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第十八話 どうも妊娠らしい

さぁ中盤折り返し地点やねこっから終盤にかけてレッツゴーだー

おかしいな、まさか、こんな事になるとは!


「ルンルンルン♪」


腰が浮いている淫乱僧侶

妬ましそうに見ているビキニアーマーの悪魔


その二人を他所にロット姫はエリン姫の

お腹に手を当てて、うーんと悩ましげな顔をしている。


「命の伊吹を前より、エリン姫も私も

 感じますけれど、まだ1ヶ月経ってもないし…

 とはいっても侍女の話を聞いても

 微妙な体調変化を思っても

 これは多分…」


と、”ではないか?”状態に、ソワソワしてる2人。


ふふふふ…

もう寸前らしいぞ?


心の準備はいいか僕?


いいか、もうこれは仕方ない。

ハーレムの行き先は

大家族。

もうこれは仕方ない。


覚悟しようぜ、僕


ふふふふ…


まぁなんだかみんな嬉しそうだし


それでいいか。


そう、僕は達観する。




ともかくも急ピッチで”晶石”の製造施設

らしきモノの再建は続いた。

ジキスムントの人足も出したし

ドワーフの民も、その遺跡に住み込むように

テントを構えて修繕工事。

精霊王も魔導を使って補佐してくれたり

総出で作業。

その有り難さが身に染みた。


他、遂に学者レベル10となったタラスが

助手状態のオールドと共に精霊王に

魔導の教授を受け、

また、エルフ王の持つ、最高級の遠見の水晶を

顕微鏡観察しては、その文節を書きだして

呪文解析を精霊王と共に始める。


『見る』という魔法について研鑽が始まったらしい。


特に『魔導顕微鏡』の試作も

同時進行で進んでいたので、

『センス・エネミー』で敵意が見えるのなら、

もっと色んな『見える』があるのではないか?と

議論していたのだった。

僕はその魔導話が面白くて聞いてて


「赤外線とか見えて

 サーモグラフィーとかになったら

 面白いですね

 熱源探知みたいな…」


とか、あっちでテレビで見たことのある

熱源探知装置の話をすると…


「そうか!精霊魔導を習得すると

 見えるようになる『インフラビジョン』なら

 熱源を見分ける事が出来る!

