入り口
一歩、足を進める度にリーリの胸は踊った。
世界最大の図書館。
その言葉の響きだけで特別な場所のような気がする。
古文書を保管している場所でもあるのだから特別なのは間違いない。
期待だけで終わってしまうかもしれない。だけど、行動しなければ何も起こらない。
その期待がリーリの足を速めた。
「ユイは家を発つ前にギーリク大図書館の映像を取り込んだんですよ」
「映像?」
「はい。電脳空間で探してみたんです。でも、電脳空間で見つけることができたのは正面玄関を写した映像や写真だけでした」
「図書館だからね。写真を撮ったりして騒ぐような人は館内から追い出されてしまうんじゃないかな」
「騒ぐのはダメなんですか」
「ダメだよ。迷惑にならないよう、ヒソヒソ話くらいにしないといけない」
「ふーん、変なルールですね」
「ユイも本を読んでみれば分かるよ」
角を曲がると大きな空間が広がっていた。そして、ギーリク大図書館の巨大なエントランスが訪れる人を待ち構えていた。
チラシの写真からその巨大な構えをうかがえたけれども、実物はそれ以上に荘厳な姿をしていた。
えいやっと、思い弾みに体をぶつけて見ても、びくともしない頑丈そうな壁だ。その色も、長い年月雨に晒されて灰色模様が浮かんでいた。周りの風景に溶け込んでいると言えなくもない。
大昔に作られた世界中の文化と知識を吸い上げ続ける建物は時が止まっているようだった。
「リーリ、見つめていないで中に入りましょう。ギーリク大図書館は逃げたりしないですよ」
リーリの側に立つと、ユイは笑って言った。
「うん。でも、機械城のような建物を想像していたから、ちょっぴり意外だと思ったんだよ」
「機械のお城?」
「ギーリク大図書館は知識の宝庫だから、そのありったけの知識を使って造られた建物なんじゃないかなって、勝手に想像していたんだよ」
それに、とリーリは言葉を続けた。
「アナログな雰囲気より完全に機械でコントロールされていた方が面白いと思うんだ。何でもかんでも人に頼るのではなくて、完全にオートメーション化された中で知識が管理されていたら便利だろうなって思っていたんだ。古の知識を書き記す古文書も例外でない。人の理想をそのまま形にした場所なんじゃないのかなって期待していた」
「リーリの話だけを聞くと、この図書館の中には機械仕掛けの魔物が住んでいそうですね。人の勝手な行動は許しません、ルールはルールです、って鬼の首を取ったように対応するかもしれませんね。機械のお城は窮屈な場所かもしれませんよ」
ユイは笑って言った。
「それに、リーリが求めているものはそういった場所には無いんですよね」
ユイの言う通りだった。