4話 希望
文法の誤り、誤字脱字、またアドバイス等ございましたらぜひよろしくお願いします。
少しでも良い作品になるよう、最善の努力をしたいので…!
その状況に目をぱちくりさせる刹那に、んっ、と再び六花が手を差し出す。掴まれという合図だろう。不安に苛まれながらもゆっくりとその手を取ると、そのままぐいっと引かれて体勢を崩しそうになる。なんとか転ばずに立て直して立ち上がり六花を見る。
微笑んでいた。
「…………六花、それ危ない。刹那、怪我する」
「ごめんごめん、シャキッとさせたくって」
二人の会話に追い付けずに流される。
――……え、え?
六花は、言葉を失う刹那に向き直るとやけに真面目に続けた。
「何、馬鹿なことしてるの」
――馬鹿な、こと……?
「解ってないみたいだから言うけど……、って、召喚からまともに説明受けられてないもんね、当たり前か……。――いい?刹那……使い魔に刃向かうのは死に等しいのよ」
――死?
「…………そう。使い魔、暴れる。主人の否定は、とてもとても、恐いこと」
観世がいつになく神妙に語りかけるように言い、こちらを見た。
「…………刹那、心配……、だよ」
その表情はひどく悲しそうで、今にも泣き出しそうだった。ぎゅっと服の裾を握りしめた観世の雰囲気から、本当に下手をすれば死に直結することを物語っていた。
六花は軽く咳払いをすると、クラスメートの方を向き直って独り言のような口調で、それでも大きく声をあげた。
「あーあ、これで万が一刹那が死んだら……、誰のせいかしらね。……刹那は私たちを守ろうとしてくれたのに」
その瞬間、響めいていた空気が急にピンと針積め、そして申し訳なさそうに皆が小さく畏縮した。 その後、六花が刹那を呼び、一言「後で私の席に来て」とだけ呟いて席に戻っていった。
観世もその後に続いて席についた。
「……さ、さぁ皆いるようだしホームルームを終わる」
一部始終を無言で眺めていた教師はバツが悪そうに場を終わらせていそいそと教室を後にした。
***
「二人は、私が怖くないの?」
これが、刹那にとってやっとの言葉だった。
皆の様子とは明らかに違う二人の雰囲気から、少しの戸惑いもあったためだ。
六花と観世は黙って目を瞬かせた後お互い顔を見合わせて吹き出した。
「なっ、なんで笑うの?」
突然のことに刹那は目を白黒させて狼狽した。六花は必死に笑い声を圧し殺して肩を震わせ、観世は口元を手で覆って耐えている。
「……っふふ、ごめ……」
ついに耐えきれなかった六花が刹那の肩をぽんと叩いた。
――私、そんな変なこと言った?
イマイチ納得いかず頬を膨らませると、六花が笑いすぎて涙が出たのだろう、目尻を拭って笑いかけた。
「怖いわけないじゃない」
その一言にはっと瞠目して六花を見る。観世に視線を移すと、彼女も静かに頷いた。
――二人とも、私のこと……。
じんわりと胸が熱くなるのを感じた。
二人は自分を解ってくれている。その事実に何とも言えない気持ちを覚える。
「だって刹那は学園一の落ちこぼれだし」
――……は?
温まった心がまた急激に冷え込む。観世を見ると、これまた大きく頷かれた。
「…………刹那、怖くない」
――なんだろう。素直に喜べないこの感じは。
無言のまま静かに硬直した刹那を気にも止めずに二人は明るく続ける。
「刹那なんかに私達が負けるはずないんだから、怖がっても、ねぇ?」
「…………その通り」
そのおちゃらけた言い様に刹那は軽く絶望し、眉間に指を添えて嘆息した。
それを見た六花は、今までと打って変わった優しい口調で言う。
「だから、気にしないの。刹那には私達がいるでしょう?」
「…………刹那、私達のもの」
さすがに観世の言葉にはえっと驚くしかなかったが、それは観世なりの励ましなのだと気づいて笑みが溢れる。
「……ありがとう」
刹那は小さく、しかし力強く呟いた。
自分には支えてくれる友人が確かにいる。そう思うと力がみなぎる。
まず自分の使い魔について向き合わねばならない。そう心に決めて。