 それを能力増幅の呪文で強化すれば…」


と、なんかアレ?って感じで

熱源探知の顕微サーモグラフィーが

連鎖的に雑談の中で生まれた。

他、精霊魔導を習得した者は

センス・オーラという能力が獲得でき

精霊の流れが観察できるそうだった。

そこで精霊王やタラスやリースロット姫など

精霊魔導の使い手が顕微鏡をセンスオーラで見ると

生命の精霊と水の精霊の流動が見えて

そこにインフラビジョンの視野がサポートすると

より、様々な流れの流動が見えるらしい。

その状態で『センス・エネミー』の

重ねかけをすると、

菌類と細胞が戦う様子が少しずつ

見えてきたそうだ。



ちょっと辞書を読む。



辞書


バクテリアは自己の生存権の為

常時周囲と戦っているに等しい。

バクテリアにとっては、生きる事は

増える為に食べることであり、

すなわちそれは戦うという事と考えられる。

また、生物の組織細胞も

免疫細胞が戦っているだけなのではなく

組織細胞の各々が周辺異物と戦い

牽制しあっている。

免疫細胞とはその異物細胞との戦いに特化した

人間社会でいえば防衛軍であり、

専業防衛をするのが任務であるといえる。

ともあれ、ミクロのレベルで

細胞達は常時、生存権をかけて闘争しており

そう見ればこの世界は

常に、生きる為に戦い続けているといえる。

ただし、バクテリアの中にも

周辺との妥協と共生で、

生存する方法を得た物もおり、

体内で食料を分けて貰う為に

周辺組織を活性化させて相互扶助の

関係を作り出す物もある。

この様に、例えば人の生命活動に

プラス行動をするバクテリアなどの微生物を

『善玉菌』

まったく人間を壊す事しかしない物を

『悪玉菌』

と分類しており、

微生物は必ずしも悪性であるとはいえない。

ビフィズス菌等は、善玉菌の代表格である。

いわゆる『バイ菌』とは、この悪玉菌であり、

体内の免疫等のバランスが崩れたときに、

体内中の悪玉菌が増殖し暴れ始める事を指す。

『大腸菌O-157』や『赤痢菌』等は

それである。

また、体内の中にある多種の『悪玉菌』が

体内の至る所で暴れることが、

風邪の1つの姿である。

とは言っても、風邪の主因の9割はウイルス性で

細菌性主因は1割程度である。

ウィルスを考慮すると更に難しくなるので

ウィルスは今は除外する。

この様に『悪玉菌』において

ペスト菌やコレラ菌等の、

超凶悪な1菌種に限定して

治療法や治療薬、あるいは予防法を

追及する事は出来ても

平均的な害性を持つ、大腸菌等は

Oー157の数値が示す様に

O抗原だけで181種類もあり

菌に対する1対1対応の治療法を

個別に確立するのは現実的ではない。

(とはいえ『抗生物質』を使えば

 菌類を善玉悪玉問わずに、

 大規模殲滅できるので、

 何も考えずに全浄化を目指すのなら

 『抗生物質』療法は有効手段である)

他種類の悪玉菌に全方位対応するには

同じミクロレベルで体内を守る

『免疫細胞』の方が汎用性は高い。

免疫細胞は、常時、状況に対応して

自己変化する能力を持ち

細菌はおろか撃退難度の高い『ウィルス』も

駆逐できる高機能敵性排除システムである。

むしろ、免疫力の活性化こそが

風邪などの多数因子病気に対応する手段である。

いわるゆる『風邪薬』とは

自己免疫を強化する為の栄養素や

免疫活動時における

免疫細胞と悪玉菌、及び、ウイルスとの

戦闘で起きる炎症作用を抑える等の

薬剤が混合された物であり

風邪等の病気を治しているのは、

本来は自身の『免疫力』なのである。

この免疫力を超速で突破し

破壊の限りを尽くす凶悪な病原菌及びウイルスを

『法定伝染病』と呼んで、特別警戒するのである。

ペスト菌、コレラ菌は、有名な

法定伝染病である。



「ふーん

 そうか…菌が全部が全部、悪いってわけでもなく、

 確かヤクルトだったよな?

 ビフィズス菌を取って健康に!みたいな

 そういう善玉菌と共生ってのもアリなんだ…

 しかし…、体ってのは、自分自身が

 病気と闘える能力があるんだな…

 自身の免疫力ってのを高めるってのは重要なんだな」



と、そんな話をみんなにすると

自分の体自身が病気と

戦える力があるという事を知って

些か驚いていたようだった。

もしかしたら、能力増幅の呪文書で、周囲を囲ったら

自身の免疫力が活性化されて病気がはやく治るかも

等と、僕が言ってみると、

それは面白そうですね!とオールドとかが

試作でもしてみようかと考えたようだった。



そんなこんなで、

魔術言語解析なるものが進んでいる横で

2人の特徴的な学者が相談に来た。



1人は植物生物を研究しているアントニーという

精霊魔導と植物の関連から生物を研究している者で

生物の微細な光景は見えないだろうか?

という相談だった。

それは顕微鏡という試作に直撃的な話であり

悩んで悩んだのだけど、

『魔導顕微鏡』は本当に方向性がまだ不確定で

どうしたらいいんだろう?的な

盛り込み要素に迷う研究試作であったが、

顕微鏡のレベルならいいのではないか?と思い

デルゼン陛下に泣きついて、

試作の顕微鏡を更に作って貰い、

それをアントニーに渡して

これで研究してみてはどうか?と進めてみた。

アントニーは、その『顕微鏡』にビビって

猛烈な勢いで植物観察を始めた。



もう1人はピタスという数学者で、

古代の幾何学の集大成であるゴラスという

幾何学書を更に研究したいらしく

数学のより深い研鑽はどうすればいいのか

と相談された。


ともかく驚いた。


Ⅰ+Ⅲ=Ⅳ 


とか


ⅩⅠ+Ⅳ+ⅩⅩⅢ=ⅩⅩⅩⅧ


とまぁ、ローマ数字で表現したが

こんな数字で計算している様子を見せるのである。


1+3=4


11+4+23=38


というアラビア数字で計算する僕らにとっては

そんな10種の数文字で「桁上げ」をするという

『当たり前の数学』さえ、当たり前じゃないんだ

という事を知る。

これにはビビった。


というか辞書曰く


辞書


アラビアが作った数学なんだから

10世紀ヨーロッパ中世が持ってるわけねーだろ?

