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黒き異形の呼び声(2)

「じいじ、まってよ!」

 大公バルネスの館。その屋上に登ってきた老妖精ダロムを同じく妖精の娘が追う。

「プリム、危ないからおまえは下で待ってなさい」

「じいじだって、あぶないよ……あっ、男しゃくさんだ!」

 プリムが指差す先の街の中心で、黄金の鎧と黒き異形が戦っていた。

「もしかして、さっきの気持ちわるい大声ってあの黒いのが言ってたの?」

 異形を初めて見たが、それが声の主だとダロムも確信していた。咆哮から感じた暗き情動と異形の印象が同じにしか思えなかったからだ。

「あれは……」

 ダロムは異形の姿を睨む。

「しってるの、じいじ?」

「……いや。それよりプリムや。巻き込まれないように地下に潜っておけ。ワシはもう少し様子を見てくるぞい」

「ええ、あぶないよぉ……あ、あねさんだ」

 プリムが下を指す。

 そこには大公の館から出て行くエルマの姿があった。



「へえ、あれが“鎧”ってやつか」

 人々が逃げ惑う中、ある屋根の上に二人の女が立っていた。

 魔女トウとミューだ。

「確かにあの方が警戒している理由も分かるわね。わたしもちょっと勝てないかもね」

 トウが城下の只中で行われる戦闘を眺めながら言う。

「姉様、そんな弱気じゃ困るわ」

「そう言われてもね。わたしも一応、剣士だしさ。どんな刃も通さない鎧相手じゃちょっとお手上げね」

 それを聞いてミューが嘆息する。

 その間にも彼女たちの見る先で家屋が崩壊した。

 現在、黄金の鎧武者と黒い異形が城下街の建物を巻き込みながら激しい戦闘を続けていた。

「……姉様、“神”は動くと思う?」

「もうとっくに動いているでしょう? 天使たちは動いているし、目の前に戦乙女の“鎧”を纏う勇士がいる。もう一人のあの剣士にも戦乙女の剣があったわ。自分の手駒に選んだ者たちを護らせようとしているのは明らかよ――でも、良いわ。黄金の剣を持つあの男とはもう一度、思いっきり戦ってみたいわ」

 嫌な記憶を思い出したようにミューが不機嫌な顔をする。

「それは姉様で勝手にして。わたしが言いたいのは“神”自身が直接、動くのかよ。かつてのエンシア崩壊時のようにね」

「さあ、どうかしらね。あの方――兄様も言ってたじゃない? “神”は自ら動かない。選んだ者たちの手で世界の危機を解決させるための最低限の干渉だけしかしてこないってさ」

「自ら手を汚さずに“神”の名を守るための綺麗事だわ。“機神”が復活したらそうも言っていられなくなるわ。その時に“神”はどうするかよ」

 妹の疑問を聞きながらトウの瞳が黄金と黒の戦いを映した。

「それは“神”が決めることよ。でもね、出てきたくないんじゃない? エンシアの時みたいに地上は壊滅、人々も殲滅なんてやりたくないでしょう……いいえ、今度はエンシアの比じゃないかもしれないしね」

 トウは苦笑する。

「でも、ちょっとだけ同情しなくもないわね」

「同情って、“神”に?」

「だってさ。自分の声や導きを無視して“力”としてしか見なかった人間の後始末のために殲滅を選択するしかなかったのよ。今も人間を見捨てないだけ感心じゃない?」



「――どうするかと思ったけど、出てきたわね」

 屋根の上で話す魔女二人。

 その姿をエルマは双眼鏡越しに眺めていた。

 彼女がいるのは周囲を見渡せるとある宿屋の最上階。そこから男爵の戦いを見るつもりだったエルマは幸運にも魔女たちを発見したのだ。遠くからでは何を話しているか分からないが、彼女らも男爵と異形の戦いを監視しているのは間違いない。

