チラシを見ると
—ギーリク大図書館、それは夢の世界!—
—あなたの知らないことが必ずあるー
—君はそれを知りたくないか!—
—世界に残された数少ないミステリー—
「何ですかそれは?」
ユイはリーリが口にしたセリフが可笑しかった。
「ホテルにあったギーリク大図書館のチラシだよ」
「図書館がミステリーでは困っちゃいますね」
「世に知られていない本が沢山あるということじゃないかな。一千年間、本を集め続けてそれ自体がミステリーになったのかもしれないよ」
「ユイは本を読んだことありません。分からないことや知らないことがあれば、いつも電脳空間から情報を探し出しています。本が必要になったことは一度もないですよ」
「ありふれたものなら電脳空間で事足りるからね。本なんて読むのが面倒臭くてキライだ、なんて思っても不思議じゃないよ」
「ユイは本がキライというわけではありません。電脳空間は本より便利だから使っているんです」
ユイは怒ったように言った。
「ごめん、ごめん。でも、電脳空間で見つからない情報だって沢山あるはずだよ。ギーリク図書館は一千年前に建てられた世界最大の図書館だ」
「リーリは本が大好きですよね。家に沢山置いてあります」
「うん。名前も知らない人が届ける情報より、一人が長い時間をかけて作り上げた本の方が面白く思うんだよ」
「面白い、ですか」
「そう、面白い。本は書き手の個性が表れていて好きなんだ。それに、バラバラな情報の集合体である電脳空間は不便なことも多い。その点、本は目的があって作られているから分かりやすいんだ」
ユイには関係のないことだろう。
ユイはバラバラに《記録》された情報でも検索すればどんな時でも一瞬で引き出せる。ユイにとって《記録》を整理整頓することは簡単だ。
「電脳空間だって人の手で作られているのですから、変わりないはずですよ。リーリの言っていることは矛盾しています」
「そうかなぁ。電脳空間で探し物をするより、本を一冊読む方が満足できるけどなぁ」
「それは、リーリがアナログだからです」
機械人形のユイに言われるとリーリとしてはどうしようもなく、苦笑するしかなかった。
「また笑う」
「ごめん、ごめん」