厳密には呼び名はインド・アラビア数字だがな。

このアラビア数学を背景に10世紀のイスラム帝国群は

十字軍を跳ね返して、大文化帝国として君臨したんぞ?

宗教的な都合で幾何学研究が盛んになったんで

だから幾何学数学が爆発的に発展したんだけども。

活版印刷で本が普及するまでは、

数学は秘伝学問の1つだったんで

数学者という特定の人種しか

その秘技を伝授しないとか閉鎖的な学問だったんや。

何せ、そっちの世界の様な『魔法』みたいな

都合のいいもんが無いからの。

建築数学を背景に、兵器の数学が発展したんで

数学は武器そのものやったんや。

あんまり明確に意識されんかったけどな。

後の科学の発展を裏で支えたのも数学。

アラビア数字の導入で、数値計算の効率化が起き

希少価値だった紙が安くなって

検算用紙も楽に手に入るようになったから

数学は更に発展できた。

『当たり前』と思っている事も

そこに至るまでの『当たり前』でない時代を見れば

誰もが『当たり前』にそれを使える事こそ

本当のチートなのさ。

アラビア数学の桁上げ法でも

教えてやればどうですか?



とか言われた。

なんか、この辞書、辞書的にクールに喋る時と

えらい人間的に喋る時のムラが激しいなぁ…



なので僕は、ピタスに、小学生が習う

アラビア数字での算数を教えてみた。

それでピタスに感動された。


「陛下は天才ですか!」


とか言われた…

マジか…


こっちも悩んだんだけど、

「まだ存在は内密にね」

という釘付けと共に、試作製紙を渡して

検算用に使って見て下さい、と促した。


その試作紙にも涙を流された。


「羊皮紙にびっしりと今まで書き込んでいたのに

 こんな薄いモノで、検算用紙が使えるなんて!!」


とか言い出して、猛烈な勢いで

アラビア数字による計算の練習を始めては

今までの幾何学計算をやり直したり、

解いている途中だった計算をしたりとか

計算活動始めた。


この情熱、こえぇぇ…


僕も、あっちの世界に居た時は

よく分からなかったけど、

あのよーわからん、微分と積分とか教えたら、

どうなるんだ、このピタスって数学者…。


そんな数学者肌というのを見て、

驚くしかなかった。


で、面白いので、

試作製紙をけっこうピタスに渡してやった。

大喜びしてた。




そんなこんなで、色んな人が色んな事をしている間に

”晶石”のフォトリソグラフィーを

実験的にしてみる所まで、凄い速度で状況が整った。

もう、ドワーフ職人の手先の器用さは脅威でしかなく

顕微鏡の制作のおかげか、拡大鏡も良いのが出来たらしく

それで、めっさ細かい版画文字版が出来た。


そして、第1実験…

オパールに光焼き付けをしてみる…。


まぁ完璧とはいえないけれど

オパールに微細加工呪文が書き込まれた。


照射時間とかで溶解状態が違うんで、

照射時間を何秒にするかとか、

そういうのが問題らしかったけど

少なくとも、焼き付けそのものが出来たんで

その最適化が課題…。

太陽光を使うんで1日中使える施設ではないし

色々と問題はあったけど、

出来た”晶石”の様子見と

なればこその、タラスが前々から課題にしてた

”呪文構造の解析”に目が行くようになる。

精霊王もそんな観点が面白いと感じたらしく

大学に入った魔導師達が全員集まって、

熱心な議論になった。


タラスはその光景に少しだけ涙したという。



そんな、まぁ、中々、良いサイクルで回っていた

そう良い感じだったし…

僕の次にやってきたのも、

良い話ではあったんだけど

そう、良い話には違いなかったんだけど…


だけど…

遂に来た…



「陛下、その……出来たみたいです…」


エリン姫が顔を真っ赤にさせながらそう言ってきた。


「ああ、そう…」


その言葉に僕は、呆然と返すしかなかった。


「ちょっと、陛下!

 その返事は、ちょっと…

 あの…もうちょっと驚くとか…」


とエリン姫は大きなリアクションを期待してたのか

凄く僕の返事に不満そうだった。


「いや、だって…ねぇ…

 作る為に、あんなにみんなで計画表立てて

 明るい家族計画したんだから…

 ああ、やっぱ出来ちゃったかーー

 としか…

 う、うん、おめでとう、エリン姫…」


と僕は、「あーあー、やっぱそうなるよねー」的な

そんな返事しか出来なかった。


「おめでとうって、何ですか陛下!