「妖精さんたち、ありがとう。よく見つけてくれたわ」

 エルマの両肩には魔女を発見したダロムとプリムが乗っかっていた。

「へへ、あちこち探してたらみつけちゃった」

「……グーの字探して勝手にうろついてたら偶然見つけだけじゃろう」

「それだけじゃないもん。ニャーちゃんみたいに逃げ遅れた子がいないかも探してたんだもん」

「ああ、分かった分かった。しかし、あいつら、魔力のある場所にしか出てこれないと思ってたぞい」

 ダロムが首を捻る。

 確かにここは“聖域”の力は健在で、魔力が必要な彼女たちが出てくるような場所ではないはずだが、ひとまずその疑問は引っ込めた。

(どうする? 銃で狙う……遠すぎて無理か。それに銃ぐらいで仕留められる相手でもなさそうだし――)

 エルマは双眼鏡を街中で続いている戦いに向けた。

 “鎧”を纏った男爵が戦っているのは、間違いなく“機神”の力を外部装甲に変換した人型形態の異形だった。

 エルマは足許に置いた計器を見るが、やはり異形からの反応は感じられない。

(魔力を内部に蓄えている……どこで、どうやって? 強化装甲の力に対抗できるとすれば相当の魔力をどこからか供給しているはず)

 男爵が異形の左腕を切断し、ツタの拘束から逃れた。異形は左腕を回収しながら跳び上がるとなんと左腕を自ら引っ付けて再生していた。

(内部の素体ごと再生させてる? いえ、血は出ていない。肉体自体の生体機能はとっくに止まっているはず……外装が素体を動かしている? 素体の感覚を利用して外装の形を維持しているのかしら?)

 エルマが観察を続けていると、やがて異形の“声”が聞こえてきた。

『……ワレ……ヲ……モトメ……ヨ……ノゾメ』

 呟くような声であったが、眼下に見える避難途中の人たちが一斉に驚いていた。その様から周囲の人間にも同様に聞こえているのは確かだ。

『……ワレは……セカイノ……運命……世界が……望みし……世界の大……敵――』

 異形は何かを訴え続ける。

 エルマは魔女の方に視界を移した。魔女の反応を確かめようとしたのだが、当の魔女たちは何一つ変わった様子を見せなかった。ただ戦いを傍観しているだけだ。

(……どういうこと?)

 エルマは疑問に思ったが、すぐに肩に乗るダロムを掴んだ。

「なんじゃ!?」

「妖精さん、確かめたいことがあるの。力を貸してくれる?」



 魔女たちの近く何かが崩れた音がした。

 その音に彼女らの注意がそちらに向く。

 戦いに巻き込まれて半壊していた家屋の瓦礫が落ちたようだ。

 そこでようやくトウが眼下で逃げている人々の姿に気づく。

 人波の中でしきりに辺りを窺う者たちが大勢いた。

 トウが異形を見る。

「何か、あいつが言ったみたいね」

「あんなのの声を聞けたって良いことはないわ。それよりもちゃんと戦いを監視してよ」

「はいはい、分かってるって」



「……やはり、そうなのね」

 魔女の反応を双眼鏡で観察していたエルマは自分の推測を確信する。

「なにがそうなの?」

 肩の上でプリムが尋ねる。

「確かめたかったの。魔女たちは人の目につかない場所に立って戦いを監視していた。逆に言えば魔女たちも人々の姿が見えていなかった。だからね、じいじに頼んで魔女の注意を逃げてる人たちの方に向けてもらったの」

