世界を見たかったのだと思う……マークルフ様も見たいんだろうね。尊敬していた先代様が多くの犠牲を払ってもまだ届かないその世界を──」

 リーナは内部の隔壁に身を委ねる。

「いま少しだけ分かった気がする……何十年、何百年かけても届かない未来を実現するために、自分の未来を捨ててでもそれに届きたいとする気持ちが──」

 かつて祖国の崩壊から逃げる時を思い出す。

「お父様はわたしが新たな世界を見つけることできれば、それが滅ぼされたエンシアの人々のせめてもの生きた証になると言った……きっとそれはマークルフ様が目指している世界なんだよ。だから、わたしはあの人を選んで、一緒に行きたいと思ったんだ」



 館の敷地内に《グノムス》は浮上した。

 そこから降りたリーナは一人、館へと戻ろうとする。

「お待ちしてました」

 館の入り口の前にログが立っていた。

「ログ副長、私の帰りを待っていらっしゃったのですか?」

「もうじきお戻りになると思っておりました」

 きっと彼はリーナが“狼犬”亭の女将に会いに行くと分かっていたのだろう。

 リーナは頭を下げる。

「申し訳ありません。勝手な行動をしてしまいました」

「いえ。誰よりもお辛いのは姫様の方ですから。皆も待っているようです。夜風で冷えないうちに入りましょう」

 ログが背を向けて玄関へ向かう。

「……あの時、副長はちゃんと私に答えを教えてくれていたのですね」

 リーナが声をかける。ログも振り向いた。

「何の話でしょうか?」

「マークルフ様はなぜ戦うのかを尋ねた時、副長はマークルフ様にしか答えることは許されないとおっしゃっていました……まさにその通りでした。誰のためでもない自分のための戦いだからこそだったのですね。私はその当たり前のことに気づくことができませんでした。恥ずかしい限りです」

 うつむくリーナにログは静かに語りかける。

「どうしてそう思われたかは分かりませんが、それは買い被りです。私はただ閣下の代わりに答えることはできないとお伝えしただけです……それに当たり前のことが一番気づきにくく、自分が望むものが何かは自分でもなかなか分からないものではないでしょうか? 気になさる必要はございません」

 ログはまた背を向けたが、リーナはその背に向かって告げる。

「副長! マークルフ様のことをお願いします! あの人との二人三脚を最後まで……お願いします」

 ログが足を止めた。やがて、振り向くと彼なりに穏やかな笑みを見せた。

「何をおっしゃいます? 閣下と肩を並べて走られるのは貴女様のお役目です。閣下は必ずエルマたちが起こします。待ちましょう。ですから、今はお休みください」

 ログが館の扉を開け、彼女に入るように促す。

 リーナは副長なりの優しさに感謝してお辞儀をすると、玄関へ続く石段を上がっていくのだった。

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