 陛下と私の子供ですよ!!

 やったな!僕も嬉しいな!

 姫、愛してるよ!

 愛を再び確認する為に、寝所へゴー!とか

 そんな熱烈感は無いんですか!!」


とか、言い出すエリン姫。

ちょ、エリン姫、

後ろの台詞、自分の欲望ダダ漏れです。

ドジっ子の、吟遊詩人で、看護婦的に僧侶もするよ的な

ほのぼの系のキャラどうした…


「愛と欲望の前には、そんなのは捨てました!」


「僕の思考が何故読めたし…」


「熱愛夫婦ですから!」


「ああ、そう…」


と、まぁうん、どうも僕は、親になるらしい…

と…思えば?


「貴方、あのですねぇ…」


と淫乱僧侶が顔を真っ赤にしながら

他の2人も従えてやってくる。


「はいミニスカ淫乱僧侶の嫁姫様

 なんでしょうか?」


僕は容赦ない言葉でエレシア姫を迎える。

しかし、その皮肉を華麗にスルーして

満面の笑みで語ってくる姫。


「あの、ディビネーションで毎日

 大地母神に、身籠もれましたか?

 身籠もれましかた?

 って尋ねてたんですけれど…」


って、ディビネーションって

そんな事に使っていいのかよ!

まぁ、俺はあんな不思議な神と会話したけどさ!


「大丈夫です、大地母神は母の神。

 そういう祈りなら、大歓迎の神なんで

 オールオッケーです!」


「僕の思考が何故読めたし…」


「熱愛夫婦ですから!」


「ああ、そう…」


そんな嫁の言葉に笑いながら…


「大地母神にそれを尋ねたら…

 どうも、もう全員、身籠もってるらしく…

 エリン姫は確定で育ち始めたという事らしくて」


と言って4人全員で頬を抑えて

顔を真っ赤にさせた。


うぉーい!!

4発とも全命中か!

ずげぇなそれ!!


僕は、嫁達の明るい家族計画のエネルギーに

普通に舌を巻くしかなかった。


しかし、その次の瞬間には、少しエレシア姫は

真面目な顔になって


「貴方、私、ずっと気になってましたの…

 貴方の世界の平均寿命の事を

 何故か辞書が直ぐに教えてくれなかったのを…

 辞書の言うとおりに、

 私達全員、身籠もったみたいですから…

 その、今なら辞書が語ってくれるのでは無いかと」


そうエレシア姫は言ってきた。

ああ、そういえばそういう事もあったね…。


「辞書が、何故それを語るのを保留にしたのか

 気になるんです…

 陛下、お願いです。

 その語る口を閉ざしたそれを

 今こそ、聞いて貰えませんか?」


そうエレシア姫は言い、他の3姫も真剣な目で

それを僕に訴えていた。


「そうか、そうだね…

 あれは僕も気になってはいたんだ…

 ま、予定通り、みんな無事に身籠もったというのなら

 辞書も語ってくれるかな…」


そう言って辞書に向かおうとしたとき…


『今回は特別サービスだ…

 他の4人の姫も、辞書の言葉が聞こえるよう

 言語変換を繋げよう…

 みんなで、その辞書の言葉を

 聞きなさい』


そう神剣が言ってきた。


「そんな事できたんかよ!!」


神剣がそう言うのに僕は驚く。


『特例だ特例。

 辞書もこの事に関しては

 姫達にも聞かせたい事だと言っている。

 問題は、これを聞いた後

 お前がどうするか…

 それだろうな…』


そう言って剣は笑った。

その言葉に、そこに居た僕ら5人全員が

思わず息を飲むしかなかった。


そして僕ら5人は、あの辞書の元に向かった。


5人+神剣は辞書の前に進み、僕は


「全員の嫁を妊娠させたぞ!