 家屋の崩壊は土属性の物を操作できるダロムに頼んで意図的に起こしてもらったのだ。

「それで、なにかあったの?」

「魔女たちは逃げ惑う人々の反応を見て、ようやく“声”に驚いている人がいることに気づいた。つまり魔女自身は“声”に気づいていなかった事になるわ」

「えっ、“まじょ”たちって、あんなきもちわるい声にきづかなかったの?」

「ここから見える魔女たちの素振りを見る限りわね」

 魔女にはあの心を蝕むような無気味な“声”が届いていない。

 それが何を意味するのかは分からないが、どんな小さな情報も敵に対抗するための大きな手がかりとなるかもしれないのだ。



 黄金の強化装甲を駆るマークルフと黒き異形の戦いは続いていた。

 倒壊して土煙を巻き上げた家屋の中から異形が飛び出し、マークルフに迫る。

 マークルフは右腕の刃で薙ぎ払って異形の胸を斬り裂くが、相手は怯むことなく至近距離から無数のツタを放った。

 マークルフは推進装置を噴かして飛び上がるが何本かが手足に絡み付く。速度が鈍ると他のツタも全身に絡み付いた。

「グーの字!」

 マークルフは強引に加速するとツタに捕まったまま地上すれすれに飛行する。その先には《戦乙女の槍》を持つ鉄巨人の腕が地面から出ていた。

 マークルフは槍を掠めるように飛ぶと斧槍の刃でツタを切断する。

 ツタを切られ異形に隙が生じた。

 自由になったマークルフはさらに加速し、すれ違いざまに異形を斬り付ける。

 異形の両脚が切断され、その姿が崩れ落ちた。

 それでも異形はツタを放ち、今度は《グノムス》の腕と槍に巻き付く。

「動くな、グーの字!」

 マークルフは地面を蹴って《グノムス》の方に身を翻すと、両腕の刃を振るって着地した。

 槍に絡み付いたツタが切断され、拘束が解ける。鎧の刃と激しく打ち合ったが槍にも刃にも傷一つない。互いに破壊不可能の戦乙女の武具だからこそ遠慮なくできる手段だった。

 マークルフは鉄巨人の手から槍を抜くとそれを異形に向けて投げつける。

 強化装甲の力で投擲された槍は異形の顔を貫き、その身体を背後の石壁まで運んで釘付けにした。

「リーナ! 少しえぐい光景になるぞ!」

 マークルフは異形に向かって飛ぶとその両腕の双刃で異形の両腕を斬り落とした。

 四肢を切断されて頭から釘付けにされた異形だが動きを止めることなく、胴体のツタが襲いかかろうとする。

 マークルフは再び刃を交差させると、それぞれを異形の首と胴体にめり込ませた。

「いいかげんに……くたばりやがれ!」

 絡み付くツタごと双刃が異形の首と胴体を切り離す。そして槍を掴むと異形の頭を足で踏み砕きながら引き抜いた。

「こいつでどうだ!」

 後ろに飛び退きながら右腕の刃を突き出す。刃先から放たれた光弾が異形の頭と胴体を呑み込み、爆発した。

 マークルフは着地する。

 目の前では異形を巻き込み周囲の建物が倒壊した。

「……リーナ、大丈夫か? やっぱり化け物とはいえ切り刻むのは良い趣味じゃないな」

『――私は大丈夫です。ですが、これで……』

「ああ、終わってくれればいいが――」

 目の前の瓦礫の山が動く。

「――そうはいかないようだな」

 マークルフは飛び退く。

 異形がいた瓦礫の山から無数のツタが周囲に広がった。ツタは散乱していた異形の手足や砕いた頭部の欠片を回収して瓦礫の中へと引きずり込む。

 やがて瓦礫を押し退け、変わり果てた姿の異形が立ち上がった。

 蠢く無数のツタが手足の代わりとなって胴体を立たせていた。胴の切断面はツタで繋がって修復しており、胴体のツタが回収した手足を切断面まで運び、引っ付ける。ツタがその繋ぎ目を縫うようにして覆い、異形の四肢が動いた。

