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闇の魔導師  作者: 薄荷。
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1話 刹那

連載は初投稿ですが、精一杯頑張ります!よろしくお願いします。

 ゴオッ、と耳を穿つ轟音。刹那は咄嗟に両腕で顔を覆う。身体全体に風圧が迫り、足元を取られて体勢を崩した。魔物召喚というのは、それくらいの威力だった。


***


「おはよー」


 一時間目の始まりを知らせるチャイムとほぼ同時に教室に駆け込んできたのは此処、聖ファミリア・スピリッツ学園に通う少女、刹那(せつな)だった。活発さを際立たせるショートボブの漆黒の髪。大きな潤いのある瞳。男女問わず誰にでも人当たりの良いその性格で多くの人に好かれている。


 そんな刹那が絶対的に信頼を寄せている二人がいた。刹那と同級生であり同時に友達、そしてライバル。その二人が刹那に笑いかける。


「おはよう。良かったわね、17歳になっていきなり遅刻なんて、召喚先送りになるところよ、刹那」


「ちょ、冗談言わないでよ六花(りっか)!…観世(かんぜ)も、おはよう」


「…………おはよう」


 六花の縁起でもない一言に刹那は慌てて言い返す。今日は刹那にとって何より大切な日なのだ。口数の少ない観世は刹那の言葉に小さく返した。


 六花は小悪魔的な笑みを浮かべて刹那に言い寄る。


「学級長として恥ずかしくない友達が欲しいものだわ」


「……わかってるよ」


 頬を膨らませて返事をすると、その様子に観世が思わずくすりと笑う。「観世ちゃんが笑ってる」と教室の隅の方で驚いているクラスメートを一瞥してから観世に視線を戻すと、彼女はまた無気質な表情に戻っていた。


 物静かで要点しか言わない性格の為、他人から距離を置かれることが多い観世だが、心を許した存在にはいつもよりは饒舌になるし、笑いもする。


 刹那は観世が自分に気を許していることに優越感を感じて自然に笑みを溢した。


「…………何、刹那。気持ち悪い」


気を許している分、容赦もないが。


 一方の六花は学級長を務める秀才である。学園内でも一位、二位を争う魔術を使うことで有名だ。人付き合いは良好なのだが、あまりの秀才ぶりに、人はなかなか好んで近づいては来ない。観世とはまた別の意味で浮いていた。


 そんな二人とは特に気が合い、気づけば自然と行動を共にする仲にまでなっていた。


「いよいよ私にも使い魔がもらえるんだ」


 そう。刹那は17歳を迎える今日、自らの魔物を召喚することが出来る。


 学園名である『ファミリア・スピリッツ』は、和訳すれば『使い魔』という意味になる。此処は使い魔を行使し人間と共に戦っていく精神を養う目的でつくられた学校。


 残念ながら自らで種族や存在を選択することは叶わないが、それにより本当に自分と相性の良い存在と巡り会うことが出来る仕組みになっている。


 六花と観世はすでに17歳を迎えていて、それぞれ攻撃力のあり、非常に息のあう使い魔を常に召喚している。六花の使い魔は一見フェレットのような小動物で、水の種族。観世は逆にこれと言った形はないが、大地の種族である広葉樹。


 攻撃力は自らの力量に見合うものの為なんとも言えないが、刹那は六花のような可愛らしい生き物の使い魔を夢みていた。


――六花みたいな可愛い動物かな?それとも観世みたいな植物かな?


 刹那は放課後に行われる使い魔召喚の催しに胸を躍らせた。


***


「これより、魔物召喚儀式を執り行う。No.143259は所定の位置につけ」


 自分の番号が呼ばれた刹那は、言われるままに体育館程の陣の中央に設置された椅子に静かに腰を下ろした。


 召喚用の漆黒の衣装に身を包み、ゆっくりと周りの様子を窺うように視線を巡らせる。一面目を覆いたくなるほどの真っ白な世界。下の魔方陣以外は何も無く、誰もいない。


――牢獄みたいだ。


と、刹那は思った。急に不安になって震え始めた指先をしっかりと握りしめて次の言葉を待つ。


 不意に遠くからカツカツと靴音がして振り返ると、そこには同じく礼服を纏った刹那の担任、兼、魔物召喚技術を持った月闇が現れた。


 月闇はメガネの奥の冷徹な瞳で静かに刹那を見やり、そして口を開いた。


「使い魔は自分よりも下級な人間に従うことはまずない。己を失わず、威厳を持て」


理解(わか)っています」

 

月闇は目を瞑り、そして魔方陣に手を(かざ)す。


「その(むすめ)に理解能わざるものにその深き能力(チカラ)を授け(たま)え。汝は能力の充つ者也


出でよ」


その、後。


ゴオォォォォォッ


 鋭い針のような神風を撒き散らし、魔方陣が突如揺らめいた。かと思うと、目映(まばゆ)いばかりに発光を始めた。


「……く、ぅっ」


風圧で体制を崩しながらも足元を踏みしめその衝撃に耐える。


[お前か……?俺を呼ぶのは……]


その聞いたことのない声に慌ててあたりを見回す。が、誰もいない。


刹那はその声の主に向かって声を張り上げた。


「……私にっ、能力(チカラ)をっ!」


暫しの沈黙の後、今までの突風が嘘のように止んだ。


[……名は何と申す]

 

「刹那!!」


[刹那か……悪くない。いいだろう。我こそ其方に相応しい]


その言葉を最後に、目の前が再び眩しい光に包まれ、刹那の胸元に吸い寄せられるように集まった。ギュン、と音を立ててその光が刹那の中に入っていく。


ーー熱っ!


刹那はその熱さに耐えきれずに目を強く瞑り、治まると同時に安堵で身体の力が抜けてその場にへたり込み、そしてそのまま意識を失った。


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