 じゃぁあの時の話を、

 今、聞かせてもらおうじゃないか!」


と言う。なんか不思議な台詞だな…これ…。


その僕の言葉に、少し辞書が笑った様な光を放った。

そしてそのまま辞書は語り出す。



辞書


それはきっと人類は

忘れてはいけない記憶だろう。

それでも簡単に忘れれる記憶だろう。

思い出したくない。

こんな安心な世界が出来たのなら

そんな事は思いだし無くない。

きっとそうに違いない。

だからこんな大切な記録を

いとも簡単に忘れれる。


平均寿命。


それは『平均』なのだ。

人口全ての死亡年齢を足して

それを人口で割ればいい。

それが平均寿命だ。


古代だとて、疫病…

ペスト、コレラ、チフス、

天然痘、結核、マラリア

あるいは発見の遅れたインフルエンザ。

正体不明の何かに襲われれば

人類は簡単に殺され尽くした。

『免疫力』弱き者に生存の資格無し。

弱肉強食。

それが自然の摂理というモノだ。

『選別』を生き残った者にすら

自然は更に厳しいと言う事だ。


しかし…

もし本当に平均寿命を


『人口全ての年齢加算/人口数』


等という計算をしたら、50歳どころではない。

世界でみて10世紀は


『平均寿命24歳』


と計算できる。

まぁ推定も入っているがね。




「は?24歳?」

「24歳?」「24?」「24歳?」「24…」

僕はその素っ頓狂な数字を聞いて驚いた。




当然、平均寿命が24歳だから

皆が24歳までに死ぬわけではない。

それなら19歳の姫など後3年の命になる。

20歳まで生存できた個体は

凶悪な疫病に襲われるか、栄養失調に陥らない限りは

早々、くたばるヤワな人間ではない。

しかし、そういう個体こそが、平均年齢50歳までを

生き残る事ができる人間だった。

そして平均寿命50歳とは、

その様な者達だけで構成される計算だ。

何故なら、彼等は『選別』を生き残った

強生命を持つ者達だからだ…。

それだけを生存人類として人類は記録した。




「『選別』?」

「……」「…」「…」「あ…」

僕は首を捻ったが姫達は何かに気付いた様だった。




日本には753と呼ばれる3歳、5歳、7歳

になるとそれを祝う祭りがある。

最早、それを何の為に始めたのか

それさえ忘れかけて形骸化しつつある祭りだが…。

この3歳、5歳、7歳という年齢は、

古来では節目。


『生まれた赤子がなんとか3歳まで生きた

 生まれた赤子がなんとか5歳まで生きた

 生まれた赤子がなんとか7歳まで生きた』


そのだいたいの危機年齢を3、5、7歳として

7歳まで生存できたのなら、

成人の13~15歳まで存命できるのではないか?

その子供の抵抗力で、通常世界での

通常病気を乗り切れるのではないか?

疫病ではなく、ただ、風邪。

あるいは、児童病を乗り切れるか?


はしか、風疹、脳炎、おたふくかぜ

破傷風、寄生虫 etc


その風邪や児童病の猛攻を

病気をしても乗り切るか?

かからずに交わしたか?

そうやって生き延びれた事を祝うのだ。

それが本来の祝いの意味だったハズだ。


『乳児死亡率』


5歳までに1000人中、

何人の子供が死亡するかという確率だ。


ローマ時代においてエジプト人の統計を元にすると

1000人中329人の子供が死んだという

つまり、32.9%


イングランド1301年台の統計で

1000人中218人

つまり、21.8%


この統計は実は1歳未満という統計なので

現在の5歳までという統計では

本当は何パーセントだったのか不明である。


現代の日本において乳児死亡率は

1000人中2.1人。

0.2% と

古代から比べると驚異的な数字になっている。


他の資料によると古代は成人として

15歳か20歳まで生きのびれる子供は

生まれてくる子供の20~10%しかいなかったと

推定しているモノもある。


その様な児童死亡数までを計算に含めると

平均寿命は50歳が目安ではなく

24歳という

おかしな数字になるのだ。


児童病に病気に打ち勝った者は

50歳まで生存できるチャンスを貰えられ

児童病の前に破れた者は、

存在しなかったという計算除外に入る。


古代の平均寿命というのは、

その様に2種類の使い分けが必要になる。


50歳まで生き延びれる平均寿命。

24歳に落ちる乳児死亡率を繰り込んだ平均寿命。

それが、古代の平均寿命。




「はぁ?

 生まれてくる者の20~10%しか生存しない!?

 逆に言えば、生まれてくる子の8割が死ぬ!?

 ちょっと待てよ!