 最後に首の切断面から砕いたはずの頭部が盛り上がる。

 粉砕したはずの頭部は完全に再生していた。

『ゴアアアアアアアッーーッ!』

 怨嗟か、憤りか、それともただ自分の存在を確かめるかのように異形が叫んだ。

『そんな……あれだけ斬っても平気なんて……』

「気づいたか、リーナ?」

 マークルフが仮面の下で険しい顔を浮かべる。

「両腕、両脚、胴体、頭……全身を攻撃した。しかし、あるべきはずの物がねえ。中の肉体がどんな状態か知らねえが、奴の身体には制御装置を埋め込んでる手応えがなかった」

『た、確かにヒュールフォンやオレフは“機神”の制御装置を持っていました……あのアレッソスは制御装置を持たないのに“機神”のような力が使えるということですか?』

「分からねえ……分からねえが、こいつは今までになく異質だ。もう悠長にこいつが何者か考えている余裕はなさそうだ」

 マークルフは《戦乙女の槍》を握った。

「リーナ、〈アトロポス・チャージ〉だ。こうなれば再生する前に一気に消滅させるぞ」

『しかし、あれをここで使えば――』

「それは分かってる。俺もこれ以上、王都を荒らしたくねえからな」

 マークルフは槍を地面に刺すと両腕を交差させた。

「――『その命運、ここに断ち切る』ッ!」

 最終兵装のコマンドが発動し、左手甲が右手甲と合体。右腕の先に一対の双刃が鋏のように迫り出すと、その手で槍を引き抜く。

「これが最後だ。アレッソス=バッソスのなれの果て――」

 槍を異形に向けた。

 異形がツタを放ち、槍と合体手甲に絡み付くが、ツタの間から漏れ出た光がツタが瞬時に蒸発させた。

 槍が赤熱するように輝きだす。

 “鎧”が搭載する最大の切り札〈アトロポス・チャージ〉――一対の双刃より膨大な力を武器に付与し、対象に叩きつけることでその破壊力を爆発的に解放する攻撃だ。その威力は凄まじく破壊不可の《戦乙女の槍》しかその使用に耐えられないほどだ。