 そんな馬鹿な死亡率で子供が死ぬんなら…

 どうやって人類は生存してきたんだよ!」

僕はそのおかしさに異議を唱えた。




10人中1人か2人しか生存できなければ

10人生めば、確実に、1人生存できる計算になる。




「は!?」




1家庭が5人の子供を生めば、

死亡率80%でも理論上1人成人できる事になる。




「は?」




乳児死亡率、新生児死亡率、の高い死亡率を

病原菌やその治療薬すら知らない状態で

それでも乗り切る為には…

大量に子供を作って、確率論的に生存すればいい。

それが、古代の人類の人生観のスタイルだった。




「はぁ!?」

僕はその素っ頓狂な説明に粟立った。




両親が沢山生んで、その兄弟の誰かが生き延びればいい。

それが顕微鏡で細菌を発見できず

ワクチン治療さえ確立しなかった時代の

人類が生存する唯一の方法論だった。




「ちょっと待てよ!

 じゃぁ死んだ子供はどうなるんだよ!」

僕は叫んだ。




そんな者は存在しなかった…

と割り切るしかなかった。




「馬鹿なっ!!」




そう。

人間は

どんなに冷酷にならなければならない

環境であったとしても、

機械のように

10人生んで2人残れば

8人死んだ子供は

無かった事にしよう等とはできなかった。

人間は感情のない機械の様には生きれない。

だからこそ、753等という祭りで

子供が病気を乗り越えて

生存できた事を喜び、祝ったりしたのだ。

全ての古来の祭りが、

農業の豊穣を讃えるのと

子作りと子供の健康を願うのを

祭儀の中心事にするのも、そのせいだった。

だが、誰も「病気」の本質が分からない。

「病気」とは分かっても、

それが「悪魔」の所行としか思えなかった時代には

大量の子作りでしか、無知の時代を乗り切れなかった。




「そんな!!」




それは、ほんの200年前まで

たいして変わらない状況だった。

食料生産の安定化と栄養バランスの強化。

そして、細菌研究で、顕微鏡で細菌を発見し、

医学と薬学が『抗生物質』と『ワクチン』

を発見するまで、

人類は子供を襲う病気に為す術を持たなかった。

死床に高熱で彷徨う子供に

祈祷を捧げて、神に祈るしかなかった。

それが古代だった。




それを聞いた時、僕は不意に思い出す。


(「良平、泣いてばかりじゃ駄目でしょう?

  ちゃんと予防注射しないと

  病気になって死んでしまうのよ?」)


母に連れられて、病院で予防注射を打つとき

あの場で針に泣き叫んでいた僕の姿を。


「なんだよそれ…

 じゃぁ何か?