 スラスターが展開し、槍を構えながらマークルフは飛ぶ。

 迫り来るマークルフを異形のツタが迎え撃つ。

 ツタは右腕と槍を除いた全身に巻き付いてその動きを封じようとするが、マークルフは構わずに突進すると異形の首を左腕で締め上げた。

「飛ぶぞ!」

 マークルフは異形を捕らえたまま飛翔した。

 その間もツタが黄金の鎧に巻き付くが、全身の装甲が赤熱するように輝き、触れたツタが瞬時に蒸発する。

 異形を捕らえたままマークルフたちの姿は地上を離れ、空へと向かった。



「ミュー、あれが――」

 魔女トウが空を見ながら呟く。

「ええ、間違いないわ。あれが勇士最大の攻撃〈アトロポス・チャージ〉ね」

 戦いの監視を続けていた魔女二人が空へと向かう黄金の鎧と異形の姿を見上げた。

「やっぱり、あれ一体じゃ敵わないか」

「仕方ないわね。このまま消滅されても困るわ」

 ミューがマークルフたちの消えた上空に向かって手を伸ばした。

「わたしが上の陣を描くわ。姉様、ちゃんと同期してよ」

「分かってるって」

 トウも自らの腕を地上へと向けた。



 街が小さくなるまで上空に来たマークルフは異形を放り投げた。

 宙に投げ出された異形がツタを放ってマークルフを捕まえようとするが、それも輝く装甲の前で蒸発する。

「その程度でこの突撃は止められはしねえ!」

 マークルフは槍を構え、中空に投げ出された異形へと狙いを向ける。

 この位置、この向きなら破壊の奔流も地上までには及ばない。

「終いにしてやるぜ!」

 発動準備が完了し、膨大な破壊力を付与された槍が赤熱化した。推進装置も最大に展開し、破壊の力を纏った槍と鎧が異形に向かって突撃しようとする。

『――あれは!?』

 リーナが驚く。

 異形を中心に同心円状に無数のツタが広がった。今までのような鋼のツタではなく、その途中に水晶質の甲殻が連なる、異形の装甲そのものを解いたようだった。

「なんだ……?」

 マークルフは今までの動きと違うことに戸惑う。

 本体が悪あがきするように足掻いているが、ツタはまるで計算されたように綺麗な円を描いているのだ。まるでそれぞれが別々の意思で動いているようだ。

 異形を中心に放射状に展開されたツタの甲殻が真紅に輝く。

 同時にセンサーが魔力反応を感知した。

「撃ってくるつもりか!? 構うな! このまま一気に叩き込む!」

 たとえあの魔力を全て攻撃として放ってきても発動状態に入った〈アトロポス・チャージ〉を止めることはできない。

 マークルフはためらわずに異形へ向かって飛ぶ。

 ツタの水晶甲殻が魔力の光線を放った。しかし、その狙いはマークルフではなかった。

 幾本か同時に放たれた真紅の光はその先にある別のツタの水晶に当たり、魔力が別の甲殻に伝導するとそこからまた光線が別の方向に放たれる。

「こいつは――」

 かつて“機神”が暴走した時にも同じような動きを見たことがあった。

 あの時は限られた魔力を回収しながらの全方位攻撃だったが、今回は同心円状に広がるツタ群の中で無数の光線が交錯し、円の内側に幾何学的な模様を描きだしていた。

『あの円陣は……まさか!? ダメ――ダメです!!』

 突如、リーナが制止の声をあげた。

「どうした!?」

『あれは“門番”が使った物と同じ転移門です! 推定転移先――地上です!』

 “鎧”に内蔵された計算装置で割り出したであろうリーナが切羽詰まった声で警告する。

「何だとッ!?」

『このまま発動したら〈アトロポス・チャージ〉の破壊が地上にまで――!』

 リーナの計算がシステム同期を通じてマークルフにも伝わった。

 このままでは〈アトロポス・チャージ〉炸裂と転移門の完成が同時になる。異形と転移門は破壊できるが、その際に破壊力の一部が転移門を通して地上に伝わる可能性が出ていた。

 周囲を灰燼に変える破壊力の余波が街に及べば、甚大な被害が出るのは避けられない。

「チクショウッ!!」

 マークルフは発動直前の槍を異形から強引に逸らし、軌道をずらす。しかし、すでに発動寸前の攻撃を停止することはできない。

 その瞬間にも魔力の陣形が完成し、発動した転移門が異形の姿を取り込み、飲み込んだ。

「リーナ、堪えろ!」

 マークルフは標的を見失った槍の力を解放した。

 槍に集めていた力が行き場を失い、暴発気味に天に向かって放たれる。

 周囲を閃光に染め上げながら暴走の衝撃がマークルフたちにも襲いかかった。

 巨大な鉄槌で打ち付けられるような衝撃を受けてマークルフは地上へと吹き飛ばされる。

『マークルフ様!? しっかり!!』

「……グッ……リーナ! 人のいない所を探せ!!」

 マークルフは鎧のスラスターを全出力で起動。

 衝撃と姿勢制御の反動で翻弄されながらもマークルフは真下の中心街を避け、人の反応のない街外れへと落下方向を変えた。

「うわあッ!?」

『きゃあッ!?』

 マークルフは瓦礫を巻き上げながら地上へと墜落する。

 周囲の家屋をその勢いで次々と破壊しながら地面を滑り、地表と街並みに大きな抉り傷を残すのと引き換えにようやく止まった。

 周囲を粉塵が包む中、マークルフは瓦礫を押し退けながら立ち上がる。

『大丈夫ですか!?』

「……クッ……俺はかまうな……それよりも奴はどこだ!」

 マークルフは衝撃で打ち付けた全身の痛みを無視し、すぐに飛んだ。そして異形が逃げたであろう地上を見渡す。

 しかし、全ての計器を使って索敵するものの、異形らしき反応も気配も何も発見できなかった。

 反応のない存在が街のどこかに身を隠してしまえば、こちらに捜す術はない。

「……クソッ、なんてザマだ! まんまと逃げられるとは――」

 マークルフの憤りとは裏腹に、避難していた街の人たちが空に浮かぶ黄金の勇士に気づくと歓喜の声をあげた。手を振る者もいる。どうやら、空で炸裂した〈アトロポス・チャージ〉の暴発で異形を倒したと勘違いしているようであった。

『マークルフ様……』

 気遣うリーナの声も届かないまま、マークルフは危険な存在を取り逃がした失態に歯噛みする。

 しかし黄金の仮面に隠された彼の憤りを、見守る街の人たちは誰一人気づくことはなかった。


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