 はしかの予防注射をして

 児童病にかからないで、成人になれただけで

 僕が普通に、子供から大人になれただけで…

 それだけで、古代からしてみれば

 チートだっていうのかよ!!!」


その時、僕はそう叫んだ。


「はい、貴方、子供が大人まで生存できる

 それだけで、貴方の元居た世界はチートです。」


その時、エレシアが真剣な目でそう言ってきた。

僕はエレシアがそう言ってきたので彼女の方を向く。


「生きてるだけで…それだけがチート!?」


その言葉に僕は頭を抱えた。


「私達は王族。

 なので生まれてくる王子や姫に

 高位僧侶が優先的にキュア・ディシーズをかけます。

 だから王族の乳児死亡率は低いのです。

 でも農民や国民達は、話は別です。

 出来る限りの事は私達もします。

 それが私達の仕事ですから…。

 でもレベル4の僧侶に誰もが成れるわけでもない。

 そして、例え、中級僧侶に成れたとしても、

 必ず病気を治癒できるとは限らない。

 高位僧侶でなければ、治癒魔法の確実性は上がらない。

 それなのに、病気になる人数に対して僧侶の人手が足りない。

 治療依頼が入っても、

 病人の所に駆けつける時間も足りない。

 国民達には貴族達とは違って

 僧侶に高額な医療費を払えるお金も無い。

 僧侶の魔導治療は万能ではないのです。

 貴方のいた世界の、10人生んで2人生きれば

 それで良し…

 なんて数字には、流石にドン引きですが…

 この世界も、国民はそんなに事情は変わらないんです。

 このお腹に宿った貴方の子供…

 私が、姫で生まれてなければ…

 この世界の一般国民達と同じ様に…

 私もこの子が成人できるかどうか

 ただ神に祈らなければならない立場だったでしょう。

 私は、今まで、そうやって子供も大人も

 病床で伏してきた人達の元に駆けつけ…

 そして、何人も救えずに、

 その死を看取ってきました。」


彼女はそれを悔しそうに語った。


「エレシア姫…」


その言葉に僕は騒然となる。


「だからこそなんですよ…」


その時、エレシア姫が涙ぐんだ。


「貴方が…貴方の元居た世界では、

 貴方が言う、貴方の存在は、

 何でもない”凡人”と言う…

 そんな自分を卑下していた、貴方なのに

 でも、貴方は、誰もが生き残るのは、

 当たり前だって言ってくれる。

 今までの事を思い出して下さい。

 国民の食料の為に一生懸命奔走してくれて、

 『キュア・ディシーズ』の呪文書を

 毎日、一生懸命、作ってくれる…

 黒死病の様な、悪魔の病気でさえ

 簡単に克服しようと頑張ってくれる。

 そんな貴方が、自然に『当たり前』だと思ってくれる事。

 それが私達には、どれだけ嬉しい

 『神様からの恵み』なのか、

 貴方は、分かってくれますか!?」


言って彼女は涙をポロポロと零し始めた。

三人の姫もその言葉に何よりも優しい笑顔を浮かべて

その瞳を潤ませる。


「僕の”凡”の感覚は、

 この世界にとって『神様の恵み』そのものなのか…」


僕はエレシアの言葉に衝撃を受けるしかなかった。


「なんで、そんな優しい世界に居て

 貴方は、自分に自信が持てない、

 貴方でしか、居られなかったんですか?

 貴方の元居た世界って、いったい何なんですか?」


そうエレノアは涙を流しながら微笑んだ。


「本当に、君の言うとおりだ…

 僕はどうして、あんな優しい世界にいて

 それが、生きる事に”優しい”のだと

 何1つ気付けなかったのだろう?

 僕のいた、あの世界は、一体何なんだ?」


僕は、毎日、何も面白く無かったあの世界が

一体何なのか、本当に分からなくなってしまった。

ここから見れば、

全てが満たされていた世界だったというのに。


『どうして、

 お前が姫達を妊娠させなければ

 この話を聞かせる気が我々に無かったか

 今では分かるか?』


その時、神剣がそう言ってきた。

僕はその剣の言葉に姫達を見る。


「確実に生まれてくる子が…

 僕達のあの世界では

 ”生まれて育てれる事が当たり前”な子供が、

 でもこの世界では

 成人になるのさえ命がけなのだと

 それが実感できる様になるまで

 だから、教えなかったのか…」


僕は辞書と神剣が、嫁を身籠もらせるまで

平均寿命なるモノを教える気にならなかった

その理由を、そう口にした。


『ふむ…確かにそうで

 ほとんどが、そうだが…

 少し足りないのだな…

 辞書殿、追加をお願いできるかな?』


そう神剣は辞書に促す。


「追加?」


僕はその神剣の言葉に首を捻った。


そして辞書は語り出す。



1つだけ、この話に追加しておく。

これを聞いてどう思うかはお前が決めろ。

基本的に出産は母体に非常に負荷のかかる

女性の一大事業だ。

1人を生むだけでも命賭けになる事がある。

10ヶ月の妊娠期に、

転んで怪我でもすれば流産の可能性も高い。

お産の環境が悪ければ母子共に死産する事もある。

早産が起きれば、かなり危ない。

1人を健康に生むのさえ大変なのだ。

それを10人も生むというのなら

母体の死亡確率は、

どれだけ跳ね上がるのだろうかな?

成人までに死ぬのが、

ただ子供だけだと思っているのかな?




「何だと!?」




出産するのがせいぜい1人か2人。

それも、産婦人科なんて子供を産む為の

ノウハウが揃っているこの世界に比べて

妊娠時の科学的な常識が

足りていないそっちの世界で

10人も子供を産んで母体が無事なら

そりゃ、とんでもない頑丈なカーチャンだよな…

状況次第では、1人を生むのさえ

母子共に命の危険だってあるのにな。




「じゃぁ、俺の嫁だって

 命の危険は既にあるって事か!」




『そういう事だ…

 さて、異世界転生…

 どうするよ?』



神剣はそう言って、少しニヤついた。



10万文字を軽く突破とか、どうなんやねん…


あーあ


まぁいいっか。

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